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騎士の恋 07


中華連邦でゼロに会った。
初めて見る感想は、あぁ成る程というものだった。
正体不明の正義の味方。
ブリタニアを壊すという大儀のもと立ち上がった救世主は、思ったよりも頼りない体躯をしていた。
細い肩、背が高いから余計に目立つのだろうか。
マントを羽織っていてもジノとは体格が全然違う。
威厳のある声音は変声器を用いているのか地声の判別が厳しい。
厚底のブーツ、仮面、全身を覆い隠すマント。
素顔を晒さないのは、その素顔に何か理由があるからか。
スザクがあれほど執着するからどのような人物かと思えば、どうやら頭脳労働派のようだ。細い体躯は格闘に適しているとは言い難い。
それなのに敵陣に自ら乗り込んでくるということは捕まらない策があるからだろうか。
ブリタニアに対して何度も土をつけた男とは到底思えない外見に少々拍子抜けしたジノだが、ゼロを見つめるスザクの眼差しが気になってもう一度ゼロへと視線を移した。
不倶戴天の敵を見定めるような鋭い視線。
何かを秘めた眼差しを、ジノはつい最近目にしていた。
去っていく黒髪。その後姿を見送っていた視線が、このような眼差しではなかったか。

(成る程ね)

やはりスザクは秘め事が上手くない。
ゼロを捕らえてラウンズ入りしたスザク。
その手で捕らえたのだから正体を知っているのは当然で。
処刑されたと言っても秘密裏に行われたという処刑を見た者はいない。
学園にいたルルーシュ。その行動は常にスザクの手の者によって見張られていて。
友人同士と言いながらスザクに怯えていたルルーシュ。
笑顔を見せながらも昏い視線を向けていたスザク。
お互いの根底に根付いていたのは不信感。
いくらヒントが少なかろうが、答えにたどり着くには十分。
ジノ・ヴァインベルグは無能ではない。

「やっぱりあいつは敵なんだな」

バルコニーでジノはひっそりと呟く。
同僚としては気に入っていたのだけれど。
ジノにとって大切なものは1つしかないのだから、どちらを切り捨てるかなんて簡単だ。
ゼロに近づくのは警戒が強くて不可能。
となれば残るのは学園にいる『彼女』。

「悪いな、スザク。返してもらうよ」

彼女は自分の――姫なのだから。





   ◇◆◇   ◇◆◇





驚きに瞠れた瞳。
鮮やかな紫水晶に自分の姿が映るのを確認して、ジノは歓喜に身体を震わせた。

「よろしく、ルルーシュ先輩」

そっと置かれた肩はやはり華奢で。
この顔とこの外見。
どうしてこれで男だと皆が信じているのかジノには不思議でならない。
いくら成長期で男女の区別が成人ほどつきにくいからと言って、もうすぐ18歳になるのにこんなにも華奢な男がいるのだと思うほうがおかしい。
こんなに綺麗な男がいるものか。
細い首も繊細な手足もどこからどう見ても女性のもの。
それを気づかせないほどルルーシュの演技は完璧なのだろうか。
数日観察した。何気ないふりを装って近づいた。
出会いが最悪だったせいだろうか、ルルーシュはジノに対して壁を作っているように感じるが、それでも気づかないふりして強引に話しかけた。
そうして感じた違和感。
ランペルージという名前。弟の存在。
そして、何よりも気になるのがスザクへの態度だ。
表向きは友人。それもかなり親しいと言ってもいいだろう。
教室にいる時、生徒会にいる時、ルルーシュはスザクと常に一緒にいる。
あいつら仲いいよなとリヴァルが少々嫉妬気味に呟いたことがあるけれど、ジノはそう思えなかった。
スザクと話す時、ルルーシュはほんの少しだけ眉を下げる。
それは昔からルルーシュのクセだ。
気に入らない人物と表面上和やかに会話をしなければならない時によく見せていた。
幼い頃にジノが指摘したところ無意識だと言われた。
だからもしかしたらルルーシュ自身気づいていないのかもしれない。
ルルーシュはスザクと一緒にいるのを良しと思っていない。
それはスザクが帰宅した時にも顕われている。
ラウンズとしての任務以外にナイトメアの開発にも携わっているスザクは、ジノ以上に学校を欠席する機会が多い。
授業に出てきても放課後までゆっくりしていられることは少なく、生徒会室で談笑している時でも呼び出されて一人先に帰っていくことも珍しくなかった。
送り出すルルーシュの様子はいつもと同じ。だがスザクの姿が見えなくなって彼女は少しだけ息を吐く。
スザクがいなくなってしまうことが寂しいのではない。緊張を解いているのだ。
それだけで十分。
スザクはルルーシュに警戒されているのだ。
彼らが友人で親友だというのなら何故警戒する必要がある。

「別にいいんだけど」

理由は最初からわかっているからあえて確かめようとは思わない。
重要なのはスザクとルルーシュは敵対していて、ジノはルルーシュの騎士であるということ。
正式に認められていなくても構うものか。
ジノにとって主はルルーシュ以外いないのだから。
騎士は主を守るために存在する。
それならば彼女を守るのは自分の役目。
時折寂しそうな目をする彼女を支えるのは、スザクではない。自分だ。
彼女が別人という可能性はない。
ジノは己の直感を信じる。
初めて見たのは暗闇――それもほんの僅か。
それでも分かった。
全身が歓喜に震えた。
彼女のために生きると決めた自分が、最愛の主人を見忘れるはずがないのだから。

「まずはアプローチかな」

ルルーシュは手負いの獣と同じだ。
傷ついた獣に近づくには手順が必要。
警戒させないように、信頼されるように。
最初から手の内はすべて見せておくに限る。

廊下の向こうに彼女の姿。

さあ、宝物を取り戻そうじゃないか。


  • 09.04.01