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Temporale 02


「記憶喪失!?」
素っ頓狂な声を出したあたしに、目の前の麗しい集団が頷いた。
「それって、あの『私は誰?ここはどこ?』の、あの…?」
「それ以外にねえだろ」
……そうだよねぇ。


いつまでもベッドで寝ているわけにもいかず、ソファへと場所を移した。
一応怪我人なんだからそのままでいいと言われたけど、ベッドの中で男の子に囲まれてるという図が何となく抵抗あったので、彼らの提案は丁重に辞退させていただいた。
だってさ、あたしがベッドにいて囲まれてると、何となく居心地悪いんだもん。
しかも背高い人が多いもんだから、上から見下ろされる感じがして居心地悪さ倍増だし。

パジャマにガウンを羽織った姿で、彼らが淹れてくれたお茶を飲んでいる。
年頃の女の子としてはパジャマ姿は恥ずかしいので本当は着替えたかったんだけど、どうやら彼らは部屋を出ていくつもりはないらしい。
気にせず着替えろと言われたけど当然そんなことできるはずもなく、仕方なく手近にあったガウンで妥協した。

ちなみにここは病院の特別室。
テレビも冷蔵庫も完備で布団は羽毛。豪華な革張りのソファまで置かれていて、気分はまるでVIP。

「でも何で特別室?」
「細かいことは気にするな」
細かいのか!?
「まあ、気ぃ使う必要あらへんやろ。どうせ跡部の金やし」
眼鏡くんがそう言うと、跡部くんはじろりと彼を睨んだ。

「うるせーんだよ。それとも何か。狭っ苦しい大部屋で薄っぺらい布団のほうがよかったのか?」

とあたしに対して問いかける。
「そういうわけじゃないんだけど…」
そりゃ大部屋より個室の方がいいに決まってるしね。
「なら黙ってろ」
「…はい」

みんなが説明してくれた話によると、あたしは学校の昼休みに階段から転落したらしい。
意識が戻らない上に頭を強打していたということもあり、救急車で病院に運ばれて現在に至る、とまあそういうこと。

どうやらあたしは自分に関することだけを、綺麗さっぱり忘れてしまったみたいで、わからないのは自分に関することだけ。
一般常識や学校の勉強などについてはしっかり覚えているのに、自分が関係することだけは面白いほど覚えていない。
自分が誰だとか、どこに通っているとか、どんな人間だったかとか。
それこそまったく、全然わからない。
我ながら器用だと思うけど、覚えてないものは仕方ないよね。

そして彼らから教えてもらったことで、少しわかったことがある。
あたしの名前は『』。
家族構成は父・母・姉の4人家族。
好きな食べ物はガトーショコラで、嫌いな食べ物はタイ料理。
成績は上の下で、得意教科は物理らしい。
何でそんなに詳しいのか、深く突っ込まないほうがいいのかも。
とりあえずあと少しで検査の結果が出るので、原因究明はその時にしようと思う。


しばらくして検査の結果が出た。
脳波には何の異常もなし。
そして肝心の記憶が欠如していることに関しては、
「一般常識は覚えてるし、特に問題ないでしょう。そのうち思い出しますよ」
と、あっさりと言われてしまった。

いや、問題大ありだろ、医者!!

記憶がないってことは、今まで覚えていたこと全部忘れちゃってるってことなんだよ。
誰かにお金を貸してても全然覚えてないから、たとえ返してもらえなくてもわからないじゃないの!
「…それ以外にもっと重要なことがあんだろ」
短髪帽子くんが呆れたようにそう言った。
そう!もっと重要なことといえば!

「もしかしたらあたしには超かっこいい彼氏の木村君(仮)がいたりして、でも記憶を失くしたせいで振られちゃったりしたら……」

いや〜〜!木村君(仮)〜〜!!

「あぁ、いてへんいてへん。自分特定の彼氏おらへんかったから安心しい」
「そうそう、ちゃんには俺がいるC〜」

そう言ってジローと名乗った子が、あたしの隣にちょこんと座った。
にこにこって笑った顔が、とってもかわいい。
何か癒される。

「ありがとね、ジローくん」
ぎゅっと抱きつくと、ジローくんは嬉しそうに笑った。
「あのねあのね、ちゃんはよく俺に膝枕してくれたんだよ」
「そう?」
「膝枕、して?」
「いいよ」
あたしが答えると同時に、ジローくんがあたしの膝を枕にころんと寝転んだ。

「へへへ」
「あー!ずっりー!!ジローばっかり!!俺も、俺も!!」
「却下」
「なんでー!?」
「何となく」
「ちぇ〜」

可愛いけど、何かうざい。
騒ぎすぎだからかな。
あれれ、ジローくん寝てるよ。
寝つきいいなぁ。の○太みたい。
でも、いつまでも膝に乗ってられると困るな。足も痺れるし。
「ジローくんジローくん」
肩をゆすって優しく起こそうとするものの、むにゃむにゃとか訳のわからん寝言を呟いて、彼は再び夢の中に。
う〜ん、どうしたもんだろ。

ちょこっと困ったように顔を上げたら、跡部くんと目が合った。
おや、不機嫌な顔。
「おい樺地」
「ウス」
不遜な態度で樺地くんに視線を送ると、彼はジローくんをあたしの膝から持ち上げてくれた。
しかも、猫を捕まえるみたいに首根っこをひょいっと掴んで。
片手だよ、スゲー。
というかその状態で寝ていられるジローくんもある意味すごいよ。
めちゃくちゃ喉絞まってるんだけど……起きろよ。

ちゃん」
「何?」
眼鏡くん…もとい忍足くんがあたしの隣に腰を下ろした。
「俺ら見て、ほんまに何も思い出さへんの?」
「?うん」
「何や、切ないなぁ」
そう言って忍足君は悲しそうに微笑んだ。
本当に辛そうに眉を寄せて、至近距離からあたしをじっと見る。

ななな、何ですか!?その悩ましい顔は!?
…」
頬に触れようと伸ばされた手を、あたしは無意識によけた。
そりゃもう見事なくらいあからさまに避けましたよ。
だって、何かいやな予感がしたんだもん。
身体一つ分くらい飛び退ったんじゃないかって勢いで忍足くんから離れたら、忍足くんが驚いたように手を止めた。
…傷つけたかな?

「……」
「…あ、あの…忍足くん……」
「……何や、察しがええなぁ」
「はい?」
言うなり彼の手があたしの腕をひっぱり、その腕の中に閉じ込められた。
「う〜ん、やっぱり抱き心地抜群や」
いきなり広い胸の中に抱きしめられて、あたしの頭の中は真っ白。
数秒間の沈黙の後。

「きゃあぁぁ!!変態ー!!!」

どばきぃっ!!

とっさに繰り出したエルボーが、変態男の顎に命中。
彼は声もなく床に沈んだ。
肩で息をしつつ、転がった男を見下ろす。
何なの、この男!?


「お見事」
「さっすが
「相変わらず見事だな」


そこの男達!!
感心してないで説明しろっ!!


  • 04.04.22