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Seventh Heaven 01


人生には何度か間違いがある。
完璧な人間なんて存在しないのだから、それも当然。
済んでしまったことは悔やんでも仕方ないし、いっそすっぱり忘れてしまった方が精神衛生上いいってもの。
だから忘れてしまおうと思ったのに。

何でこんなことになるのでしょう?



朝、目が覚めたらひどい頭痛だった。
昨夜は自分でも驚くほど飲んでいたから二日酔いになったのかなと思ったけど、どうやらこの痛みは二日酔いのそれとは少し違うような気がする。
気持ちが悪いとかそういうのは全然なく、ただ後頭部がずきずきするっていう感じだから、もしかしたら酔っ払ってどこかにぶつけたのかもしれない。

「…今、何時?」

まだ半分寝ぼけたまま枕元の時計を取ろうとして、手の先に何もないことに気付いた。
時計がないだけでなく、サイドテーブルそのものがなく、伸ばした手はそのままぱたんとベッドの横を叩いた。
あれれ?
あたしいつ模様替えしたっけ?
枕に埋もれていた頭を起こしてみると、部屋の家具すべてが変わっていた。
そして寝ているベッドもあたしの愛用しているものとは全然違うものに。
慌てて飛び起きると、そこはやっぱり見知らぬ部屋。
生活観の感じられないその部屋は、室内の様子から考えてホテルの一室なのだろう、多分。
もしかして酔っ払って家に帰るのが面倒になって、近くにあったホテルにチェックインしちゃったのでしょうか?
お店からあたしが住んでいるマンションまで電車で15分という距離なのに?
酔っ払いの行動って理解不能って言うけど、まさか自分がそんな不可思議な行動を取ったとは思えないし思いたくない。

「とりあえず水でも飲んで落ち着こう…」

…何よ、これ!?
冷蔵庫へ向かうためにベッドを下りようとしたあたしは、そのままフリーズしてしまった。
だって、あたしってば裸よ、裸!?
一糸纏わぬあられもない姿だったのよ!?

「な、何…?」

軽く頭がパニックになったので、とりあえず深呼吸して落ち着いて。

すーはーすーはー。

よし、落ち着いた。
ということで状況解明。
えぇと、昨日は大学時代に誘われて、久しぶりにみんなで飲むことにしたでしょ。
その中の1人が悪酔いして人のことべたべた触りまくってくるもんだから怒って店を出て、でもむしゃくしゃしてたからそのまま家に帰る気にもなれず、何気なく見つけたダーツバーに入って一人で飲みなおすことにしたんだ。
途中何人かに声をかけられたけど完全無視していたらみんなあっさりと諦めてくれたようで、バーテンのお兄さんと会話しながら楽しく飲んでいたはず。
えっと、どれくらい飲んだっけ?
オススメですよと言われたカクテルが美味しくて、確か3〜4杯…いや5〜6杯?
…記憶もなくなるわ、そりゃ。
とにかく、気分良く飲んでいたわけですよ。
それが何故にホテルで裸で寝てるんでしょ?
う〜ん、さっぱりわからん。
疑問は放っておいて、まずは着替えるとしますかね。
いつまでも裸でいるなんて、あたしの趣味じゃないし。
あらあら床に脱ぎ散らかしちゃって、これだから酔っ払うと……って、何これ?
見たこともない白いシャツがあたしの服と一緒にあるんですけど。
見るからにメンズ。男物。しかもブランド品。
それに細身のパンツも発見。

 …………。

現実を直視しようじゃないですか。
あたしが眠っていたのはダブルベッド。
ふかふかのふわふわということは、かなり上質なものだと思われる。
そして裸で眠っていた。
さらには今まで気付かなかったけど、何かあったとしか言いようのない肌に残るいくつかの跡。
とどめとばかりに床に散らばっている2人分の服。
認めたくない。認めたくないけど…。
今まで見ないようにしてきたベッドの半分に恐る恐る視線を移すと、そこには同じく裸の男性が眠っていた。

いやあぁぁぁぁ!!!!

ここで悲鳴を上げなかったのを、あたしは褒めてあげたい。
隣に眠っていたのは、そのへんの美形なんて目じゃないほど綺麗な顔の男。
繊細な顔立ちのわりに筋肉は適度についていて、胸板なんて厚めで結構好み。
これが何でもない状況なら、「あら、スリーピングビューティー」とか言ってしばらく眺めてるんだけど、如何せん状況が状況。
裸の男女が1つのベッドの中にいて何もなかったはずがない。
ということはやっぱりこの人とセ……。
くらり、と眩暈がした。
あぁ、いくら酒に酔っていたからって、いくら美形だからってこんな見ず知らずの人とベッドインしちゃうなんて…。
しかも覚えてないなんて勿体な……いやいや、そうじゃなくて!!
社会人にもなって…正確には今日から社会人なんだけど、もう少し節度を持とうよ自分。

ん…? 社会人?

……………………………………………………………。

あー!!!!

時計時計!
げっ、もう6時!?
いやあぁー! 遅刻するー!!
初出勤なのに遅刻なんて洒落にならなーい!!

大急ぎで服を身につける。
化粧…はいいや。どうせ家に帰ってシャワー浴びるし、そんな時間はない。
眠ったままの彼に、どうせなら帰るまで目覚めないでくれと切に願いつつ、とりあえずホテル代の相場がわからないので諭吉を2枚テーブルに置いて、慌てて部屋を後にした。

アデュー、名前も知らぬお兄さん。
もう二度と会うことがありませんように。

忘れよう。
うん。
それが一番だ。
タクシーの中であたしはそう決心した。


  • 04.08.31