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MY LITTLE LOVER 05


「なるほどね」

レイが気のすむまで手が出せない以上、ユダができることと言えばルカに全ての事情を説明することだけだ。
シンの不遇を酒の肴にされるのは正直面白くはないが、相手がルカなのだから言っても仕方あるまい。
シンは人に知られたくなかったようだが、既にルカどころかレイにまで知られてしまっている。
それなら全て説明して協力してもらうのが最適だと判断したのだ。
尤も元に戻るのにレイが協力してくれるかどうかは甚だ微妙なところだが。
事情の説明には時間はかからなかった。
なぜなら、

『ゼウスの悪ふざけでシンの身体が幼くなってしまった』

この一言で終わってしまうのだから。
ルカも大体は予想していたのだろう。
天使の身体に異変が起きることなど通常ではありえないため、犯人を推測するのはそれほど難しいことではない。
ユダのように全知全能の神であるゼウスがそんな馬鹿馬鹿しいことをするわけがないと思ってしまえば結論に至るには時間がかかるのだが、生憎ルカはユダほどゼウスに対して全幅の信頼を置いているわけではない。
勿論敬意は抱いているのだが、過去何度となくゼウスの悪ふざけに突き合わされた挙句後始末を任されてきた身としては、常識で考えられないことが起きた時はまずゼウスを疑うのがルカにとって自然だったからだ。
そして今回もその通りで犯人はゼウスだった。
何を驚くことがあるだろう。

「まったくゼウスにも困ったものだ」

しみじみと呟くユダだが、そもそも原因はお前にあるのだとルカは言いたかった。
ユダの言葉がただの軽口ならばゼウスは実行しなかっただろう。
その言葉の奥に本音が隠れていたからこそ、ゼウスはシンを子供にしたのだ。
とは言えそれを伝えたところでシンがすぐに戻るわけでもないし、逆にユダが落ち込むだけだ。
この親友は意外と繊細だ。
そして落ち込むと浮上させるのが大変なのだ。
とりあえず全ての罪はゼウスに負わせることにしよう。
最後の1杯となった果実酒を喉に流し込み、ルカは心の中で呟いた。







   ◇◆◇   ◇◆◇







シンが解放されたのは、それから数刻後のことだった。
太陽は既に西へと傾き始めている。

「流石にシンは可愛らしいですね。何を着せても似合うので困っちゃいますよ。もっと前に教えてくれたら準備もたくさんできたのに。天空城の中庭に咲く花で花冠を作るのも良いですし、朝露の糸でたっぷりとドレープのついたチュニックだって作れたのに残念ですね。あぁ、でもそろそろ食事を作らないとお腹すいちゃいますよね。シンは食が細いからきちんと食事は摂らないと」

満足したというよりも食事の支度をしなければいけないから出てきただけなのではないかというほど未練たっぷりなレイの姿に、流石のユダもルカもシンに同情を隠せない。
そんなシンと言えば、表情だけでなく顔色も悪い。
一体どれだけの服を着替えさせられたのだと思うが、床に所狭しと広がっていた布の山を見ればおおよその見当はつく。
完璧主義のレイのことだからメイクや髪型も毎回違ったのだろう。
激しく疲れる行為であることは間違いない。

ふらふらと部屋から出てきたシンは、レイに促されるままユダの隣の椅子へと腰を下ろす。
レイの渾身の作だと言うシンの姿は、普段のシンならば絶対に身に着けない女物だ。
しかも神々が好む純白のキトンである。
光沢のある白い布は大きな襞の中に細かい襞をいくつも重ねたもので、見事な細工が施された銀のブローチで留められている。
髪はゆるく結われ、所々に白い小花が編み込まれている。
そんな姿はどこからどう見ても愛らしい少女神である。
ようやく解放されたシンは、疲れ切った表情でユダを見上げた。
その眼差しが軽く潤んでいるのは見間違いではない。

「だから嫌だったんです」

何がと聞くまでもないだろう。
普段ならどんな状況であってもまず第一にレイに相談していたシンが、あそこまでレイに助力を求めることを拒んだその理由。
おそらくその口調から、少年天使だった頃にも同じようなことがあったのだろうと推察できる。
何とも不憫な話だ。

「だが似合っているぞ」
「……嬉しくありません」
「シンには悪いが、俺は嬉しい。こんなに綺麗なシンを見ることができたのだからな」

結い上げた髪が乱れないように軽く撫で、そしてその手を白い頬へと滑らせた。
片手で顎を持ち上げればきょとんとした表情だったシンの顔が真っ赤に変わる。

「あぁ、だがやはりルカに見せるのは勿体ないな」

自分の腕の中に閉じ込めて、誰にも見せたくない愛らしさだ。
ルカに見せつけるように淡く色づいた唇に軽い口づけを落とせば、ルカは面白いものを見たと小さく笑う。
そんな大胆な行動に真っ赤になって俯いてしまったシンを腕の中に抱き込んだユダは、やはり少しはゼウスに感謝してもいいかなと、シンにとってはとんでもない感想を胸に抱いた。



  • 12.03.21