これは一体どういうことなのだろうか。
あれから定期的に黒子は倒れるようになった。
そしてそれまでは元気に戻ってきた黒子だったが、3回目の入院を期に体調がみるみる悪化していくのだ。
3度目の退院の後、筋力の落ちた足ではジョギングにすらついてくることができなくなった。
4度目の退院の後、数メートル先にいる青峰にパスを出そうとしたが届かず、ボールは無情にも2人の間に転がった。
5度目の退院の後、とうとうボールを持っていることすら厳しくなった。
そして、6度目の退院は叶わなかった。
ノックもせずに病室の扉を開けた。
白い小さな部屋は、もう何度足を運んだか分からない。
白い壁、白いカーテン、そして白いベッド。
その中でこんこんと眠る、淡い色素の友人。
ただでさえ薄かった影は、体重の減少と体調の悪化によって今にも空気に溶けてしまいそうだ。
6度目の入院で、テツヤの脳に重篤な腫瘍が発見された。
それはあの時の事故で負ったものが原因だと判明したが、数回に及ぶCT検査でも発見できなかったことに赤司は怒りを覚えた。
角度が悪かったのだと医師は言った。
絶妙な角度で腫瘍が脳の影となり発見できなかったのだと弁明していたが、そんなことで許せる問題ではない。
あれほど何度も念を押した。
高額だと言われるCT検査も毎回行った。
更なる検査が必要ならば転院させても良いとまで言ったのに、この医師は大丈夫だとひたすら言い続けいたのだ。
その結果がこの医療ミスだ。
申し訳ないなどという一辺倒な言葉で許せるはずがないだろう。
発見が遅かったせいで腫瘍は手術で除去できず、そのせいで黒子の余命はあとひと月持つか持たないか。
悪ければ数日の内に容態は急変するだろうと言われている。
ここ数日は目を覚ましている時間の方が圧倒的に短くて、黄瀬や青峰が見舞いに訪れた時も一度も目を覚まさなかったという。
全中の決勝戦は一昨日終わった。
帝光の全中三連覇だった。
だが黒子はそれを知らない。
あれほど毎日練習していたのに、その努力が実ることもなく、眠っている間に大会は終了してしまったのだ。
彼が一体何をしたというのか。
ほんの少し、あの横断歩道をほんの少しだけ早く渡っていれば、黒子はこのような目に遭うことはなかった。
あの日コンビニに寄らなければ、練習をいつもより遅く終わらせていれば。
たった5分――いや1分でも良い。
少しだけいつもと違う行動を取っていれば、あの事故は防げたというのに。
「黒子…」
眠る彼に声を掛ける。
声が聞こえている時もあるのだろう、時折声に反応するように指先や瞼が動くことがあると黄瀬は言っていた。
だから赤司は黒子の耳元で言葉を紡ぐ。
「今日は青峰が練習に来ていたよ。黒子のパスが恋しいと言っていた。黄瀬は仕事で途中で抜けてしまったけれど、面会時間に間に合うようなら来るらしい。撮影場所が神奈川だから厳しいみたいだが。緑間は委員会があって今日は来られないらしい。済まないと伝えてくれと言っていた。紫原は寝ている黒子はつまらないから起きたら来る、だそうだ」
頼まれていた伝言を伝えて、赤司は持っていた紙袋から黒子が一番喜ぶであろうものを取り出した。
この暑さで半分以上溶けてしまったけれど、飲みやすくなって丁度良いのではないだろうか。
甘い匂いが鼻腔をくすぐる。
黒子から時折感じた甘いバニラの匂いだ。
「今日はマジバのシェイクを買ってきたんだ。お前はバニラシェイクが好きだから買っていけと緑間に言われたんだが、俺はああいう店には入ったことがないから知らなかったが、放課後のファストフードの混雑は凄いな。この俺が圧倒されてしまったよ」
基本的にジャンクフードを好まない赤司は今まで一度もマジバに行ったことがなかった。
「マジバのシェイクを飲んだことがないなんて人生を損しています」と黒子が力説しても興味はなかった。
今日も黒子への土産でなければ決して足を踏み入れなかっただろう。
雑然とした店内と騒がしい客には正直辟易したのだから、二度目はないと思いたい。
まぁ、黒子が退院した際には一緒に行くのは吝かでないが。
返答はない。
わかっていたこととはいえ寂しさは否めない。
赤司はシェイクをサイドテーブルに置いて眠り続ける黒子を眺めた。
また少し頬がこけたようだ。
髪も栄養不足でパサついているし、点滴をされた腕は細くて枝のよう。
だというのに肌の白さだけは青白くならず、透き通るような白さを保っている。
そのせいだろうか、今まさに命の灯が消えてもおかしくないという状況なのに、黒子はただ眠っているだけに見えるのだ。
呼べばすぐに目を開けて、いつものあの真っ直ぐな瞳で自分を見てくれるのだと、そんな錯覚を抱かせる。
「黒子」
――何ですか、赤司くん
そう答えてほしくて、赤司は名を呼ぶ。
「テツヤ……」
応える声はない。
◇◆◇ ◇◆◇
とうとう黒子は目を覚まさなかった。
このまま眠り続けたら危険だと言われていたが、だからと言って目覚めさせる方法がない状態では黒子が自発的に起きてくれるのを待つしかない。
ベッドの傍らに座り面会時間が許す限り黒子の目覚めを待ったが、結局今回も起きる気配のないまま赤司は面会終了と共に病室を後にした。
己は万能だと信じていた。
望めば大抵のことは叶えられたし、今までの人生で己の意に沿わぬことなど起きたことがなかった。
だが、そんな赤司でも人の運命というものはどうにもできない。
それは人間の領域ではないからだ。
手術で治るのならば世界中から名医を探してでも執刀させるのだが、黒子の腫瘍は脳の中でも重要な場所にあるため他の神経を傷つける恐れがあり、更に下手に触れば脳内で大出血を起こす可能性が高いため手術ができない。
日々大きくなっていく腫瘍を黙って見ているしかないのだ。
何故黒子がこのような目に遭わなければいけないのだろう。
運命は不条理だ。
ふと視線を感じて顔を上げれば、そこには先日見た2人の青年の姿があった。
面会時間は過ぎているというのに紙袋を片手に病室へと続く廊下を赤司とは反対方向に歩いている。
赤司の後ろにあるのは病室だけだ。
しかも、この先にいる入院患者は黒子しかいない。
先日も黒子の病室から出てきた2人。
親戚だろうかと思った時もあったが、少なくとも赤司は黒子からそのような話は聞いていない。
そしてそれとなく訊ねた時に、目の前の2人に近い親族も知人も1人もいないということを確認している。
『あの彼はもう駄目だよ。寿命が尽きている』
黒髪の青年の言葉が脳裏に甦る。
不可思議な言葉だがその時は気にならなかった。
だが青年の言葉を裏付けるように着実に死へと向かっていく黒子の姿を見れば、青年に不審感を抱くのは当然。
この2人は誰なのか、赤司は知る権利があるはずだ。
だから赤司はすれ違い様に低く問いかけた。
「――お前たちは何者なんだ」
2人の足が止まる。
意外なものを見るような視線が赤司に注がれた。
それも癪に障った。
「俺たちに聞いているのかい?」
「ここにお前たちと俺の外に誰がいる。質問に答えろ」
「―――これは驚いた」
心底驚いたといった様子で目を丸くする黒髪の青年に、赤司の視線が険しくなる。
「あぁ、ごめん。君を馬鹿にしたんじゃないんだ。俺たちの姿が見えるとは思わなかったから」
「……?」
言われたことの意味がわからなくて赤司が瞬きをする。
黒髪の青年が赤司を侮ったわけではないことはわかる。
だが、『見えるとは思わなかった』という意味がわからない。
これほど目立つ2人組を見落とす人はいないと思うのだが。
「廊下で話すことじゃないね。中に入ろう」
そう言って促されたのは黒子の病室だった。
面会時間は終わったのに良いのだろうかと思ったが、咎める看護士がいなかったのだから良いだろうと解釈した。
そういえば、先ほど赤司に面会終了を告げにきた看護士はどこに行ったのだろう。
時間的な問題から考えて廊下にいなければおかしいのだが。
「さて」
赤司の思考を遮るように黒髪の青年の声が響いた。
病室には見舞い客用の椅子は1つしかない。
黒髪の青年はそれを当然のように赤髪の青年に座るように促し、赤髪の青年は無言でそこに腰を下ろした。
心なしか前回会った時よりも疲れているように見える。
「君が何故俺たちを視認できるかは聞かなくてもわかる。――君が『赤司くん』だね」
「なぜ俺の名を…」
「教えてもらったからだよ。ここにいるテツヤにね」
黒髪の青年はタツヤと、そして赤髪の青年はタイガと言うらしい。
赤司が想像していた通り、2人は黒子の血縁でも知人でもなかった。
「死神……?」
「みたいなモノ、かな。神とか天使とか呼ぶ人もいるみたいだけど、少なくとも僕らは君たちのような『人間』ではない。通常ならば誰も見ることのできない存在だ。生きている人間はね」
それはあまりにも非現実的過ぎて、赤司ですら俄かには信じがたいことだった。
あの日、彼らは自分たちの任務を遂行するためあの場所に来ていたこと。
そこで偶然黒子に姿を見られたこと。
彼が足を止めたために本来ならば運転手以外の被害者が出ることのなかった事故に黒子が巻き込まれてしまったこと。
彼らが本来連れていかなければいけない運転手が生き残ってしまったこと。
そして何よりも、あの事故で黒子は即死してしまったのだと彼らは言う。
「馬鹿、な…。だって黒子はこうして生きている」
「そう。生き返らせたんだ。彼の最後の望みを叶えるために、タイガが」
「やめろ、タツヤ」
「こう見えてタイガは人に甘いんでね、死にゆく前に1つだけ望みを叶えてあげようと、哀れな子供に言ったところ彼はこう言ったんだよ。『もう少し、彼の傍にいたい』と」
彼、という言葉が誰を意味するか赤司にはわからない。
普通に考えれば家族かと思うが、それならば「両親」と言うのではないだろうか。
バスケ部のメンバーかと思うが、それならば「彼ら」と言うはず。
赤司の感情を無視してタツヤと名乗った青年は言葉を続けていく。
「本来なら死ぬべき運命ではなかった子だ。可能ならば助けてあげたいとは思うが、生憎俺たちも全能ではない。せいぜい数か月延命させるのが関の山だ。それももう限界に来ている。消える命を繋ぎ止めるのは俺たちでも容易なことではないんだ。聡い君なら、この意味がわかるね?」
「黒子が、死ぬということか…」
青年は頷いた。
「正解。そして、俺たちは今日、そのためにここに来た」
「そんな…」
赤司はベッドへと振り返る。
相変らず静かな寝息を立てている黒子の姿がそこにある。
目を覚ましてほしいと思っていた。
それが駄目でも何か反応を示してほしいと。
それなのに、そんなささやかな望みすら奪っていくというのだろうか。
「……ける、な」
赤司は徹底的な現実主義だ。
叶わない願いは持たないし、神だ悪魔だという存在など信じてはいなかった。
だからこそ、目の前の不条理な存在が許せない。
色違いの双眸で悠然と佇む2人を睨みつけた。
「ふざけるな! 人の命を弄んで…っ、黒子を…俺たちの仲間を勝手に奪っていくというのか!」
「そうだ」
「何の権利があって俺たちから黒子を――テツヤを奪う!」
「それが運命だからだ」
「違う! 黒子の運命を捻じ曲げたのはお前たちだ!!」
赤司の罵声を受けても青年の顔色は変わらない。
何の意味もない言葉の1つのように、平然とした顔で受け止めているのだ。
それが更に腹立たしい。
世の中が平等でないことは赤司とて知っている。
だが、何故黒子だけがこのような目に遭わなければいけないのだ。
何故、自分が黒子を喪わなければいけないのだ。
「俺の邪魔をする者は、神であっても殺す!」
「――――随分と不遜な物言いだな、赤司征十郎」
黒髪の青年の目がす、と細められた。
赤司にとって神とは存在しているかわからない曖昧なものだが、青年にとっては不可侵の存在だ。
赤司の言葉は決して看過できるものではない。
青年の腕が伸びて赤司の喉笛を締め上げた。
片手で赤司の身体を持ち上げて、そのまま無造作に放り投げられた。
簡単に吹き飛ばされた赤司の身体はパイプベッドの足にぶつかって止まる。
冷ややかな視線が赤司を見下ろしていた。
「俺たちは少し外すとしよう。その沸騰した頭を冷やすといい」
そう言って青年は病室を出て行った。
項垂れたままの赤司に声をかけようかと迷っていた赤髪の青年も、結局そのまま病室を後にした。
残されたのは無様に座り込む赤司だけだ。
「―――くそっ」
手も足も出ないとはまさにこのことだ。
そもそも人外とまともに相手をしようとしたのが悪かったのか。
だが諦めてしまえば黒子はこの手をすり抜けていなくなってしまう。
それだけは認めるわけにいかないのだ。
「テツヤ……」
初めて会った時から興味があった。
スポーツ選手として圧倒的不利な身体、だというのに挫折することも妥協することもなく只管に練習を重ねていた小柄な身体。
決して上手とはいえないドリブルもシュートも諦めずに遅くまで練習していたことを知っている。
影の薄さとパスの特異性に気付いて彼に教えたのは親切心だけではない。
黒子と一緒に試合に出たかったからだ。
赤司の予想通り、彼のパスは相手チームを撹乱させて面白いように試合はこちらのペースで進めることができた。
キセキのように恵まれた体格も才能もないけれど、それでも誰にもない武器を手に入れ努力を怠らない彼と一緒にいるのは居心地が良かったのだ。
のろのろと身体を起こし、相変わらず眠り続けている黒子の寝顔を見つめた。
白い頬に手を伸ばす。
赤司の指が形の良い鼻梁に触れた瞬間、黒子の睫毛がふるりと震えた。
ゆっくりと開いていく瞼の奥から、宝石のような水色の瞳が姿を現わし赤司の姿を捉えた。
「あ、かし、くん…」
たどたどしい子供のような声で赤司の名を呼んだ。
そうして点滴をしていない手を伸ばして赤司の頬に触れる。
「泣いたら、駄目ですよ」
ふわりと笑う黒子に何と答えたか、赤司は覚えていない。
◇◆◇ ◇◆◇
それから2日後、黒子は眠るように息を引き取った。
通夜にも葬儀にも参列したが、不思議と涙は出なかった。
火葬は家族だけで行いたいと言われたので、赤司はそのまま黒子家を後にした。
あの子の遺品だと渡されたのは小さなストラップだった。
バスケットボールの飾りと小さな鈴がついたシンプルなストラップ。
中学2年の修学旅行でキセキの全員とお揃いで買ったやつだ。
桃井を含めて全員が色違い。それぞれ自分達の髪の色と同じ色の鈴がついたものを買ったと記憶しているが、赤司に渡されたそれは何故か赤い鈴がついていた。
そう、黒子のストラップはあの事故で壊れてしまった携帯電話にきちんとついていたのだ。
全員で一緒に買い、その場で携帯に付け替えたのだから。
赤司は自分の携帯をポケットから取り出した。
アクセサリー類を好まない赤司の携帯には、あの時付けたストラップが揺れている。
赤い小さな鈴のついたそれは、黒子の母から譲り受けたストラップと全く同じだった。
『赤司くん』
そう呼んで笑っていたあの日の黒子。
己の運命は知っているのだというかのように何もかも悟った笑顔はとても儚く、そして驚くほどに綺麗だった。
そうして気づいた己の気持ち。今更過ぎて笑うこともできない。
帰り際、2人の青年が赤司を待っていた。
友人を救えなかった謝罪と、たった1つの提案を告げて消えた彼らが何者か、もうどうでも良い。
神だろうと悪魔だろうと死神だろうと、そんなことも今更なのだ。
黒子は死んだ。その事実だけが全て。
「……いるんだろう」
人気のない公園で、赤司は誰に問うとでもなく声をかけた。
赤司の声に応えるように青年が姿を現わした。
「今日は1人なんだな」
「タイガは疲れてるからね」
黒子の寿命を少しでも延ばすためにと尽力していたタイガは、体力のほとんどを使い果たしてしまったらしい。1人の少年の人生を狂わせてしまったことに対する贖罪のつもりなのだろう。
たかが数か月の延命で彼らの犯した行為を許すつもりはないが、それが彼らにできる最大限の行動なのだということだけは理解した。何よりも当事者である黒子自身が全てを知りながら彼らを責めていなかったのだから、傍観者である自分は何も言う資格はない。
「俺を呼んだということは、君の願いは決まったということでいいんだね」
「あぁ」
赤司の問いに青年はふわりと微笑んだ。
柔らかい笑顔はあの日の黒子の笑顔を思い出させて胸が痛む。
外見はまるで似ていないのに、時折見せる仕草が重なるのだ、この青年と黒子は。
赤司の告げた言葉を青年は静かに聞いていた。
そしてただ一度、わかったと頷いて姿を消した。
『幸せになりなさい』
そんな言葉が耳に届いたが、赤司は小さく笑ってそれを聞き流した。
◇◆◇ ◇◆◇
それから数年後。
赤司は大学入学と同時に結婚した。
相手は良家の子女で赤司より2歳年上の20歳。今年の春に短期大学を卒業したばかりだ。
赤司征十郎という優良物件に目をつけた相手側の半ばごり押しとも言える結婚だった。
明らかな政略結婚に赤司の友人たちは素直に喜べなかったが、他ならぬ赤司本人が了承したことなので表立って反論する者はいなかった。
相手の女性は穏やかな性格の美しい女性で、政略結婚とはいえそれなりに幸せそうだったのが幸いだ。
大学在学中に友人と一緒に興した会社が軌道に乗るのに半年。
経済紙で時代の寵児と騒がれるようになった頃、赤司に第一子が誕生した。
歯車が狂い始めたのはそれからだ。
両親のどちらにも似ていない子供を見て、赤司家の親族はまず妻の不貞を疑った。
本人は潔白を主張したものの一度芽生えた不信感は拭えることはなく、仕事で多忙な夫に相談してもまともに相手にしてもらえなかった彼女は、やがて離婚届に判を押すと実家に帰っていった。
赤司は終始無言であった。
妻が不貞を疑われていた時も、お互いの親族が今後のことについて話し始めていた時も、妻が泣いて誤解だと訴えていた時も、終始変わらぬ態度で静かに事態の結末を見守っていた。
その腕に自分にも妻にもまるで似ていない息子を大切そうに抱きながら、冷静な目で妻と親族が口汚く罵りあう様をただ眺めているだけだった。
そうして離婚が決定した時、赤司は当然のように息子の親権を手に入れた。
妻であった女性もまだ22歳。
人生を再出発させるのに子供は邪魔になるだろうと、相手の親族からも反対はなかった。
赤司家からの反対はあったが、彼らが声高に息子を非難すると赤司はあっさりと実家を捨てて独立してしまい周囲を唖然とさせた。
新しい家で幼い息子と2人、赤司は幼子を腕に抱いたまま小さく笑う。
アクアブルーの髪と瞳を持つ幼子は、父の腕の中ですやすやと安らかな寝息を立てている。
赤司の子供を見た友人たちは揃って息を呑んだ。
あまりにも似すぎているのだ――若い頃に失ってしまった大切な友人に。
「契約をしたんだ」
そう言った赤司の言葉の意味を理解した者は誰もいなかった。
生まれた子供は『テツヤ』と名付けられ、赤司の愛情を一身に受けて健やかに成長している。
今度は事故になど巻き込まれないように。
余計なものを見ないように。
そして何よりも、健やかで長生きできるように。
赤司は眠る幼子を慈しむ。
「可愛いテツヤ。今度こそ僕の傍で幸せにおなり」
- 14.07.02