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MY LITTLE LOVER 04


ゼウスの悪戯でシンの身体が幼くなってしまいました。
そんな嘘のような本当の話をどうやってシンに伝えようかと頭を悩ませながらユダは家路へと向かっていた。
ただでさえ近くはない距離。
不安な思いを胸に抱えたままユダの家で待っているシンのことを思うと一刻も早く戻りたいと思うのに、この真実をどうやってシンが傷つかないように伝えようかと思えば急ぐべきはずの足取りも重くなってしまうのは仕方ないだろう。
ゼウスの欠点は悪ふざけが過ぎるという点だ。
本人にとっては他愛のない遊び。
だが全知全能という肩書を持つゼウスが行う悪戯は天使にとっては想像以上の大惨事になることが多くて、今回がまさにそれだった。
説教なり鉄拳なりを下そうと思ったのだが逃げてしまったゼウスを探し出す時間が勿体ない。
とりあえず今度のことはしっかりと女神に告げ口をさせてもらおうと思う。
ユダと違って女神の説教は容赦がないはずだから、とことん絞られてしまえばいいのだ。
それより問題はシンである。
己の身に降りかかった災難が神のお茶目な悪戯だと知った時のシンがどのような反応をするか想像がつかないのだ。
良くて落胆。悪ければ更なる引きこもりである。
そうなれば必然的にユダと四六時中一緒にいることになるから、それ自体は決して嫌ではないのだが、そうなった際のシンの精神状態が激しく不安だ。
被害者であるシンは一度くらいゼウスに鉄槌を下しても良いのではないかと思うが、穏やかな気質のシンがそれを望むかどうかは別である。

自然と重くなる足を、それでも待っているシンのためになるべく速く動かして家路へと向かう。
任務から戻って数日だから自分を訪ねてくる相手もいないはず。
仮にいたとしても今のシンが応対に出るとは思えないが。
シンへの慰めの言葉を考えながら進めばようやく自宅が見えてくる。
変わりがなさそうだと安心して扉を開ければ、そこにいたのは見知った天使の姿。

「やあ、お邪魔しているよ」
「ル、カ…」

勝手知ったると言った感じで椅子に座り果実酒を片手に嫣然と微笑むのは、ユダが生を受けた時から一緒に過ごしている相棒。
長い脚を優雅に組んで果実酒を煽る姿は神々の一員だと言われても過言でないほどの美麗さだ。
ルカがユダの家に勝手に入ってくるのはいつものこと。
誰よりも長い年月を一緒に過ごしてきたルカだから、ユダも今更彼を咎めようとは思わない。
だが…。

「…いつ、戻ってきたんだ」

ユダは寝室へと続く扉へ一瞬だけ視線をやりながらそう訊ねた。
ユダと同じ日に別の任務を受けたルカは、予定ではあと数日かかるはずだった。
彼は優秀だから早めに任務を終了させたのだろうとは分かっていたが、ついそんな言葉が口から洩れたのはおそらくは寝室で隠れているだろうシンが気にかかったからだ。

「今朝だ。陽が昇る少し前に戻ってきたんだが、ゼウスに報告に行く前にお前の顔を見ておこうと思ってな」
「そうか。それなら丁度良かった。ゼウスなら今はいないから日を改めた方がいい。疲れただろう、今日はもう家に戻って休んだ方がいいぞ」

さりげなさを装ってルカを帰そうとそう言えば、目の前の赤い瞳が面白そうに細められた。

「何だ。いつもなら一緒に飲もうと誘ってくれるものを。随分冷たいじゃないか」
「悪いが今夜は先約があるんだ」
「それは、あの可愛らしい少年天使のことか」

にやり、と笑うルカに一瞬返答に困ったユダの耳に届いてきたのは、小さな、だがはっきりとした拒絶の声。



『…も…ぅ、…ゃ…っ、……て………』



透明な鈴の音のような声にユダの顔が強張る。
声がしたのは寝室で、ルカがいるのだから他の天使がいてもおかしくはない。
おかしくはないが、では何故シンがここまで切羽詰った声を出しているのか。

くすくすと笑う声が耳に届く。
笑ったのはルカだと分かっているが、シンの悲痛な声を聞いてどうして笑っていられるのだろうか。

「ルカ」
「私は何もしていないさ。私は、ね」

そう言ってルカはおどけるように肩を竦めた。
飄々としたルカに理由を訊ねるより、直接この目で見た方が早い。
相手はこの扉の先にいるのだ。

「シン!!」

音がしそうなほど激しく扉を開いた。
何が起こっているのかと思い、必要とあれば誰であろうと力にものを言わせてでもシンを守るつもりだ。
だが…。

開かれた扉の先にいたのは愛しいシンともう1人。



「もう嫌なんですってば!」
「駄目ですよ。まだまだたっくさんあるんですからね。さ、次はこっちです」
「本当に勘弁してください…」



ぐったりと、それこそ精も根も尽き果てたように座り込むシンと、花でもまき散らしそうなほど上機嫌なレイ。
足元に山と積まれているのは子供服だろうか。
今朝とは違う服に身を包んだシンの様子を見て、ユダは全てを理解した。
レイは無類の可愛いもの好きだ。
先日のあの力説ぶりとシンの不自然な拒絶を考えれば答えはすぐに見つかった。

「ユダ! 助けてください!」
「駄目ですって言ってるじゃないですか」

ユダに気付いたシンが服の波を押しのけて駆け寄ろうとするが、大量の布に足を捕られて転びそうになったところを受け止めたレイがその身柄を拘束してユダへと振り返る。

「お帰りなさい、ユダ。すみませんけど、しばらくシンをお借りしますね」

邪魔するなと言わんばかりに力のこもった笑顔を向けるレイの迫力に押されたユダは、小さく頷くとゆっくりと扉を閉めた。
扉の向こうで愛しい恋人の悲鳴が聞こえたような気がしたけれど、とりあえず聞かなかったことにした。

  • 12.03.15