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黄瀬パパとテツヤくん12


DQNな上級生による「お友達になってください」「丁重にお断りいたします」事件から数日後。
テツヤは職員室に呼び出されていた。
曰く、「上級生がお前に暴力を振るわれた」とのこと。
すみません、ちょっと理解できませんねと真顔で答えたテツヤは悪くないだろう。

とりあえず事情を懇切丁寧に説明した挙句、目撃者として友人宮地くんとクラスメイト数人にも事情聴取を行ってもらった。
結果は白。当然である。
あれでテツヤが加害者となるようでは、世の中に警察は不要となってしまう。
とまぁ、そこまで大袈裟な問題ではないけれど、誰がどう見たって上級生(モブA+愚かな仲間達)の方が悪いに決まっている。

「理不尽な要求を断ったら言いがかりをつけられた挙句に慰謝料請求されたので丁重にお帰り願いました」

というテツヤの言い分は少しも間違っていなかったことを理解した担任は、生徒の無実に胸を撫で下ろしたかと思いきや、何かを思い出したかのように複雑な表情を浮かべた。
この表情は見覚えがある。
黄瀬が意に添わぬ仕事(大体においてキスシーンだのラブシーンだの)をどうしても断れなかった時とか、緑間が赤司の我儘(三連徹明けだというのに「これから北海道に行こう」と連れ出された)に付き合わされた時とか、青峰がさつきの手料理の実験台にされた時とか、対局に行くよりテツヤと遊んでいたいとテツヤの腰に縋ってヤダヤダと駄々を捏ねる赤司に困り果てたマネージャーとか。
一教師の手には余る事態が起こっているとテツヤは推測したが、案の定担任の口から告げられたのは『権力の行使、ダメ、絶対』な事実であった。

つまりまぁ、どういうことかと言えば、相手の両親が学校に怒鳴り込んできたというのである。
しかもこの両親、父親は某区の区議会議員であり、母親は巷で有名な悪質クレーマーだった。
正に蛙の子は蛙というやつである。
見事なまでの下衆っぷりに、誠凛高校もどうしてこんな人物の入学を許可したのだろうとテツヤが頭を捻りたくなったのも無理はない。
実際、入学してから事情を知った学校長及び担任などは度重なる不祥事及びクレームに頭を抱えたらしいけれど、1年経っても成長が見られないとか何とも残念である。

「とりあえず、双方の保護者で話し合いになったそうです」

夕食の時間にテツヤは義父である黄瀬にそう告げた。
何一つ悪いことをしていないのに呼び出されるのは何度目だろう。全く持って理不尽だ。
だけど呼ばれたからには仕方ない。
保護者を呼べというのなら呼ぼうじゃないか。後悔するのは向こうなのだから。

果たして、テツヤの言葉を受けて黄瀬はとっても良い笑顔で笑ったのである。



「任せて。パパ、頑張っちゃうっスよ」



うん、これ相手は終わったなと思ったテツヤは間違っていない。
とりあえず、当日は静岡で対局を控えている赤司がこないだけマシだと思ってもらうしかない。
どちらにしても嫌な予感しかないのだが。
面倒なことにはしたくないテツヤは、一応義父に釘を刺しておくことにした。

「思う存分やっちゃってください」

それがどうしてこういう発言になったのか、それはもう間違いなくその場のノリというものである。









ブラウンのシャツにハニーイエローのスーツ。
首には春らしくオレンジと白のストライプのスカーフを巻いた姿はどこのホストですかと言いたい出で立ちだが、それを難なく着こなすのが黄瀬涼太という男である。
外に出る時には必須のサングラスを銀ぶち眼鏡に変更しているため悪目立ちすることこの上ない。
思う存分やってくれと言ったが、まさか父兄呼び出しで元モデルの本気を見せるとは流石に思わなかった。
おかげで相手の両親だけでなくテツヤの担任教師すら固まってしまっている。

「どうも。黄瀬テツヤの父です」

シャララ、と効果音が付きそうな笑顔を浮かべた黄瀬に、予想通りというか案の定というか上級生の母がノックアウトされた。
何しろ一応芸能人、それも今が人気絶頂と言っても良い俳優と至近距離での対面である。
しかも相手は190センチを超える9等身の元モデルだ。周囲が輝いて見えても無理はない。

相手の両親は息子が問題を起こした生徒の父親が黄瀬涼太だとは思わなかったのだろう、パクパクと酸欠の鯉のような顔で黄瀬を凝視している。
恋する乙女のように顔を真っ赤にさせて胸元で両手を握りしめている姿から、おそらく若かりし頃は黄瀬のファンだったのではないかとテツヤは推察した。
その読みは正しく、上級生の母は現在でも自室をキセリョグッズで溢れさせる程のキセリョクラスタだった。
雑誌は勿論、ドラマやCMまで毎日欠かさずチェックする徹底ぶりである。
ちなみにファンクラブの会員番号はまさかの3ケタだ。


「ああああああああああのあのあの、このたびはうちの愚息がご迷惑をおかけしまして!!」
「ママ?!!」


対面する椅子に腰を下ろして流れるような動作で足を組んだ黄瀬に、上級生の母は開口一番そう叫んだ。
驚いたのは息子である。
自宅でこれでもかと自分がいかに生意気な下級生に酷い目に遭わされたかを力説したというのが台無しである。

「ママ、頑張っちゃうわよ。うちの可愛い息子を苛めるなんて、その下級生は学校から追い出してあげるわ」とか言っていたくせに、全くもって役に立たない。
それどころか思い切り敵側に回られてしまった。
これが芸能人の力というやつか、と上級生は黄瀬を睨んだ。……悔しいけれど男として色々な面で負けていることを痛感した。

「黄瀬さんはお仕事が忙しいのにこんなことで呼び出して申し訳ありません。あぁ、私ったら息子の言葉だけを真に受けてきちんと話を聞いてなかったのがいけなかったのね。でもこうしてお話する機会を設けてもらえて幸運だったと言えばいいのかしら。まさかうちの愚息と黄瀬さんの天使ちゃんが同じ学校に通ってるなんて思いもしませんでしたわ。東京って思ったよりも狭いんですね。あぁ、ごめんなさい。私、昔からキセリョのブログは愛読していたので、黄瀬さんがいかに息子さんを愛しているか良くわかっているつもりですわ。キセリョの愛情を一身に浴びて成長した天使ちゃんがいじめだなんて卑怯なことをするわけないじゃないですか。きっとうちの愚息が何か誤解をしているに違いないわ。この子には後できつく言っておくので、どうか天使ちゃんを怒らないでくださいね。あぁ、もう、本当にどうしましょう。嬉しくてもう死んでもいいわ」

恐るべしキセリョクラスタ。ここまでノンブレスである。
流石の黄瀬も久しぶりに見る熱狂的ファンに一瞬気圧されたものの、これは好機とばかりにモデルスマイルを浮かべて母親の手を取った。

「若いうちはそんなこともあるっスよ。でも勘違いだって理解してもらえて嬉しいっス」
「きゃあぁぁぁぁぁぁぁ!!! キセリョに微笑まれたあぁぁあぁぁ!! わが生涯に一片の悔いなしぃぃぃいぃぃぃイエア!!」
「ママああぁぁぁぁぁぁぁ?!」
「おまええぇぇぇぇぇぇぇ?!」


「……………………えっと、僕もう帰っていいですかね」
「待て、親御さんを連れて帰ってくれ」
「え〜……」


とりあえず赤司がやってくるより数倍も穏やかに事態は収束したようで何よりである。



  • 13.12.28