企み顔としか表現しようのない笑顔の2人に挟まれて、キラは大きくため息をついた。
戦闘がなければパイロットの仕事は極端に少ない。
それならMSのメンテナンスでもしていればいいのに、この2人は暇になると決まってキラで遊ぼうとする。
何度も逃げているのだがそのたびに失敗して、結局は散々な目に合わされてしまう。
逃げるのが無理だと悟ったキラは、大きくため息をついた。
いっそ最初から大人しくしていたほうが被害も少ないかもしれない。
「で、今日は何をしようっていうの?」
あっさりと白旗を掲げたキラに、ディアッカがにやりと笑った。
「お前さ、前に私服がないって話してたじゃん」
「うん。僕ってば身一つでアスランに拉致られたからね。パイロットスーツも捨てられたし、着替えは全部アスランとニコルから借りてる」
「どうやら評議会の方でもそんな話が出たらしくてさ、うちの親父からキラの私服が差し入れされてたんだよ」
ディアッカの言葉に、キラは目を丸くする。
「はあ? 何それ?何でディアッカのお父さんが僕の服を用意してくれるの? っていうか、評議会でどうして僕の服の話なんか出てくるの?」
「そんなこと知るか。まあ、せっかくの親父の好意だからさ、キラには是非受け取って貰いたいわけよ。息子の俺としては」
「でも、悪いよ」
「子供が遠慮するな。どうせディアッカの家は金なんか有り余ってるんだから、このくらい痛くもかゆくもない。受け取ってやれ」
「実の子にすら無関心な親父が、キラの為に自分で服を選んだらしいんだよね。送り返したらショックを受けそうだしなぁ」
親子の情を持ち出されては、キラには断る手段がない。
「………わかった、ありがたくいただくよ」
「本当か?」
こくん、とキラが頷くと、目の前の2人は嬉しそうに微笑んだ。
それはもう、ものすごく嬉しそうに。
「ということで、着替えようぜ」
「え?えぇ!?」
がし、と身体をつかまれたと思ったらふわりと浮遊感を感じ、キラは自分がディアッカの肩に担ぎ上げられたのを察した。
「ちょっ…ディアッカ、離してってば!」
「逃げたら困るし、駄ー目」
「逃げる…って、どんな服……?」
何気なく向けた視界の先。
そこではディアッカから受け取った紙袋の中身をニコルが物色しているところだった。
ずるり、と出されたのは、綺麗な光沢を放つ布地。
「あぁ、これは確かにキラさんに似合いそうですね」
「だろ?」
「………」
ニコルの手に握られているのは、ライトグリーンを基調とした清楚なワンピース。
シルクなのは、その光沢から一目で分かる。
おそらくは高価なものなのだろう。
キラの顔から血の気が引いていく。
「やっ…ヤダヤダヤダ!」
「贅沢言うなよ。親父が自分で用意してくれたんだぜ」
「そうそう、折角の好意を無駄にするような奴じゃないよな、お前は」
「何でスカートなの!?」
「写真しか見せなかったから、お前のこと女の子だと思ったんだろうよ」
「でも、ディアッカのお父さん趣味いいですよね。このブランド結構しますよ」
「じゃあニコルが着なよ!」
「やだなぁ。僕が着ても似合うわけないじゃないですか」
「ほら、あまり騒ぐな」
「うるさーい!下ろせー!」
じたばたともがくキラをものともせず、ディアッカとイザークは悠々と食堂を後にした。
その後ろをニコルが着いてくる。
「騙されたーーー!!」
「人聞きの悪い。俺達嘘はついてないぜ」
「黙ってただけ」
「尚悪いー!」
「早く着替えたキラさん見たいですね」
「やだー!助けて!アスラーン!!」
「キラ?」
キラの声が聞こえたからなのだろうか、タイミング良くアスランが通路に姿を現した。
「アスラン!助けて!!」
「キラ!?」
救いの神とばかりにアスランに手を伸ばすキラの前で、アスランはその瞳を険しくしてディアッカを睨んだが、ディアッカの背後にいるニコルが持っているものに気付いて、すぐに穏やかな笑みを浮かべた。
「ア、アスラン…?」
あまりにも素早い豹変ぶりにキラが怪訝そうに声をかけると、アスランは爽やかな笑顔でキラに笑いかけた。
その様子を見れば助ける気がないのは一目瞭然で。
「キラにはオレンジも似合うぞ」
「ありますよ。この中に。ほら」
「へえ、随分あるんだな」
「ディアッカのお父さんからのプレゼントですよ。何でも評議会でキラさんの服がなくて困ってるという話が出たらしくて」
「あぁ、それなら俺が父上に頼んでおいた件だな。父上からも届くはずなんだが」
「元凶は君か!!アスランッ!!」
「さあて、着替えましょうねキラさん」
「やっぱり一度は袖を通さないとな」
「そうそう、それが礼儀ってもんでしょ」
「大丈夫、キラならきっと似合うよ」
「う〜〜っ!皆、覚えてろ〜!!」
そうして部屋に拉致されたキラは、タッドの送ってきた服すべてに着替えるまで、部屋から出ることは許されなかった。
そしてその時の写真が評議会のタッドの元へ届けられ、それを見たほかの評議会議員も我先にとヴェサリウスへ物資を送るようになったのは、また別の話。