扉の向こうに何があるのか――
それはまだ誰も知らない――
始めから奇妙だとは感じていた。
極秘の命令だと念を押されていたものの、所詮はナチュラルの持つコロニー。
ましてや廃棄されてから十年以上も経ている廃コロニー内の捜索に、一体どれだけの危険が伴うのか。
だが一歩足を踏み入れてしまえば、そこは意外なほどに荒廃しておらず、とても十数年もの間無人だった場所には思えなかった。
建築物の老朽化は進んでいるものの、奥にある施設はまるで最近まで使用されていたかのように整然としており、先程掌握したシステムも最新鋭のものと何ら遜色ない。
これが何を意味するかわからないはずがない。
目の前に広がる廃墟とは名ばかりの作られた空間に自然と目線が険しくなる。
「…誰だよ、今回の任務が簡単だって言ってたのは」
どうやら目の前の不自然さに疑問を感じたのは自分だけではないのだろう。
1歳年上の同僚の声には不機嫌さが表れていた。
「何かあるのは間違いないようですね」
「何かって何だよ。どう見ても普通の廃コロニーじゃん」
「ラスティ、もう少し状況把握をしてください。ここが十年以上使われていない廃コロニーだというなら、どうして今もここの空調設備が生きているんですか。空調設備だけじゃない、重力も照明も警報システムも。誰もいないというのにこんなことありえないでしょう」
若草色の髪の少年があまりにも楽観的すぎる同僚をたしなめるように告げる。
確かに少年の言う通り、長い間放置されてきたというわりにはこのコロニーは通常のものと大差ない。
これで何もないなど信じることができるだろうか。
「まったく隊長ってば、新人の俺らに一体どんな難問持ってきたんだよ」
「うるさいぞディアッカ。どんな難問であろうと失敗などできないだろうが」
「だけどよ、明らかに胡散臭いぜこれ」
「だとしてもだ。それなら尚のこと任務を遂行して俺達のことを認めさせるしかあるまい」
「へいへい」
目の前で4人が会話をかわしながら進んでいくのを、アスランは少し離れた場所からついていく。
先程から違和感が拭えない。
そもそも極秘の命令にアカデミーを卒業したばかりの新人を使うことすらおかしいのだ。
クルーゼ隊が精鋭揃いだからという理由も、もっともらしいが違和感に満ちている。
ラウ・ル・クルーゼは確かにザフトにおいて一・二を争うほどの実力者だろう。
その武勲は数え切れず、本当ならば特務隊にでもフェイスにでも迎えられていてもおかしくないほどの人物だ。
自身の上官として間違いなく尊敬に値するが、だがこの任務はクルーゼの得意とするMS戦ではない。
潜入捜査もしくはスパイ行動と呼ばれるこの任務が、果たして初陣もまだの自分達に与えられるような簡単な任務なのだろうか。
この一見ただの研究施設にしか見えない――その実隠しきれない胡散臭さの漂うこの研究所には、一体何が隠されているのだろうか。
そして――。
(隊長は何を考えているんだ――?)
配属されたばかりの新人5人に与えられた初任務。
『エリア13に廃墟されたコロニーが発見された。君達はそちらに赴き全データの回収及びコロニーの破壊を命ずる』
わずか5人――しかも実戦の経験などまるでない少年達には重大すぎる任務だ。
驚愕に目を瞠る者、喜びに目を輝かせる者、そして胡乱げに眉を顰める者など反応は多々であったが、クルーゼは面白そうに任務を告げた。
『何、大して難しいものではない。放っておいても問題はなさそうだが、レジスタンスやナチュラルが根城としていては困るのでね。――ああ、万が一コロニー内に何者かを発見した時は、君達の判断で決めてよい。殺すも――生かすも』
最後の一言が気になったが、軍の規律で新人が上官に質問など許されない。
明らかにアスランに向けられた言葉。
まるで誰かがいることがわかっているかのようなその物言いと含んだ笑みが、どうしても気になった。
おそらくこれはクルーゼが言うよりも、よほど複雑な事態なのではないだろうか――。
そしてそれは間違いではなかったのだ。
- 07.02.05