その現場に遭遇した赤司は目の前で起こった出来事が信じられなかった。
練習を終えていつものメンバーで帰路についたのは、普段と同じ時刻だった。
空腹を訴える紫原と青峰に付き合うようにコンビニへ寄り、いつものように菓子やら肉まんやらアイスやらを手に歩き始める。
行儀が悪いと赤司はいつも買い食いには参加しなかったが、育ち盛りの少年たちにとっては貴重な栄養補給である。心なしか笑顔が普段よりも輝いて見えるのは気のせいではないだろう。
そうして差し掛かった横断歩道。
歩行者専用の信号が青を示しているのを確認しつつ歩道へと足を踏み入れた。
歩道を渡り終えた時、何気なく振り返ってみれば歩行者用の信号が点滅を始めていた。
先程すれ違った高齢の女性がきちんと向こうに渡りきれるのだろうかと目線を動かした赤司は、自分の数歩後ろを歩いていたはずの黒子が未だ横断歩道の半ばにいたことに気付いた。
何かに驚いたような表情で空の一点を凝視していた黒子は信号が点滅をしていることに気付いていない。早く来るようにと促すべく声をかけようとした赤司だったが、それよりも早くその小柄な体が右折してきた乗用車に勢いよく跳ね上げられる様を目撃してしまった。
「――――――――っ!!」
ドン、という衝突音の後に続くブレーキ音。
焼けたゴムの臭いと悲鳴。
心臓を鷲掴みにされたような衝撃が赤司を襲った。
影の薄い黒子のことを運転手は認識できなかったのか車は減速もせずに横断歩道へと進入していた。平均身長とはいえ体重は平均よりも遥かに少ない黒子の小柄な身体は乗用車の体当たりを身体全身に受け車道へと跳ね飛ばされた。
まるでドラマか漫画のようなシーン。
空中で弧を描いたテツヤの身体はドサ、という音と共に地面に叩きつけられた。
それでも相殺できなかった衝撃で幾度か道路を転がり―――そして止まる。
先程まで彼が手にしていた鞄はタイヤの下敷きになり、踏み潰されて飛び出した中身は散乱し、壊れた携帯電話が赤司の足元まで転がってきた。
携帯に付けられていたストラップの鈴が立てた小さな音が妙に耳についた。
時間が凍りついた。
黒子はピクリとも動かない。
ただでさえ細い身体は体力も筋力もないというのに、明らかな速度違反で突っ込んできた車の衝突を受けたのだ。
アスファルトに広がっていく血液の量を見ても無事であるはずがない。
周囲に人の輪が出来ていく。
ほとんどの人は心配するように、極一部の人は好奇心で、動かない黒子を取り巻くように集まってきた。
その中から聞こえてきた無神経な声が赤司を現実に引き戻した。
――う、わっ、これ、死んでんじゃね?
脳が沸騰するかもしれない怒りというものを、赤司はこの時初めて体験した。
同時に他のメンバーも我に返ったらしく、黄瀬が慌てて倒れている黒子へと走り出す。
「っ、黒子っち!!」
頭を打っている場合は動かさない方が良いという救命の知識はとっさには出てきてくれないらしく、黄瀬がぐったりと俯せている黒子を抱き上げようとして緑間に止められた。
「動かしては駄目なのだよ。障害が残る可能性がある」
「でも、だって、黒子っち…こんな……」
涙を溢れさせて倒れている黒子に手を差し伸べようとして、そうして手を止める仕草を繰り返す黄瀬と、己の学生服を脱いで倒れている黒子にかける緑間。
動転したのか事態の重大さに気づいて怖くなったのか、逃げるように車に乗り込もうとした運転手を怒りの形相で引きずりおろした青峰に、震える手で救急車を呼ぶ桃井。
その間、赤司は動くことができなかった。
事故の衝撃、出血の量、動かない黒子。
黒子の体力や抵抗力を考えても、この状況から導き出された未来が見えてしまい足が動かないのだ。
これは助からない。
赤司の鋭い洞察力は、チームメイトの事故を瞬時にそう判断した。
親しいと言える関係だった。
大切なチームメイトで、友人と呼べる関係で、一緒にいると何故か安心できる相手だった。
これから全中が始まり、全員で全中3連覇という偉業を達成しようと約束したばかりだというのに。
ようやく到着した救急車がチームメイトを乗せて走り去っていってしまうのを、赤司は震える身体で見送ることしかできなかった。
◇◆◇ ◇◆◇
赤司が生まれて初めての絶望と恐怖と無力感に苛まれた日から3日。
「おはようございます」
黒子は何食わぬ顔で練習に参加してきた。
驚いたのは壮絶な事故現場を目撃してしまった赤司だけでなく、HRなどで事情を説明されていた黒子のクラスメイトたちも同様だった。
奇跡的に一命を取り留めたということは聞いた。
搬送中に意識を回復させた黒子は奇跡的にも頭部の切り傷と打撲のみで命に別状はなかったらしい。
頭部を強打していたためにCT検査を行ったのだが、結果は異常なし。
だが念のため数日入院して様子を見るということを、深夜遅くにかかってきた緑間からの連絡で知った。
打撲も骨に異常があるものはなく単純に運が良かったのだろうということだったが、それでも普通なら死んでいてもおかしくない事故に遭ったというのに、僅か数日で退院するだけでなく部活に復帰してくると誰が思うだろうか。
だというのに黒子は相変わらずで淡々と挨拶を済ませてストレッチを開始している。
頭の包帯がなければ事故を起こしたということすら信じられないほどの通常運転だ。
だがやはり体操服の二の腕から覗く痣の痕が痛々しい。
治りかけの痣は黄色とも黒とも言いようのない色をしており、黒子の白い肌には目立つのだ。
赤司は逸る気持ちを押さえてゆっくりと黒子の傍へと近づいた。
「黒子」
「赤司くん」
起き上がろうとするのを手で制して赤司は水色の瞳を凝視する。
相変らず何を考えているかわからない瞳だ。
天帝の目を持つ赤司であっても、黒子の心の中は計りかねた。
ただ一度言ったことは決して翻さない意志の強さだけは目を見なくてもわかる。
「…大丈夫なんだな」
「はい」
赤司が念を押すように訊ねれば、予想以上に強い口調で頷かれた。
そして困ったように苦笑して立ち上がる。
己の頬に伸ばされた手は暖かく、知らず強張っていた身体から力が抜けていくのを感じた。
「赤司くんにも皆にも心配かけてしまったようですね。でも、本当にもう大丈夫なんです。額の傷が完治するにはまだちょっと時間がかかりますけど、痣も薄くなってますし痛みもほとんどないんです。勿論、今までと同じメニューをこなすのはちょっと無理かもですけど、僕も皆と一緒に練習したいんです」
「…駄目だと言ったら?」
「それは困りますね。そうしたら体育館の隅で1人で練習するか、病院に行くと嘘をついて第三体育館でこっそり練習することにします」
しれっと悪びれない台詞を吐いて、黒子は赤司を見る。
無駄に男らしい黒子のことだ。おそらく宣言通りの行動を取るのだろう。
病み上がりの身体で無茶をされるのなら、少なくとも目の届くところでされた方が数倍も良い。
「仕方ない。だが、念のため今日のコート練習は控えるように。ストレッチと基礎練習くらいなら認めてやろう」
「流石赤司くん、太っ腹です。その調子でコート練習の参加も認めてほしいです」
「駄目だ」
「じゃあ、せめてミニゲームを……いえ、何でもないです。すみませんごめんなさい調子に乗りました」
じろりと睨めば流石に拙いと思ったのか、謝りつつも不貞腐れる黒子の姿は本当にいつもと同じだ。
そして赤司は黒子に弱い。
赤司はため息をついた。
「…ストレッチが終わったら待っていろ。もうすぐ緑間たちが来る。黄瀬に1on1でも付き合ってもらえ」
「赤司くん…、大好きです!」
「そう言ってもらえて何よりだ」
無表情ながらも瞳を輝かせて抱きついてくる黒子の身体を片手で受け止める。
そして感じる身体の細さ。
余分な肉どころか必要な筋肉すらないこの痩躯で、よくぞ軽傷で済んだものだと思う。
赤司が見る限り、あの車は法定速度以上の速さだった。
青信号で右折してきた車は横断歩道に歩行者がいるというのにかなりの速度で突っ込んできたのだ。
他にも歩行者がいたことを考えると犠牲になったのが黒子だけというのは、黒子には悪いが幸運なことだと思う。
特に黒子の数メートル後ろを歩いていた全盲の老女が巻き込まれていたら、確実に命はなかっただろう。
だからと言って黒子だけが被害に遭ったことを喜べるわけではないのだが。
黒子は赤司にとって大事な仲間であり友人だ。
赤司は自分の大事なものを傷つけられて黙っているような人間ではない。
当然のことながら、運転手にはしかるべき罰が課せられるだろう。
通常よりも重い罪状に、せいぜい己の仕出かしたことを後悔するがいい。
「あぁ――――っ、黒子っちいぃぃぃぃぃ!!」
突如体育館内に響いた大声が誰のものか、今更問うまでもないだろう。
入口へと振り向けば、そこには委員会のためいつもより少しだけ遅れてやってきたキセキのメンバー。
声と同時に駆け寄ってくる黄色い大型犬、恵まれた身体能力で数秒後には目の前にいた。
ぎゅっと抱きつく姿はいつもと同じだが、病み上がりの黒子の体調を慮ってか抱きしめる腕の力は普段より若干だが弱い。
「五月蠅いぞ、黄瀬」
「だって、だって! 黒子っちが学校に来てるんっスよ!!」
「退院したから部活に来たそうだ。コート練習は無理だが軽い練習は許可した。黄瀬、相手をしてやれ」
「了解っス。黒子っち、退院おめでとうっス。教えてくれたら病院まで迎えに行ったのに」
「ありがとうございます、黄瀬くん。わざわざそこまでする必要ないと思ったから言わなかったんですよ。こうしてすぐに会えたじゃないですか」
「そうっスけど、心配したんスよ」
「そうなのだよ。お前はどこまで俺たちに心配かけたら気が済むのだよ」
「緑間くん…、君にも迷惑をかけてしまいましたね。すみません」
「べっ、別に迷惑ではなかったのだよ。ただ、お前はもう少し自分の影が薄いことを自覚するべきなのだよ!」
「そうそう。黒ちんが吹っ飛んでいくの見てびっくりしたし」
「僕もびっくりしました。結構飛ばされましたよね」
「ぽーんって飛んでったよ。10メートルかな」
「それは凄いですね」
「何でお前が他人事なんだよ。見てた俺らの方は生きた心地がしなかったってのに」
「いや、もうあれは何というか、びっくりとしか言えなかったですね」
「だからそんな軽いものではなかったのだよ! 軽傷なのは運が良かったからで、普通なら即死していてもおかしくない状況だったのだよ!」
「黒ちんはもう少し反省するべきだと思う」
「そうだな。じゃあやはり黒子は今週は見学ということで」
「酷いです。横暴です。発言の撤回を要求します」
「まあまあ、今日は快気祝いということで少しくらい大目に見てもいいんじゃないっスか」
「流石です、黄瀬くん。ということで1on1に付き合ってください。さあ、今すぐ」
「うわっ、ちょっと黒子っち。せめて着替えさせて」
黄瀬の腕を引っ張ってコートへと移動していく黒子の様子を赤司がじっと見つめる。
仕草、反応、それらを確認するように目で追う赤司に緑間が気づいた。
「黒子が気になるのもわかるが、過干渉は良くないのだよ」
「過干渉というわけではないが…、いや、確かにいつもより過保護になっているようだ」
「お前は身の内に入れた人間には甘いからな。だが、医師の診察も受けた、CT検査も行った。全て異常なしと出ている以上、安静にしていろとは言えないのだよ。まぁ、流石にいきなり試合はさせられないが」
「わかっている」
「交通事故で奇跡的に無傷だったり軽傷だったりする人は意外と多いのだよ。心配しすぎるのも黒子にとって良くない」
「わかっているよ、緑間」
診断書も見せてもらった。
良くわからないだろうと言われたけれどCT映像も見た。
黒子の動いている姿を見てやはり問題なしだとわかっているのに、何故だろう。
赤司の目には黒子が今にも消えてしまいそうに見えるのだ。
◇◆◇ ◇◆◇
その予感が的中するのはそれから2か月後。
部活中に突然黒子が倒れたのだ。
ジョギング中に疲労と酸欠で倒れることは今までにも良くあったことで今更驚くことではない。
だが、試合の途中に突然頭を押さえて倒れたのだから驚くなという方が無理だ。
黒子は以前の事故で頭部を強打している。
CT検査の結果でも異常なしと言われていたが、数か月後に後遺症が出る事例は珍しくない。
そのためすぐに救急車で運ばれたのだが、今回の検査でも異常なしと診断された。
では一体どうして倒れたのかと医師に詰め寄っても「わかりません」という言葉しか返ってこなかった。
「本当にわからないんです。CTでも異常は発見されませんでしたし、診察の結果も同じ。血圧も脈拍も通常で、若干の低体重を除けば彼は普通に健康体なんですよ」
医師は詐病ではないかと疑ったが、倒れる際の苦しげな表情は嘘には見えなかった。
第一黒子に仮病を使う理由がない。
もうすぐ全中も始まるのだ。
体調不良だとわかればレギュラーから外されてしまう可能性が高く、大会に向けて日々頑張っている黒子がそのような行為をするはずがない。
不可解な感情を胸に抱きながら、赤司は黒子が眠る病室へと向かっていた。
異常は見られないけれど念のため一晩は入院して様子を見ようということらしい。
前回の事故の時も同じだったが、それで本当に黒子の具合は良くなるのだろうか。
赤司は基本的に自分の目で見たことしか信じない。
だからいくら医師が異常なしと言ったところで、蒼白で倒れた黒子を見ている以上、その言葉は俄かには信じられなかった。
元気な黒子の姿を見て、そこでようやく赤司は医師の言葉を認めるだろう。
病棟は面会時間も終わりに近づいていたからか、廊下には人の姿がほとんどない。
特にこの階には入院患者が少ないのだと看護士に告げられた通り、見舞いはおろか入院患者の姿も廊下には見られなかった。
赤司が病室へと続く廊下を曲がったその時、奥から2つ目の病室の扉が開いて中から十代後半と見られる男性が姿を現わした。
赤い髪の野性味溢れる男性と黒髪の柔和な男性。
どちらも身長は180を超える長身で、そして何か運動をしているのか引き締まった体躯をしている。
見舞いを終えた人なのだろうと赤司は向かいから歩いてくる青年の横を素通りしようとして、かすかに聞こえてくる声が耳に入った。
「―――から――だろう。もう――――」
「でも――――――ら、俺――――――せめて――――――」
声のトーンからあまり明るい話ではないことが分かる。
他人の話に聞き耳を立てるのも行儀が悪いだろうと、なるべく聞かないようにと少しだけ歩調を早めた。
だが、2人の姿が通路を曲がる直前に聞こえた声に、赤司は足を止めて振り向いた。
聞き間違いかと思いたい。だが――。
『あの彼はもう駄目だよ。寿命が尽きている』
『……わかってるよ!』
何とも不穏な言葉に、他人事だというのに赤司の表情が強張った。
淡々とした声はおそらく黒髪の青年だろう。
反対に苦渋に満ちた赤髪の青年の噛みしめるような言葉が妙に耳に残った。
おそらく知人の見舞いに来て、その人物が助からないと確信してしまったのだろう。
病院では良くある光景だ。
察するに身内なのが赤髪の青年で、付き添いが黒髪の青年といったところか。
不幸だとは思うが、黒髪の青年が言う通り寿命なのだとしたらどうしようもない。
そう思いながら赤司は黒子が眠る病室を探す。
角を曲がった奥から2つ目の部屋だと言われたが、左右どちらなのだろうと思いながら視線を動かし、そして左側の部屋が先程青年が出てきた病室なのだと気づいた。
自分には関係ないと言い聞かせ、赤司は右の扉を開ける。
そこは個室で、そして現在は空き室になっているらしく無人のベッドが置かれているだけだった。
ということは必然的に黒子がいる病室は反対側しかない。
寿命が尽きてると言われる病人と一緒の部屋というのは黒子が落ち着かないのではないかとそんなことを思いながら赤司は扉を開いた。
先程の病室と同じく個室で、1つしかない簡素なパイプベッドには黒子が静かに眠っている。
他に人の姿はどこにもない。
だが、あの青年たちが出てきたのは間違いなくこの部屋なのだ。
彼が見舞いに来ていた相手というのは黒子なのだろうか。
ということは……。
赤司の脳内に先程の言葉がリフレインする。
『あの彼はもう駄目だよ。寿命が尽きている』
あの彼というのは黒子のことなのだろうか。
では、寿命が尽きているというのは――。
(黒子が………?)
◇◆◇ ◇◆◇
あの事故の後と同様、黒子は退院してきたと同時に部活に参加してきた。
本当に倒れたのかと言いたいほどに普段と変わらない様子は他のメンバーには安堵の材料として映ったのかもしれないが、赤司にとっては異質さの証明でしかなかった。
心臓の欠陥ならば症状が治まれば普段と変わらない生活を送ることは可能だ。
だが黒子が痛みを訴えていたのは頭。
頭部の痛みというのは馬鹿にできないもので、気が付かないうちに出血していることもあれば、重篤な腫瘍に蝕まれている可能性もある。
どちらにしろ痛みというのは身体の不調を訴えているのだから、一時的に治ったからと言って安心できるようなものではないはずだ。
今回も黒子のCT検査は異常なし。
脳波も同様に異常なしで、医師は運動に支障なしと太鼓判を押した。
だが、赤司の目にはどうしても異常なしとは思えなかったのだ。
何故なら、黒子の体重はあの事故以降減少の一途を辿っている。
食欲も以前に増して細く、元から細かった身体は今では女生徒よりも華奢に見える。
若干の顔色の悪さも気になるし、表向きは元気に見えるけれどやはり何かあるのではないかと思うのは当然だろう。
医師も低体重を気にかけていた。
今はまだ食事に気を付けるようにという忠告程度だったが、更に低体重が進めば深刻な問題になるだろう。
何よりも黒子の身体には余分な肉がついていないため、体重が減少することは生きていくうえで最低限必要な筋肉が落ちていくことを意味するのだ。
本人も自覚しているのだろう、皆揃って食べる昼食の時間にはどうにか完食しようと頑張っている姿が見られる。
その弁当箱も以前より小さくなっていた。
以前は女子生徒並みの大きさだったものが1回りほど小さくなり、今では幼稚園生と同じ大きさに変わっていた。
中には小さなおにぎりが1つと消化に良さそうなおかずが数点。そして1切れの果物。
成長期の男子中学生ならば5分で完食してしまう量を、黒子は昼休みの時間全てを使って食べる。
それでも時々苦しそうに残してしまうのだから拒食症を疑ったのも当然だ。
だが、そう告げると黒子は笑うのだ。そんなことはないと。
「ただ、ちょっと朝に食べ過ぎちゃってお腹が空いてないんです。家ではきちんと食べてますよ」
その言葉を信じるには勇気が必要だった。
1週間後、またもや倒れた黒子の体重は、4月の健康診断の時に比べて5キロ減っていた。
- 14.07.02