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Cry for the moon 13


どれほど歩いても一向に変わることのない景色。
幼年時代を過ごしたあの森より規模は小さいもののそれなりの広さであることは想像していたが、既に森に入ってから数刻が経過している。
頭上を照らしていた陽光も次第に傾き、今や西へと傾き始めていた。
目的の場所は未だ見えず、それが何者かの仕業によるものか彼らは十分に気付いていた。
ここは魔の森。
精霊の住処。
彼らが望まない限り、アスラン達の前に道が開かれることはない。
それを甘受するわけではないが、打開する方法がないのだから仕方ない。
闇の一族と呼ばれヴァンパイアとして1,2を誇る実力を持っているアスランではあったが、その能力は精霊王の持つそれは比べるべくもない。
彼が道を閉ざしている限り、アスラン達はどれほどあがこうと道を見つけることはできないのだ。
それがわかっているから、彼らは無言で森を進む。
招かざる客、そうならないことを祈りながら。





   ◇◆◇   ◇◆◇





陽は大きく傾き、木々の隙間から見えていた明るい世界は次第に夕闇の色へと変化していく。
木々に囲まれた森の中はすでに闇に包まれており、夜行性の動物達が少しずつ活動を開始し始めていた。

道は唐突に開かれた。
闇に包まれていた森の中に突如現れた一陣の炎。
進路を阻むかのように唐突に舞い上がった炎に警戒の色を見せるアスラン達の前で、炎の中から一人の女性が現れた。
女性と言うよりは自分達と同年代らしき外見の少女。
真紅の髪は燃えるような赤で、向けられる視線はきつい光を浮かべており、目の前の少女が持つ矜持の高さを窺わせた。

「………」

面白くなさそうに顰められた綺麗な眉は、彼女の態度以上にその心情を表しているが、果たしてそれが自分達の来訪の目的に対してなのかそれ以外の理由に対してなのか、一向に言葉を発しない彼女からは分からない。
ただ、明らかに彼女には歓迎されていないということだけは間違いようのない事実であろう。

「何しに来たのよ」

不機嫌を隠そうともしない尊大な問いかけにイザークの眦が吊り上るものの、さすがにここで揉めるのは得策でないとわかっているのか、拳を握り締めて怒りを押し込めているイザークの姿を視界に捉えながら、アスランは目の前の少女へと向き直る。

「我々の宝を受け取りに来た」

ぴくん、と吊り上る眦に、どうやら目の前の少女の性質はイザークと同類なのだと感じる。

「キラ・ヤマトを返してもらおう」
「…嫌だって言ったらどうするつもり?」

挑むような口調にアスランの視線も険しくなる。

「強引に通る? あたしの結界すら見破れない闇の子が?」
「何だとこの女…っ!」

「やめなさい、フレイ!!」

思わず激昂しかかったイザークの声にかぶさるように響いた別の声に視線をやれば、フレイと呼ばれた少女が姿を現した時と同じ場所に同年代らしき少女の姿があった。
茶色の髪の優しそうな少女。
その視線はきつく赤髪の少女に向けられている。

「わざわざ相手を怒らせてどうするのよ」
「だって、気に入らないんだもの」
「だってじゃないでしょ。王は迎えに行くように言っただけで、喧嘩を売ってこいなんて一言も言ってないわよ」
「分ってるわよ! そんなことよりミリアリアこそどうしてここにいるのよ!?」
「心配だったからに決まってるでしょう。案の定険悪なムードになってるし…まったく」

呆れたようにため息をついて、ミリアリアと呼ばれた少女はアスランへと向き直る。
振り返った視線は先ほどフレイに向けていたものとはまったく違う。

「彼女が失礼な態度を取ってごめんなさい。根は悪い子じゃないの。ちょっと独占欲が強いだけで…」
「あぁ、いや、別に…」

申し訳なさそうに告げる彼女に怒りを向けることができるはずもなく、どこかバツが悪そうに言葉を濁すことしかできない。
そんなアスランの様子をどう捉えたのか、ミリアリアは小さく笑って道を指し示した。
彼女の示す指の先、延々と続くかに見えた森の景色が一瞬で変化する。

細く続く光の道。
森の中に突如現れた大きな湖。
その中心に浮かぶ、白亜の宮殿。
湖面に輝く光を受けて輝くそれは、幼い頃過ごしたそれに酷似していた。

息を呑む彼らに、ミリアリアは柔らかく微笑む。

「さあ、どうぞ。王がお待ちです」


  • 06.04.23