忍び寄るのは――
恐怖なのか歓喜なのか――
廃棄されたコロニーにしてはセキュリティが厳重すぎる。
規模こそ大きくないものの、一歩足を踏み入れればここがどれだけの重要な拠点であったか想像に難くない。
いくつか残された研究データ、だがそのほとんどは厳重なセキュリティに封印されており、アスランやニコルの腕をもってしても、なかなかに骨の折れる作業ではあった。
「――くそっ! トラップが多すぎる」
「複雑に見せかけて単純。かと思えばほんの些細なミスも許されないほど緻密だったりしますからね」
異変に気付いたのは、システムを掌握して3分が経過してからだった。
データの回収に当たっていたアスランの手が不意に止まる。
画面の前に映し出される数々の映像。セキュリティシステムが稼動状態だったために、コロニー内の要所がいくつも映し出される中、一つだけ腑に落ちない光景があった。
「アスラン?」
「――見ろ」
ただ一室、一見すると倉庫にしか見えない部屋。
監視カメラをつけておく必要性などまるでないように見えるが、そこにだけ2台の監視カメラが設置されている。
「ただの倉庫、というわけじゃなさそうですね」
「要人のプライベートルームにしちゃ狭すぎるしな」
見れば見るほど何かが隠されているようにしか見えない。
あの扉が怪しい。
「アスラン――? どこへ行くんですか?」
「あの部屋を捜索してくる。皆はそのままデータの回収を頼む」
「待て、俺も行く」
立ち上がったアスランの肩を押さえたのは、イザークだった。
アカデミーではイザークがつっかかってきて決して気が合うとは言えない同僚だが、こと実力に関しては文句なく頼れる同僚だった。
反対する理由も時間もない。
「――わかった。頼む」
「2人とも、念のため武器は携帯していってくださいね。わかる範囲で生命反応はありませんが、この先何が起こるかわかりませんから」
繊細な手から渡された銃を手に、アスランとイザークは廊下に出る。
目的の場所はここからそう離れていない。
まっすぐ進んだ通路のつきあたり、監視するには最適な場所だとアスランは心中で思う。
白い扉を開けると、そこは監視カメラで見るよりも狭い部屋だ。
扉に鍵はかかっておらず、その先には同じような空間が広がっているだけ。
少なくとも最初はそう見えた。
だが――。
「アスラン。――見ろ」
「隠し扉?」
壁にしか見えないその一角にわずかに隙間が見えた。
監視モニター程度の雑な映像では気付かないだろう、ほんの少しの境界。
「どうやらただの倉庫ではなかったらしいな」
声を潜めて揶揄をしつつ扉を開けると、そこは先程自分達がいた場所よりももっと精密なシステム管理室だった。
「管理室が二重…?」
「なるほど、向こうはダミーか。ナチュラルにしては頭を使っているじゃないか」
目の前に広がる無数のモニター画面。
細分化されたそれを目で追っていけば、最初から抱いていた疑問はあっさりと解消された。
「何が廃コロニーだ。ナチュラルどもの巣窟じゃないか」
モニターの端々に見える白衣姿の男性の姿に、イザークが毒づく。
どうやらここからが本当の施設だったのだろう。
何かの研究施設だろうか、数多く並べられている薬品の量が半端ではない。
医療機関にも見えるがそれにしては患者の姿が見当たらないし、何よりもここまで存在を隠すような医療機関などないだろう。
とにかくデータの回収だけはしておかなければとディスクを設置すると、先程とは比べ物にならない膨大なデータが保存されていた。
「ニコルたちを呼び寄せるか。これは俺達だけでは手に余るだろう。あいつらもできることなら捕らえたほうがいい」
「ああ、そうだ、な――!?」
意識は画面に向けながら返事をしていたアスランの動きが不意に止まった。
それにつられるように画面に視線を向けたイザークは、その双眸を大きく見開いた。
「これは……」
目の前に映し出されたのは、まるで標本のようにカプセルに保管された状態の人間の姿。
少年と呼ぶには若すぎる子供や少女、更には女性が、全裸のまま溶液の中に漂っている。
生気のない――明らかに死体とわかるそれらの前では、白衣の学者が何事もなかったかのように研究を続けている。
まるでオブジェの一つでもあるかのように一顧だにせず己の研究に没頭する姿は異常としか呼べない。
時折視線が向けられることがあるがその表情に悔恨や恐怖の類は見られず、それが更に常軌を逸している。
「一体、ここは何の研究施設なんだ…」
理解できない現実。
研究には犠牲がつきものだ。
ここがもし難病やウイルス研究の施設で、目の前の死体達がそれらに感染して亡くなった患者だとしても、それでもこんなふうに見世物のように飾ったりはしないだろう。
死者を冒涜しているとしか思えないその行為に、耐え切れずモニター画面を切り替えれば、次に表れたのは更に残虐な光景。
ガラス張りの壁に並んでいるのは、一抱えほどの硝子の瓶。
だがその中にあるのは頭部――こちらも年端のいかない少年少女のものだった。
- 07.02.09