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Fairy tale 第1章 05


「お〜はよ〜…」
「おはよ…どうしたの?」

俺の顔を見るなり、長太郎が心配そうに眉を寄せた。
あぁ、やっぱりね。
自分でもすごい顔色をしてると思うし、長太郎が驚くのも無理はない。
鏡を見てびっくりしたよ。
顔色が悪いっていうよりも白い。
特に俺ってば色白なもんだから、白さ倍増ってかんじで気持ち悪いくらいだ。
夜中に道でぼ〜っと立ってたら幽霊と間違われるだろうなとか思ったぐらいだ。
正直立ってるのもつらいから学校を休もうかと思ったんだけどさ。
別に病気じゃないから休むのも気がひけたし、電車通学ならまだしも徒歩10分って歩けちゃうんだよね。
2、3度ふらついたけど、何とか登校できたし。

「はれ…?」

教室に入って気が抜けたのか、膝下から力が抜けた。
そのまま倒れそうになるのを長太郎が慌てて支えてくれた。
ナイス瞬発力、長太郎。

「さぁ〜んきゅ」
「どうしたの。具合悪いなら休めばよかったのに」
「うんにゃ平気。ただの寝不足だから」
「寝不足、っていうと…」
「えへ。そのとおり」
…」

あ、長太郎が呆れてる。
そう、昨日に引き続きまたもや寝てないのですよ、俺ってば。
しかも今回も部屋の片付け。
昨日不二たちと話してたら思ったよりも帰宅が遅くなったもんだから、今朝方まで片付けしてたのですよ。
近所迷惑かなと思ったけど、どうやら防音がしっかりしてるらしくて大丈夫だった。
そういえば近所の物音ひとつ聞こえないもんな。
さすが高級マンション。でかした父さん。
でも、いくら若いからって無茶はいかんな。
2日寝不足が続いたら動くのつらいし、もう大変。
あー、意識が朦朧とする。このまま長太郎の腕枕で寝ちゃおうかな。

「仕方ないなぁ」

長太郎はそう言うなり、俺を肩の上に担ぎ上げた。

「長太郎…?」
「保健室で寝てなよ。先生には言っておくからさ」
「うん、ありがと。でもさ、この運び方はちょっと…」

まるで荷物みたいなんだけど。
もっとこう、肩を貸すとか…。

「何? お姫様抱っこの方がいい?
「…荷物で結構です」

とりあえず運んでくれるだけ感謝だな。
何だかんだ言いながらも長太郎は優しいから、歩く速度をいつもより遅くして俺に振動を与えないようにしてくれる。
あ〜、何か気持ちいいかも。
自分で思っているよりも限界だったらしい。
まぶたを開けているのもつらい。
そんな俺の様子がわかったのだろう。
長太郎が赤ちゃんをあやすように優しく背中を叩いた。

「寝てていいよ」
「うん…、お休み〜」

そして俺はまどろみの世界へ。



「…ねえ」

あれ? 誰か呼んだ?

「起きてってば」

誰だろ、この声。



どっかで聞いたことがあるような…。

「…起きないとキスするよ」
「ちょっと待った長太郎!!」

がばあっ!!

慌てて起き上がると、そこにいたのは長太郎じゃなかった。
いつもそういう台詞を吐くのは長太郎だったので、つい条件反射で叫んだんじゃったんだけど、そこにいたのは昨日会ったばかりのちっこい彼だった。

「はれ? リョーマ?」
「おはよう。…長太郎って誰?」

心なしか不機嫌な気がするのは俺の気のせいですか?

「長太郎は俺のクラスメイト。ところで何でリョーマがここにいるの?」
「そんなのを守りに来たに決まってるじゃん」
「いらないって言ったじゃん。昨日も言ったけど、俺のこと構う前に他にもすることあるだろうが」
「だからって、『はいそうですか』って言うこと聞いてられないんだよ、こっちとしても。あんたの力が奪われたら俺たちだって大変なんだから」
「でもさ…」
「第一あんた自分の身を守る力すらないじゃん。人間ならまだしも、妖魔に襲われたらどうするつもりなの。まさか殴って倒すとか本気で言わないよね?」
「本気なんだけど…」
「何か言った?」
「…ナンデモアリマセン」

おーこわ。ちっこいくせに何でこんなに偉そうなんだろ。
そして何で俺は逆らえないんだ。

「だって、必要ないと思うけどな…」

それでもぶちぶちと文句を言ってると、冷ややかな視線が振ってきた。

「そう思ってるのはだけなの」

ほら、とリョーマは窓の外を指差す。
それが何か問題が?

「見て」

リョーマがとことこと窓際まで歩み寄る。

す、と窓に手を伸ばすと。
リョーマの触れた箇所が。
ぐにゃり。
と歪んだ。

「!?」

その中に見えたのは、どす黒い外の景色。
一瞬夜かと思ったんだけど、時計を見ると現在の時間は10時半。
俺が14時間も保健室で爆睡していたはずがないから、多分午前中なのだろうと思われる。
しかも黒いのは夜だからとか暗雲に覆われているからとかじゃなく、変な黒い物体が窓一面に張り付いているからだった。
形や大きさは様々なんだけど、何故か皆赤い目(らしきもの)と鋭く光る爪や牙を持っている。
耳障りな音が聞こえてくるのは、多分そいつらからなのだろう。

「何これ?」
「妖魔」

…簡潔なお答えどうもありがとう。

「でも何で?」
「そんなの、あんたが目当てに決まってんじゃん」

はあ!? 俺?
リョーマが呆れたように額を押さえた。

つまり、あれですかい。
本人無自覚だけど、俺には妖魔を惹きつけるフェロモンのようなものが出てて、次元の穴が開いてから徐々に妖魔が集まってきたと。
そんでもって体力あるときなら手出しはできない彼らも、今の疲れきっている俺なら大丈夫だろうということで一斉に襲ってきた。
そういうことですか?

「その通り。ついでに言うならこの部屋は俺が結界張っておいたから、低級妖魔は入ってこれないけどね」

何故だか偉そうにリョーマが説明する。
その言葉通り、そいつらは窓の外からこっちを伺ってるけど、入ってくることはできないようだった。

「さすがリョーマ。伊達に守護者してないね」

守護者。別名守り人とも呼ばれる。天界を護る人たち。
実際の実力はわからないけど、不二や手塚が俺のところへ遣わすということは、それなりに実力があるのだろう。
実際、こっちの世界に来たというのに、あいつらとの力の差は圧倒的だ。

「当然でしょ」

俺のほめ言葉に、リョーマはにこりともしない。
クールなのか、本当に大したことないと思っているのか。
…多分両方なんだろうな。

「でもさ、結界ってこの部屋だけ? 他の教室は?」

つーか全校生徒はどうなったんだ?

「全員体育館で眠ってもらってる。騒がれても困るし。面倒だけど結界も張っておいたから、襲われることはないと思うよ」

放っておいてもよかったんだけどね、とリョーマは物騒なことを言う。
君が言うと本気っぽくて嫌だよ、リョーマ君。

「んで、こいつら退治する方法あるの?」
「あるけど、所詮雑魚だからね。散らすのは簡単だけど、それじゃ解決にならないでしょ。いっそのこと本体倒しちゃおうかなと思ってさ」
「ふんふん」
「今餌を撒いてこっちにおびき寄せてるとこ」
「餌って?」
の血」
「はあ!?」

一体いつの間に…。

「昨日が眠ってるときに、少し貰っておいた。本当にちょっとだし傷も作らなかったから安心して。あ、ちょっと貧血にはなったかもだけど」

俺が具合悪かったのは寝不足じゃなくて貧血かいっ!!

「でもね、何か変なんだよ」
「変って何が?」

しかも反省ナッシングですか。ちょっとだけ呆れたりして。

「反応が薄いんだよね。の血なんて極上品なんだから喰いついてこないはずないんだけど、来るのはこんな雑魚ばっかりでさ。もうちょっと大物がかかると思ってたんだけど…」

ドガシャーン!

リョーマの台詞を遮るように、保健室の扉が激しく叩かれた。
というより何かが衝突した。

ドンドンッ!

扉が壊れるんじゃないかって勢いで叩かれてる。
実際歪んでるし。
壊れないのは頑丈に作られてるということじゃなく、おそらくリョーマの結界のお陰なんだろう。

ガリガリガリ!!

激しく引っかく音も聞こえてくる。
実は怪我人で、保健室に入りたいけど入れなくてパニックになってるとか、そういう展開に……なるはずないよなぁ。

「来たみたい」

リョーマの顔が真剣そのものだ。

「…だねぇ」

グッバイ。俺の穏やかな日常。

「あ…」

リョーマが小さく呟いた。

「何?」
「結界、壊れるかも……」
「何だって〜!!?」

大きな音と共に、扉が室内に吹っ飛んできた。
わーん、リョーマの役立たず〜〜!!