一体どうしたというのだろう。
キラは隣に座る青年の姿を眺めながらそう思う。
普段ならば他愛のない会話に花を咲かせるというのに、今日に限って難しい顔をして黙ったまま。
キラの存在を忘れているわけではないが、気がつくと何やら思案顔で空中を凝視している。
仕事が忙しいのだろうか。
キラ自身国の中枢に位置する斎姫だが、父や兄姉のように国政に関与する地位には立っておらず、為政者としての苦労は何一つ知らない。
だが、自分と違いアスランは大国の王太子だ。
その肩にかかる責任はキラよりも大きいのだろう。
他国の内情など知らないキラでも、一国を争いごとなく治めるということは並大抵のことではないと思う。
しかも四方を天然の要塞で囲まれたオーブと違いザフトは陸続きだ。
他に類を見ないほどの大国だとは言え、近隣諸国の侵略の脅威は皆無ではいだろう。
気にならないわけではない。
だが聞いたところでアスランが弱音を吐いてくれるとは思えない。
そしてキラ自身も聞いたところで何の力になれるわけではないのだ。
4歳の時から神殿に入り、オーブの斎姫として俗世と隔絶して生きてきた。
そんなキラがアスランに対して提言を出来るはずもない。
キラができることといえばこうして傍にいることと、少しでも気持ちを慰められるように舞を披露することだけだ。
自分の無力さに哀しくなるけれど、それでもキラにできることは他にないのだから仕方ない。
こうして傍にいてくれるだけで十分だと言ってくれるから、キラは今の自分に出来ることをするしかないのだから。
それでも何もできない自分にひっそりとため息をつくと、アスランが不意に顔を上げた。
ほんの小さなため息だったけれど聞こえてしまったのだろうかと思ったが、瞳に宿る強い意思にどうやら違うようだと安堵する。
向けられる瞳は鮮やかな翡翠。
相変わらず綺麗だなと思う。
この瞳の中に自分が映ることになるなんて想像もしていなかったけれど。
「キラ!」
「はっ、はい」
急に改まった口調で呼ばれて、思わず背筋が伸びる。
どうしたのだろうと小首を傾げる寸前、アスランが言葉を続けた。
「結婚してほしい」
「はい…って、……………………………えぇっ!?」
それは突然のプロポーズだった。
- 08.09.01