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素晴らしき結束 02


イザークとディアッカがヴェサリウスへやってきた時、目当ての人物は食堂にいた。

「はい、どうぞキラさん」
「ありがとうニコル。いっただきま〜す」

ぱくり。

「美味しい〜〜」

見ている方が微笑ましく思えてしまうほど幸せそうな笑顔を浮かべて、キラがテーブル越しにニコルを見つめる。

「今まで食べたケーキの中で、一番美味しいよ!」
「よかった。母さんが手配してくれたみたいで、丁度今日届いたんですよ」
「うわあ、これならホール1つくらい食べられそう」
「ふふ。まだあるので、沢山食べてくださいね」
「うん」

子供のように目を輝かせてキラが食べているのは、プラントでも指折りの洋菓子店のシフォンケーキだ。
『新鮮な美味しさをどこへでも』というキャッチフレーズで、近隣のコロニーはおろか地球でも人気があるというその店は、一体どういう手段を使ってか、指定した期日に本当に作りたてのケーキを届けてくれるのだ。
最も戦艦に届けたのは今回が初めてだろう。
幸せそうにケーキを頬張るキラと、それを満足そうに眺めているニコル。
それはまるで放課後のカフェテリアのようなほんわかとした空気を纏い、見ている者を幸せな気分にさせていた。

「?」

足音を立てないようにこっそりと近づいてくるイザークとディアッカに、最初に気付いたのはニコルだった。
そればかりか気配まで消しているので、おそらくケーキに夢中になっているキラには彼らが来ていることすら気付いていないだろう。
何を考えているのだろう、とニコルはわずかに首をかしげ、2人の顔に笑みが浮かんでいるのを見て、何か企んでいるのだろうと察した。
ディアッカが背後に隠している紙袋が、このうえなく怪しい。
おそらくターゲットは、2切れ目のケーキに手を伸ばしているキラ・ヤマト。

(この展開は…)

「あれ、どうしたのニコル。食べないの?」
「あ、あぁ…。勿論頂きますよ」

そう言ってフォークを持つものの、意識はすっかり背後の金銀コンビに向けられている。

「ニコル?」

どうも様子がおかしいことに気付いたキラが、再度ニコルに問いかけようとすると。

「よう、キラ」

ものすごく爽やかに、イザークがキラの肩に手を置いて挨拶した。

「うわぁ!イ、イザーク!?」

いきなり背後に忍び寄られて驚かないわけがない。
キラは持っていたフォークを放り投げ、慌てて椅子から立ち上がると、そのままイザークから距離を取るようにテーブルを回り込んだ。

「怖いから背後から急に声をかけないでって言ってるじゃないかっ!」

そう言ってささ、とニコルの背中に隠れる。

イザークがこうやって背後から声をかけると碌な事がない。
前回はイザークの口車に乗ってしまい、MSのシュミレーションシステムをシューティングゲームに改造してしまい、クルーゼとアスランにこっぴどく叱られた。
前々回はまたもやイザークの口車に乗せられて、シグーを黄色の水玉模様に変更してしまい、クルーゼとアスランにこっぴどく叱られた。
そしてそのまた前回はこれまたイザークの口車に乗せられて、ヴェサリウスからプラントにハッキングを行い、途中で発見したクルーゼとアスランに(以下略)。

とにかく、本当に碌な事がないのである。
ニコルの背後からじと〜っと睨みつけると、イザークはそんなキラを軽く笑って、

「ニコル、キラ捕獲」

と告げた。

「えっ…?」

言葉の意味を理解するよりも早く、ニコルがキラの腕を掴んだ。
不思議そうに顔を覗きこむと、若草色の髪の少年は無邪気に微笑んでいた。

「ニコル?」
「だって頼まれちゃいましたから」

てへ、とでも言うかのように可愛らしく小首を傾げてニコルは笑う。
ピアニストの握力は結構侮れない。
キラが振り払おうとしても、まったくびくともしないのだ。
ディアッカが含み笑いをしながら近づいてくるのに気付いて、キラは距離を取ろうと焦る。

「ニコルは僕の味方だよね? ね!?」

だから離して。
涙で潤んだ瞳でそうお願いすると、ニコルは一瞬だけ辛そうに視線を伏せた。

「すみません、キラさん…」

そして顔を上げると、そこには無邪気な悪魔がいた。

「僕は面白いほうの味方なんです」

いっそ潔いくらいにきっぱりと。
ニコルは笑顔でそう言い切った。