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Continued Story 03


大公位に就いたユダが最初に手がけた政策は、国内の腐敗を撤廃することだった。
まずは既得権益の大部分を独占していたゼウスの国外追放を発表。 その財産の全てを没収した上で、それらを国内の環境整備に振り当てた。
次いで行ったのはカジノの撤廃。
反対意見も少なくなかったが、それらは主に自身の利益のみに執着する人物であったてめ、ユダはそれを独断で棄却させ、即位して1週間後にはマフィアの国外追放と違法カジノの全撤廃を発表した。
ゼウスの腰巾着と化していたマフィアのほとんどはゼウスが国外逃亡したと知るや否や国から撤退した。
残っているのは彼らの下で甘い汁を吸っていた単なる下っ端に過ぎず、国連を味方につけたユダにとっては敵となりようがなかったために放置していた。
判断を下したのはユダだが、後手に回しても問題ないと進言したのはシンだった。

窮鼠、猫を噛む。

そんな言葉がシンの脳裏に浮かんだ。

油断していたわけではないが、どうやら相手の心理を読み違えたようだ。
率先して片付けなければならない案件が多かったということもあるのだが、シンは国内に潜伏しているマフィアの残党はあくまでも端役でしかなく、所詮彼らは上司の指示がなければ何もできない人物だと思っていたのだ。
勿論その認識は間違っているわけではないし、彼らの背後に国外へ逃亡した大物マフィアの存在があるのかもしれない。
だが、手を出してくるとしたら国会、もしくは公邸に対してだと思っていたために、いざ学校が襲われ民間人が人質に取られてしまったことはシンの失策でしかない。
目の前にいるのは、銃を手にした男達。
認識できるだけで8人。
その内、無線を持っている人物は1人だけだから、全体人数としては15〜16人といったところだろうか。
カフェテリアに集められた生徒の数はおよそ30人。
今日は講義の少ない曜日で、午前の講義が終わった生徒は帰宅してしまったのが幸いしたのだろうか。
思ったよりも少ない人数に安心しながらも、彼らの身の安全を模索してシンは冷静に周囲を見回した。
カフェテラスに設置されたテレビでは、先ほどから臨時ニュースの報道が行われている。
映されている映像は警察や軍に包囲された学校。
そして一瞬だけ写されたカフェテラスの様子。
どういう情報網かは不明だが、学校が軍に包囲される前にやってきたマスコミによって、民間人がマフィアに人質にされている映像がメディアに流されてしまったのだ。
尤もそれ以上の映像は犯人が許さなかったのだけれど。
今、カフェテラスのカーテンは全て閉じられ、中の様子は一切映らないようになっている。
そのせいで余計国民の不安を煽っているのだろう。
メディアは一瞬映されただけのその映像を繰り返し報道し、そのせいで人質になっている生徒の個人名までが明らかになってしまっていた。

(報道の規制をもう少しきちんと定めた方がいいですね)

シンはテレビを見ながら呑気にそんなことを考えた。
ゼウスによる報道規制を撤廃したのは良かったものの、過剰な個人情報の漏洩はあまり好ましくない。
特にこの大学には名家の子息子女も多くいるし、将来官僚や政治家となるべき優秀な生徒が国内外から集まっている、数少ない国立大学だ。
下手に醜聞が広まって彼らの経歴に傷をつけることは避けたかった。
彼らは、後にこの国の宝となるべき人材なのだから。

勿論そんな問題を提議する前に、やらなければならないのはこの犯人グループの捕縛だ。
シンは視線だけを動かして犯人の観察を続ける。
主犯格らしき人物は、インカムで別の人物と話をしている。
それらの犯人はテレビ画面を得意そうに見ている者、カフェテリアの食べ物を強奪している者、人質に銃を突きつけて悦に浸っている者などさまざまだ。
どうやら寄せ集めの仲間であるらしく、統率はあまり取れておらず、また、犯人の質もあまり良くなさそうだ。
人質に危害を加える様子はまだ見られないが、恐らく何か起きた時には躊躇なく命を奪うだろう。
勿論シンがここにいる以上、そのようなことをさせるつもりは毛頭ないのだが。 四聖獣と呼ばれるシンにとって、この程度の雑魚は敵ではない。
本気を出せばシン1人でも倒せる人数だが、犯人が銃を所持していることと人質の安全を考えると容易に動くことができないのが難点だった。

(何かきっかけがあれば…)

見張りの目を誤魔化しゆっくりと扉へ移動し、シンは厨房へと場所を移動した。
厨房で働いていたコック達も学生と同様カフェテラスに集められているために、厨房にいたのは本来の目的を忘れて食事に集中している犯人グループの1人だけだった。
足音を忍ばせて背後に忍びより首筋へ一撃。
あっさり床に沈んだ姿に冷ややかな視線を投げ、手足を拘束して再び床に転がしておく。
机の上に無造作に置かれた銃を手に取ってみれば、違法改造されたモデルガン。
マフィアが持つようなものではない銃に、やはり烏合の衆かと認識を新たにすれば背後に感じた人の気配。
条件反射で振り返りざまに拳を突き出せば、難なく受け止められてしまい目を瞠った。
シンに気配を感じさせなかったこと、あっさりと攻撃を受け止められてしまったことから手練であることは分かったが、何よりも驚いたのはその相手が見知った人物だったということだ。

「随分な挨拶だな」
「カムイ…」

どうして彼がここにいるのだろうか。
シンが移動した時、カムイはカフェテラスにいたはずだ。
確かにその姿を確認していた。
気配を断って行動していたシンの背後を取ることが出来るなど、相当の手練でも難しい。
正直に言ってしまえば、本気を出したシンの気配を追えるのは、ゴウかユダでなければ不可能だ。
尤もユダには気配を隠すつもりすらないので、敢えて試したことはないのだが。
四聖獣の中でもレイと1,2を争う俊敏さを誇るシンの行動を追えるということは、カムイがそれ以上の手練かシンの行動を逐一目で追っていたかのどちらかだ。
友人だと思っていた人物を疑いたくはないが…。

「どうし…」
「あ、シン発見」

シンの言葉を遮るように呑気な声が響いて、カムイの肩越しにタケルの黒髪が見えた。
続けて現れた友人の姿にシンが驚愕に目を丸くした。

「お前、勝手にどこか行こうとするんじゃないよ。危ないだろ」
「タ…タケルまで、どうして…」
「あ? そんなの友達が目の前で単独行動取ろうとすれば心配するの当然じゃん」「お前はしっかりしているように見えて無鉄砲だからな。目を離すわけにはいかないだろう」

至極当然とばかりに言われてシンは言葉が続かない。
確かにシンは気配を断って行動していたが、相手が最初からシンの行動を監視していれば意味がないのだ。
過保護と言っても過言ではない友人2人が、今のような緊急事態でシンのことを気にかけることは、今までの経験から考えれば当然と言える。
況してやつい先ほどシンが銃撃によって怪我をしたことを知らされたばかりの2人が過保護を更に過熱させるのも無理ないことで、シン自身が気づかないだけで包囲されたその時からカムイとタケルはシンを庇うように行動していたのだ。
生憎シンは気づかなかったのだが。
シンは一度信頼した人物に関しては驚くほど警戒を解いてしまう。
本人にその自覚はなかったが、成る程確かにゴウの指摘は尤もだ。
少々の反省とシンの身を案じてくれた友人の好意を有難く思いながらも、シンは彼らに勝手な行動を慎むように諭した。
だが、口の上手いタケルと聞く耳を持たないカムイが相手では勝てるはずもなく。

結局2人の同行を許してしまうこととなった。


  • 10.06.13