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騎士の恋 09


イベントはジノ・ヴァインベルグの完全勝利で終わった。
あの後否応なく全校生徒の前に連れて行かれ、ミレイの宣言によってルルーシュが見事ジノの恋人として認定されてしまったのは至極当然の流れだと言おう。
勿論反論はした。だがそれは生徒会長という名の独裁者によって、綺麗に却下されてしまったのだ。
納得できない、理不尽だ、といくら言い募ろうが相手はミレイ・アッシュフォード。
ルルーシュをいじくり弄びからかうことに全身全霊をかけていると言っても過言でない彼女に、哀れな子羊であるルルーシュが何を言っても無駄というものだろう。
真っ赤な顔で抗議する姿も可愛いわねの一言で終わってしまうのがオチだ。実際そうだった。
全校生徒だって男同士のカップルなんて納得できるわけないだろうという常識的な反論も、当然の如く却下された。
どこかで聞いたことのあるような声で――むしろ嫌というほどよく聞いた声だったのは気のせいだと思いたい――「他の女に取られるくらいなら」という打算的な声がどこかから上がり、そうだそうだという事態を面白がる野次馬の賛同を得てしまい、挙句の果てには「美形同士のカップルなんて眼福」だの「副会長は女装すれば傾国の美女だから問題なし」とか「じゃあルルーシュが女子の制服着てればいいじゃん」などと言ったとんでもない台詞まで飛び交う始末。
ちなみに最後の台詞はリヴァルの言葉だ。
口が達者でほとんどの人を相手にしても弁舌で負けたことがないルルーシュであっても、多数決という民主的な方法に対しては哀しいほどに無力だった。

そして、ルルーシュの傍らには常にジノの姿がある。



「ねえねえ、センパイ。デートしましょうよ。デート」
「却下だ」
「だって私達は恋人同士じゃないですか。やっぱり、こう、放課後は手を繋いで仲良くデートっていうのが一般的でしょう。それともセンパイの手作りお弁当持ってピクニックとか。それが正しい庶民のお付き合いってやつだってリヴァル先輩は言ってましたよ」
「それは正しい男女交際の場合だけだ。俺とお前にそれは当てはまらない。よって却下」
「ところで今日の放課後時間ありますか? 水族館行きましょう。俺、水族館行ったことないんですよねー。水族館行ってー夜景の見えるレストランで食事してー。その後ラウンジでお茶でも飲んで完璧。ミレイ会長。放課後ルルーシュセンパイ借りますねー」
「はーい。どーぞどーぞ。何なら送り狼になってもらっても結構よ」
「いや、さすがにそれはまだ早いでしょう。やっぱり、こう、手順を踏んでこそ恋人の醍醐味ってやつですよ」
「なるほど、ジノは結構紳士なんだね。お姉さん見直しちゃったぞ」
「ありがとうございます」
「人の話を聞け! というか何だその高校生にあるまじきデートプランは?! それと、まだとは何だ。『まだ』って」
「それはやっぱり、俺だって男ですし」
「俺も男だ!」
「ということで、ルルーシュセンパイ放課後また会いましょう。ちなみに逃げたら地の果て追いかけますので、トリスタンで」

とんでもなく物騒な台詞を置き土産に、来た時と同様嵐のように帰っていったジノにルルーシュの言葉は見事に届かない
伸ばした右手は空を切る。――否、掴んだところでジノの考えを修正させられるかと問われれば答えることはできないのだが。

「ルルーシュ。いい加減観念なさい」
「冗談じゃありませんよ」
「そそ。冗談じゃないのよ。ジノってばこんなに情熱的なんだから、ちょっとはほだされるとかないの?」
「皆無です」

忌々しげに吐き捨てても、ミレイの笑みは消えない。
この状況を力一杯楽しんでいるのは間違いない。
まったくもって気に入らない。
何が気に入らないって、自分の思うとおりに事が運ばないのは勿論なのだが、この状況を止める友人が誰一人としていないということだ。
シャーリーだけは申し訳そうな顔をしているけれど、ミレイとリヴァルは言うまでもなくこの状況を全力で楽しんでいるし、ニーナとカレンは我関せずを貫いている。
最愛の弟ロロは暴走したらジノを暗殺してしまいそうなので、こちらはルルーシュが全力で止めているといった感じだ。
唯一ジノに対して歯止めになるだろうと思われるスザクは政務が忙しいということで、復学したもののあまり姿を見せていない。
――たとえどのような状況であろうと彼にだけは頼らないだろうが。
ナイトオブラウンズとなったかつての親友は、今では不倶戴天の敵となっている。
彼はルルーシュからすべてを奪った。
妹を、仲間を、そしてルルーシュ自身の矜持すらも。
最も卑劣な方法で奪ったのだ。
記憶が戻ったことを悟らせないために友人を演じているが、本来なら顔を見ることすら許し難い。
ジノが傍らにいることの唯一の救いは、スザクが近づいてこないということだけだ。
どういう理由かは知らないが、ルルーシュが生徒会メンバーの誰と親しく話していても笑顔で眺めているだけのジノだが、相手がスザクだとこれ見よがしに抱きついてきて会話の邪魔をしてくる。

「センパイは私の恋人なんだから、いくら友人とは言ってもあまり親しくされると嬉しくないね」

という言葉でスザクを牽制するのだ。
親しげに肩を抱かれる、もしくは腰に手を回されてそう宣言するジノを勿論歓迎できるわけではないが、結果としてスザクとは距離ができたのだから喜ばしいことではある。
お陰でジノは野放し状態になってしまったのだが、これはある意味仕方のないことかもしれない。
元々ジノに対して嫌悪はないのだ。
泣き虫だった1歳年下の幼馴染の存在は、思い出したくない過去の中で唯一の光明だ。
幼い頃に出会った時は自分よりも小さくて、子犬のように後をついてくるのが嬉しかった。
大好きですと言いながら向けられる純粋な好意を宿した瞳も、嫉妬と憎悪が入り乱れた宮廷にいた自分にとってはとても心地よいものだった。

お互いの立場があの頃と変わらなければ喜んで再会の挨拶くらいできたのだが、今の彼はナイトオブラウンズ。
皇帝直属の騎士であり、自分はその敵であるゼロだ。
どうあっても相容れることはできない。
況してや今のルルーシュは性別を偽っている。
ジノには何となく見破られているような気がするが、それでも確証を持たれていない以上は自分の素性をばらすようなことはあってはならないのだ。
どうせ庶民の生活を体験したくて学校に通っているだけ。
自分に対してだって、かつて親しくしていた皇女殿下と似ている男というのが珍しいからからかっているだけだ。
つれなく追い払っておけばいずれ興味を失うだろう。

そう考えるルルーシュの意見はある意味正しい。
だが、ルルーシュは1つだけ失念していた。否、知らなかった。
それは、ジノがルルーシュに忠誠を誓った騎士であるということ。
幼き日の約束を今も尚忘れていないこと。
そして、その忠誠を守るためにはどんなことも厭わないということだ。



その結果。



「ルルーシュセンパイ、迎えにきましたよ」

授業終了と同時に教室を飛び出そうと扉を開けた先にある無邪気な笑顔を前に凍りつく羽目になるのだ。


  • 09.06.09