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Fairy tale 第3章 01


「おっ嬢さん、お茶しませ…」

バキッ!


「不ー二、緑茶プリーズ」
「はいはい」

日々筋力強化に励んでる俺の右ストレートを喰らって吹っ飛んだ英二を無視してソファに座ると、俺の希望通りに不二が冷蔵庫からよく冷えた冷茶をテーブルに出してくれた。
はー、生き返る。
やっぱり冷茶は水出しに限る。

「あっぢー」
「うぅ…ひどいってば…」
「やかましい」

俺に殴られ不二に踏まれた英二は、床に伸びたまま恨めしそうな目を向けてくるけど、そんなの自業自得だ。
いくら高級マンションでエントランスから冷暖房完備だと言っても、一歩外に出たらアスファルトが溶けるんじゃないかってほどの猛暑。
うだるような暑さなんてもんじゃない。
まさに溶ける。
6月下旬ってさ、確か梅雨だった気がするんだけどさ。
37度って異常気象じゃないか?
人間の体温よりも高い気温ってアリなのか?
それなのにまだ夏休みには早いもんだから学校には行かなくちゃいけないし、行ったら行ったで毎日のようにテニス馬鹿の長太郎にコートまで連行された挙句、何でだか帰宅部のはずなのに当然のように練習に参加させられてるし。
逃げようにも離してくれないしさ。
お陰で気力体力ともに低下気味。
そうなれば機嫌なんていいはずもない。
そんな時にふざけたことぬかしてる英二が悪いに決まってる。

「俺なりの愛情表現なのに…」
「そっか。それは悪かったな。んじゃさっきのも俺の愛情表現だ。迷わず成仏しろ
「…何か最近のってばガラ悪いね。どしたの?」
「どうしたのだって?」

ぴきぴきとこめかみに青筋が立ったのが自分でもわかる。
殺気をこめた視線を向けたら、英二がささっと不二の背後に隠れた。
ちっ、往生際の悪い。
だが、甘ーい。

「不二」
「はい、どうぞ」
「さぁんきゅ」
「え!? えぇっ!?」

不二は俺の味方なのさ。
不二に両手をがっしりと掴まれた英二は、当然逃げることなんてできない。

「俺だってさ、平和に毎日心穏やかに過ごしたいんだよ。それは分かってくれるよな」
「う、うん」
「なのにここ数日うだるように暑いし。俺暑いの苦手なんだよね」

暑いのと面倒臭いのと、うっとおしいのが何よりも嫌いなんだよ俺は。

「それなのに暇さえあれば抱きついてくる奴はいるわからかう奴はいるわ、挙句の果てにはベッドの中まで侵入してこようとする奴はいるわで、俺の不快指数は日々200%超えてるんだ。それくらい、付き合いの長い英二ならわかってるよね。不二がわかってるんだもん、英二がわからないなんてことないよな?」
「あう…」

「なーのーにー」

えぇいっ、この無邪気を装った顔が憎い。

「ひててててて。いひゃいいひゃい!」
「お前はっ、何でそうやって人の不快指数を煽るようなことばかりすんじゃボケッ!!」

学習能力のない猫め、反省しやがれっ。



「何や、また怒られてんのかいな菊丸は」
「身の程知らずにも俺様のに手を出そうなんて考えるからだ」

出た、元凶。
俺の機嫌が悪い最大の原因が、タッグを組んでやってきやがった。

跡部景吾。
自称俺の「対の伴侶」にして、セクハラ帝王。
油断していると喰われること間違いなし。
俺の神経は日々擦り切れ状態だ。

そして、忍足侑士。
つい先日俺の守護者なるものに(いつの間にか)なった、もと神魔。
俺を殺すためにやってきたくせに、守護者になったら手のひらを返したような溺愛ぶり。
セクハラはされないけど、むしろある意味跡部先輩よりもうっとおしい。
この2人のせいで俺の人生に「平和」の2文字はなくなったも同然だった。
あぁ、カムバック。俺の平和な日常。

「顔色が優れねえな」
「ここ最近暑いし食欲も落ちてるようやしな。あまり無理したらあかんよ」

無理させてるのはあんた達だ。

「少し痩せたか? ただでさえお前は細いんだから、これ以上痩せねえようにしっかり食えよ。抱き心地が悪くなったらつまらねえからな」

いや、もうね…。

「何なら東京の気温3度くらい下げるで? それくらいなら大したことあらへんし」
「いっそのこと雪でも降らせるか」
「そら名案だな」

説教するのも馬鹿らしいっつーか何つーか。

「先輩方…」

「何だ?」
「何や?」

「俺のことを心配してくれるんならですね、まずは離れてくれませんか」

俺の腰をしっかりホールドしてる跡部先輩の腕と、肩を抱きこむように回されてる忍足先輩の腕のせいで、身動き1つできやしない。

「照れるなよ、今更だろ」
「せや。愛情表現やし」

……神様、こいつらとまともに対話できる人はどこかにいるのでしょうか。

「つーか、暑いんじゃボケー!! くっつくなー!!」



あぁもう、本当に毎朝疲れる…。


  • 05.11.18