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水鏡の邂逅 02


「…ラ、キラってば!」
「えっ?!」


突然大きな声で名前を呼ばれて顔を上げれば、目の前に不機嫌そうな顔があった。
物心つく前から一緒にいた幼馴染の眉が怪訝そうに顰められている。


「フレイ? どうしたの?」


何故不機嫌そうなのかわからずきょとんと首を傾げるキラに、目の前の幼馴染――フレイは呆れたようにため息をついた。


「ぼやっとしてるから気分でも悪いかと思ったら…まったく」


白い指が髪をかきあげる。
萌える燃える炎のような鮮やかな赤い髪がはらりと風に舞い、彼女の容貌を縁取る。
神殿という閉鎖的な場所には似つかわしくないほどに彼女は美しい。


「僕、ぼやっとしてたの?」
「自覚がないんじゃ重症よ。何か悩みでもあるの?」
「ううん、別に」
「別にって感じじゃなかったけど。あんた、あたしに隠し事が出来ると思ってるの」
「思ってないし、本当に悩みはないんだよ」
「ならいいけど」


納得しきれない様子で、だがキラの表情に憂いを見出せなかったためにフレイはそれ以上追求してこなかった。
単なる一巫女が王家の姫であり神殿の巫女媛に対する態度ではないが、幼い頃から続いた関係には身分や儀礼的な態度など関係ない。
むしろフレイが他の巫女同様敬意を持ってキラに接すれば、傷つくのはキラのほうだとフレイは十分すぎるほどわかっている。
フレイにしてみればキラは唯一無二の大切な存在であるのだが、キラにとってもフレイは唯一無二の大切な幼馴染なのだ。
それはフレイ同様ミリアリアにも同じことなのだが。


勿論キラが祈りを捧げる神の間や他の巫女達がいる前でまで同じような態度を取るわけにはいかないが、今彼女達がいるのはキラの私室。
キラの許可がなければ入室は不可能な場所であるために、キラもフレイも、そしてミリアリアも誰に気兼ねせずとも幼馴染の会話を楽しめる。


「でも、本当にここのところ変よ。食事の量も少し減ってるみたいだし、この間の星見で何か悪い結果でも出たの?」


切り分けた果物をキラの前に差し出しながらミリアリアが問うと、キラは驚いたように目を瞠った。


「ミリィ…?」
「ここのところ深夜になると水鏡のところへ行ってるでしょう。そのせいじゃないの?」
「ううん、それは全然関係ないよ。星は何も言ってこないし、収穫も例年通りだと思うから」
「あら、じゃあ何で?」
「だから、特に理由はないんだ。外の世界を見てるだけでも楽しいし」


そう答えながら、キラは内心の動揺を必死で押し隠す。
さすがは幼馴染と言おうか。キラの行動は逐一把握済みらしい。
だが、これは2人にも言えないことなのだ。
それは国の行く末とはまったく関係のないことだし、何よりもキラ自身が誰にも知られたくないと感じていることだから。
食べやすいようにカットされた桃をつまみながら、キラは笑顔を浮かべた。






顔が、熱い。


  • 07.08.10