アイボリーのドレスにゴールドのショール。
化粧は派手過ぎず地味過ぎず。
清楚な雰囲気を壊さない程度に品良く、だが多少は蠱惑的に。
ふんわりと柔らかいウェーブを描く髪をハーフアップに結い上げて、水仙を模した髪飾りで纏める。
綺麗な鎖骨を飾るのはシンプルながらも一目で高価だと分かるダイヤのネックレスで、同じデザインのイヤリングと共にそれは付ける者を鮮やかに輝かせる。
華奢な二の腕を彩るのは銀糸で編まれたブレスレットで、アクセントにダイヤやサファイアをちりばめてある。
精巧な作りはアクセサリーというより最早芸術品の域だろう。
何重にも重ねてあるために動くたびにしゃらり、と繊細な音を立てるそれは、彼女が持つ透明な雰囲気に良く似合う。
最後に形の良い唇にグロスを塗れば完成だ。
露出は少ないながらも身体の線を強調するデザインのドレスは見る者の目を惹き、その上にある美しい顔に誰もが心を奪われる。
髪の先から細い指先まで、正に計算され尽くした完璧な美。
それを身に纏い『彼女』は鏡に映る自分に向かって満足そうに笑みを浮かべた。
「では、行きますか」
そう呟いた声は、美しいけれど女性のものではない。
リビングへと続く扉を開けば、そこには見慣れた人物の姿。
ソファにくつろぎながらも片手に仕事用の資料を持っているのはゴウ。
ネクタイを外し襟元のボタンをいくつか外した姿は完全にオフモードの姿だ。
それなのに仕事を手放せないのは彼の性格というより、それだけの量の仕事を任されているからだろう。
彼らもいい加減見慣れているだろうに、それでも『彼女』の姿を見て感心したように息を吐く。
「相変わらずだけど、見事に化けるな」
「仕事ですから」
オッドアイの瞳に感嘆と困惑の表情を浮かべたゴウがそう揶揄すれば、『彼女』は艶やかに笑ってそう答える。
優雅な仕草で口元に手を当てうふふと微笑む姿は、成程確かに極上の美女だ。
その中身を知っていなければ、下手したらゴウですら騙されるかもしれない。
『彼女』の本質を知っているから騙されることはないが、本質を知っているからこそあまりの変貌に驚きは隠せない。
「シン、いいか。何度も言うが今更お前がそんなことをする必要はないんだぞ」
幼い頃から共に育った友人であり仲間であり家族である人物に何度目になるかわからない言葉をかければ、『彼女』――シンもわかっているというように小さく頷いた。
「えぇ。ですが素性がばれていないこの姿の方が動くのは楽なんです。――私の我儘です、許してください」
「いや、確かに助かるには助かるんだが…」
語尾が濁ってしまうのは、シンの決意に水を差すからではない。
シンをこよなく愛する彼の恋人にばれた時が怖いからなのだが、こうなったシンはゴウでは止められない。
唯一止められるはずの恋人は、今日に限って別行動である。
勿論シンがそれを狙っていたのは言うまでもない。
彼らがゼウスの駒として動いていた時、シンとレイはその外見を利用して女性に扮して動いていたことがある。
男というのは同性には警戒していても女性が相手となれば油断をするものだ。
それが酒の席で、しかも相手が美女であれば情報を聞き出すのも落とすのも連れ出すのも簡単だということで、ゼウスはシンとレイに女性のIDを用意した。
国主が用意したものだから、それは間違いなく本物である。
つまり、シンは『シン』という個人以外に『シルヴァ』という女性の戸籍を持っていることになる。
勿論そんな女性はこの世のどこを探してもいないのだが。
ゼウスが失脚し国主がユダへと交代したことにより、その戸籍は当然抹消されるはずだった。
だがそんな矢先にユダを狙う不穏なグループが現れたという情報が入ってきたのだ。
ガイやレイが秘密裏に捜索した結果、ぞろぞろと芋づる式に関係者が出てきた。
誰もがユダ政権でいつ権力を手放すことになるか戦々恐々としている人物だった。
そして、そんな彼らを纏めている男が今夜開かれるパーティーに出席することを突き止めたのだ。
招待状を手に入れることはできたが生憎一枚だけ。
四聖獣はユダの側近として知られてしまっている。
ぞのため表立って動ける人物はキラとマヤしかおらず、まだ未成年の2人をそんな危険な場所にたった一人で行かせることを、当然のことながらシンとレイが反対した。
そうなれば動ける人物は限られてくる。
もう1つの顔を持つシンかレイしか適任者はいないのだ。
そしてレイはルカと共にユダに同行している以上、シンが行くのは当然のことと言えよう。
それがゴウにとって納得できないことであっても。
シンは一途だ。
そしてユダのためならば自分の危険を顧みないことが多々ある。
そのためできることなら行かせたくないのだが、確かにシンが言う通り情報を得るにはこれ以上に最適な方法はない。
シンの実力はゴウとて良く知っているのだ。
況してやゴウはユダの側近であり四聖獣の長だ。
私情を挟むのはよろしくない。
「キラ」
ゴウはシンの背後に控える制服に身を包んだ弟分を見る。
会場に入ることはできないが、『セレス』の身分を考えれば従者がいても不思議ではない。
そのためキラを若い執事として同行させることにしたのだ。
それが最大の譲歩だ。
キラならば腕は確かだし、どのようなことがあってもシンを危険に晒すことはないだろう。
「シンを頼む。くれぐれも危ないことはさせないように」
「わかった」
苦渋の表情を浮かべるゴウに、キラは一瞬悩んでそれから真剣な顔をしてうなずいた。
信用ないですねと苦笑するシンの言葉は、当然のことながら周囲に黙殺されたのだ。
- 11.02.16