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Rebirth 02


何が起きているんだ。
ルルーシュは暗闇の中で呆然としていた。
アッシュフォード学園の麗しの生徒会副会長であるルルーシュランペルージは、学園でも髄一の知識と統率力を誇るが、その反面突発的事項に致命的に弱いという欠点を持っていた。
いやいやその欠点が可愛くていいのよとは同学園生徒会長の談であるが、今はそんなことどうでもいい。
むしろこの欠点が今のルルーシュを追い詰めているのだから、やはり欠点は何とかして克服しなければいけないのではないかと帰宅した際には反省とシュミレーションを己に課しておくが、果たして無事にここから帰れるかどうか、それすらわからないのが本当のところだ。

というのも、ルルーシュは只今トレーラーの荷台の中にいた。
しかも絶好調で軍に追われているらしい。
時折聞こえてくる警告の声と銃声。
更には追撃を逃れようと蛇行を繰り返すものだから、ルルーシュの身体は右に左にと振られ、まともに立っていることもできない。むしろ軽く乗り物酔いだ。
断言しよう。誰が好き好んでそんなところにいるものか。
…いや、好き好んでトレーラーの中に入り込んだのは確かにルルーシュ自身なのだけれど、あくまでも事故だと思ったから忍び込み…もとい入ったのであって、まさかテロリストの車だなんて微塵も思っていなかった。
知っていたら郡に通報するなり警察に通報するなり無視するなりしていただろう。
トラブルに巻き込まれるのは勿論のこと、軍や警察など近づきたいものではないのだから。
それなのに、この状況では下手をしたら自分もテロリストの一味と思われてもおかしくない。

「くそっ」

忌々しく舌打ちしたところで車は急に止まれない。
むしろ止まったら警察や軍に取り囲まれてしまうのだから、どちらがましかと言われればこのまま走り続けて軍から逃げ切ってくれることを願う。
そこから先はそのとき考えよう。
1人ならば打開策はいくらでもある。
そう、1人ならば。そう思っていたのに…。



「なあなあ、俺達ってもしかしてお尋ね者?」
「リ…リヴァル?!」

暗闇から声がしたら驚くのは当然だ。
しかもその声がよく知った人物であり、つい数十分前に別れた悪友なのだから尚更だ。
慌てて視界を巡らせば暗闇に慣れてきたせいか簡単にその姿を見つけることができた。
愛用のヘルメットを被ったまま、リヴァルは床に四つん這いの姿勢でいた。

「お前…どうやって…」
「あれ? ルルーシュの後ろにずっとついてたけど、気づかなかった?」
「後ろって…」
「だってさ、明らかに怪しいじゃん。このトレーラー。ルルーシュってば運動神経ないくせに無謀だから、もしかしたら野次馬に行ったんじゃないかと思って心配してついてきたんだ。案の定乗り込んでいくわそのまま運ばれていくわで、このまま1人だったら色々とやばいだろう? ついてきて正解。俺ってすごい」

へへ、と笑う姿はまったく悪びれていないばかりか、この状況に対して余裕すら見える。
ルルーシュが知るリヴァルは確かにお調子者だが、こんな予測不可能の事態で笑っていられるほど度胸はなかったはずだ。
おかしい。そう思うけれど何がおかしいかはわからない。

「さて、と。何かこのトレーラー運転してるのテロリストみたいなんだけどどうしよっか。巻き込まれただけですって言っても信じてくれなさそうだよなー」
「お前…何でそんなに落ち着いて…」
「あ、何か装置発見」
「おいこらリヴァル!」

揺れが治まったせいかリヴァルが周囲をきょろきょろと見回して、そこにあった大きな円形の装置によじのぼり始めた。
それは先程聞こえてきた会話の内容を考えると、多分間違いなく毒ガスで。
自分が死ぬのは勿論だが、友人を危険な目に合わせるわけにはいかないとルルーシュは慌てた。
立ち上がろうとしたその時、轟音とともにトラックが停止した。
おそらくはタイヤを打ち抜かれたために走行不能になったのだろう。
衝撃とともに壁に叩きつけられて声が詰まる。

「あいててて…。ルルーシュ、平気かー」
「…一応な。お前は大丈夫か」
「だいじょぶだいじょぶ。ちょーっと落ちかけたけど、何とか無事」

装置の上から手を振る友人の姿に安堵の息をつく。
無事ならばそれでいい。
車が停止している今が逃げ出すチャンスだ。
運転手がどうなったか心配ではあるけれど、今は自分とリヴァルの身が第一。
テロリストの一味として捕まるわけにはいかないのだから。

「おい、リヴァル。そこから降りろ。逃げるぞ」
「ちょっと待って。もう少しで解除できそうなんだからさ」
「馬鹿が! それは毒ガスだ。解除したらこの地域一帯に被害が…」



「動くな」



背後から静かな声と撃鉄を落とす音がして、ルルーシュは小さく舌打ちをした。
間に合わなかった。相手は銃を持っている以上大人しくしなければ即攻撃をされてしまうだろう。
ゆっくりと背後を振り返れば、そこには武装した軍人の姿。
相手は1人だがこちらは丸腰だ。
どうにかして逃げることは可能だろうかと考えているルルーシュの耳に、相変わらず状況を把握していないリヴァルの呑気な声が聞こえてくる。

「おーい、ちょっと手を貸してくれよー」

えぇい、どうしてくれようこの男。
こっちは銃を突きつけられているんだ、というかそれは毒ガスだと言っているだろうが、お前は大量虐殺をしたいのかとか、その他諸々の罵詈雑言が喉元まで出掛かって、それでも何とか言葉を飲み込んだのは余裕がなかったというわけではなく、目の前の軍人がおもむろにルルーシュを押しのけたからである。




「ちょっとどいて」
「え…おい…」
「了ー解。頼むな」

軍人の声にリヴァルがひらりと身を翻す。
え? あれ? 何で?
自分の言葉には耳も貸さなかったリヴァルが軍人の声にあっさりとその場を降りる。
命令に従ったかのようだが、それにしては軍人の口調が柔らかい。
しかもリヴァルの言葉も非常に軽い。
とん、と軽やかに着地したリヴァルを確認してから、銃声が響く。
金属音とともに装置から煙が噴出される。

「…え?」

毒ガスかと思った装置から出てきたのは少女。
それも全身を拘束されている。
これが毒ガス? と思ってしまうルルーシュに罪はない。何せ彼は突発的事項には致命的に弱いのだから。
哀しいことに今のルルーシュに思考回路はほとんど残っていない。
悪友の妙に座りきった度胸といい、軍人の理解不能な行動といい、少女が閉じ込められていた謎の装置といい、もう何から頭を整理してよいのやらさっぱりだ。
軍人が少女の傍に歩みより拘束を解いていく。
露わになった素顔はルルーシュと同年代の少女だった。
美しいと形容できる表情に、だが浮かぶのはきつい光で。

「遅い」
「悪かったよ。だってまた捕まってるなんて思わないじゃないか。これでも急いだんだよ。軍にはまだ気づかれていないんだから褒めて欲しいな」
「うるさい。どうせならもっと早く助けに来い。あっちこっち揺られてこっちは車酔いだ」
「すんなり捕まるC.C.が悪いんだろう。嫌なら逃げなよ」
「馬鹿だなお前は。捕まってなければこいつに会えないじゃないか」
「あ、そうか。じゃあ僕が文句言われる筋合いないじゃないか」
「お前、私を誰だと思っている。C.C.だぞ」
「はいはい。あ、リヴァルも久しぶり。元気だった?」
「勿論。お前も元気そうで何よりだよ」
「こいつは頑丈だけが取り得だからな」
「あははは。君にだけは言われたくないよ。魔女」

「おい」

ようやく現実に戻ってこれたルルーシュが、目の前で仲良く談笑し始めた3人に据わり切った目を向ける。
ちなみにこの状況を仲良くと判断するかは個人の自由だ。
一番先に見据えたのは勿論悪友であるリヴァル。
胡散臭いと言えば目の前の緑髪の少女が最も胡散臭いのだが、やはりここは身近なリヴァルに聞くのが一番だろう。
分からないなどとほざいたら絞めてやる。
だが、そうして見据えた視界を遮るように、軍人が目の前に立ちはだかった。

「な…なんだお前…」
「ルルーシュ。久しぶりだね!」
「ほあ?!」

いきなりの抱擁。しかもぎゅうぎゅうと抱きしめられてようやく戻りかけた思考がまたもやフリーズする。
見開いた瞳の先で、軍人がマスクを外す。
見たことがある新緑の瞳と茶色いくるくるの髪。
別れた時よりは成長しているけれど、相変わらずの人懐こそうな笑顔。

「…スザク?」
「うん。会いたかったよ。半年ぶり」
「半年? お前とは7年前に生き別れになったっきりだぞ?」
「うん。でも僕にとっては半年ぶりなんだ。いやぁ、また君に会えるなんて、本当に神様っているもんだね。僕、少しは宗教を信じてもいいかなって思うよ」

神社の跡取り息子がとんでもない台詞を吐く。
久しぶりの再会だ。ルルーシュ曰く7年ぶり、スザク曰く半年ぶりというわけのわからない再会だが、リヴァルも緑髪の少女もうんうんと頷いているから間違っていないのだろうか。甚だ不可解ではあるけれど。
それよりもぎゅうっと抱きしめられているこの状況をどうにかしてほしい。
いや、嫌だというのではないが、ちょっとというかかなり苦しい。何だこの馬鹿力。

「もしもーし、お2人さん。感動の再会をしているところ申し訳ないんだけど」
「そろそろ時間だ」
「あ、本当だ。やばいね」
「お前ら一体…」
「説明は後。ほら、逃げるよ」
「そうそう。まだ死にたくないしね」
「枢木。ルルーシュを頼むぞ。こいつは運動神経がないからな」
「わかってるよ。ちゃんと捕まっててね」
「ほわぁっ!」

ひょいと膝裏に腕を回されたと思いきや、ルルーシュは横抱きに抱え上げられていた。
所謂お姫様抱っこ。
勿論大人しくなどしていられない。

「馬鹿! スザク! 自分で走れる。下ろせ」
「ごめん。急いでるから。あ、そうそう。しゃべると舌噛むよ」
「だから…っ」
「おい、枢木。逃走手段はないのか」
「ここから5分くらいのところに特派のトレーラーが待機しているよ。そこまで急ごう。あ、君達は走れるよね」
「誰にものを言っている。そこのひよわな坊やと一緒にするな」
「走るくらいなら任せろ」
「ということで、ルルーシュ、ちょっとだけ大人しくしててね」
「お前ら、俺の話を少しは聞け!!」
「後でね」

初対面同士のはずが妙に団結した3人によって、ルルーシュの発言が聞き入れられることはなかった。


  • 09.04.22