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Fairy tale 序章 02


何が起きたのか、彼にはまるでわからなかった。
おそらくあの場所にいた者のほとんどが、自分達の身に何事が起こったのか、理解などできていなかったのではないだろうか。
突然闇が消滅し、炎が落ちてきた。
紅蓮の炎の龍。
それは自分たちの敵である守人の力の具現。
その炎から逃げ遅れて、目の前で消滅した仲間が8人。
いずれも失って困るほどの力を持った人物でなかったから良かったものの、一歩間違えばあの場所にいた全員が炎にまかれてしまい、全滅という事態が起こっていたかもしれない。
容赦のない力だった。

(あの守人……)

幾度となく我々の邪魔をする、目障りな存在。
統治者の忠実なる部下。
過去何度となく、自分達は彼らと対戦してきた。
そのたびに見せ付けられてきた、圧倒的なまでの力だったのだ。先程の炎は。

(だが……)

どうにも納得がいかない。
隠れる場所すらない岩山を、追っ手に見つからないようにひた走りながら、彼は考える。

(あの方は、簡単に破れないと言わなかったか?)

自分の聞き間違えでなければ、あれを作った人物は確かにそう言っていたはずだ。
それなのに、なぜこうもたやすく消滅してしまったのだろうか。
あの結界を作ったとき、自分はその場にいた。
だからどれだけの力を要したのか、そしてどれだけ強固だったか知っている。
どれほどの衝撃がぶつけられようとも、びくともしなかったはずだ。
そう、はずだったのだ。
だが実際は、たったの一撃で消滅してしまった。
それこそ簡素な空間のように。

(なぜだ?)

理解できない。自分にはそれだけの力がないから。
だから、分からない。
原因も、理由すらも。
あの方の言葉が嘘だったのだろうかと考えて、彼は即座にその思考を否定する。
そんなはずはあるまい。
あの方が自分たちを欺くなど、そのようなことは決してありえない。
あるはずがない。
自分たちは、あの方の忠実な手足なのだから。

まあいい、と彼は思った。
どうせもうすぐ目的地に着く。
そうすれば何もかも説明してもらえるだろう。

(何もかも……)

かつん、と何かの音がしたのは、その瞬間だった。
まるで彼の思考が一段落するのを待っていたかのような、絶妙なタイミングだった。

(!?)

心臓を鷲掴みにされたような衝撃に、思わず足が止まる。
足元からじわじわと上がってくるのは、恐怖からくる寒さだろうか、それとも……。
振り返ってその先を見ようとしたが、彼には出来なかった。
かすかに上げた視界に入ってきたのは、白色の世界。
身動き一つできなかった。する暇がなかった。

「!!」

全身に無数の針が突き立てられるようだと感じたときには、すべてが終わっていた。
上空から鳥のように、ふわりと舞い降りてきた姿があった。
身動き一つできなくなった彼に、その姿が見えていたのかどうか。
亜麻色の髪がふわりと風に舞い、彼の輪郭を縁取った。

「あっけないね」

氷の彫像と化したその姿を一瞥すると、無表情のまま不二は右手でその肩を軽く押した。
ぐらりと傾いたその彫像の行方を確かめもせずに、彼の足は再び地面を蹴っていた。
氷の砕ける音が、静寂に響いた。





「道は?」

「開いたで」

「あいつらは?」

「まもなく到着ってとこですね」

「なんだ、随分遅かったじゃねえの」

「守人も予想してなかったってことじゃないの?」



俺たちの存在をさ。



「めでたい奴らだぜ」
「そろそろ行きますか。彼らも気付くでしょうし」
「そうやな。ほな先に行かせてもらうわ」
「ああ、じゃあな」
「また」
「運が良ければあっちで会おう」





手塚がその場所に来たとき、そこに残されていたのはわずかに残る力の波動と今まさに消えようとしている次元の通路だった。
手塚は眉間の皺を深くした。
次元の通路が開いた形跡があり、そこに残された強大な力の残滓。
それが意味するところは、一つしかない。

「逃げた、か……」

大失態だ、と思う。
おそらく逃げたのは複数。それも強大な力を持つ神魔と呼ばれる魔族だろう。
そっと空間の亀裂に触れると、それは跡形もなく消滅した。
最後にある映像のみを残して……。
手塚はその場所に見覚えがあった。
頻繁にというわけではないが、何度か渡ったことがある場所だ。
近いようで遠い。次元を挟んだ反対側の世界。
自然界――。





「東京――――か」