休憩中の時間にケーキを渡すだけのつもりだったのだが、何やら妙に気に入られてしまったはそのままベンチで拘束…もとい練習を見学することになってしまった。
だが折角の休日、も暇ではない。
そろそろ約束の時間ということで名残惜しそうにしているルドルフメンバーに別れを告げて次なる目的地、青学へと急いでいた。
片手には大量のパウンドケーキが入った袋。
差し入れとしては大量すぎるような気がしなくもないが、相手は育ち盛りの中学生男子。
しかも運動後でお腹も空かせているだろうからきっちりと消費してくれるだろう。
ルドルフと青学は遠くもないが近くもない。
なりに急いだのだが、本人以外の誰もが認める運動音痴のである。
青学の門をくぐった時には既に約束の時間を30分ほど過ぎてしまっていた。
練習時間はもう終わってしまったのだろう、コートにいるのは片づけをしている新入生らしき少年たちばかりで見知った姿はいない。
「あれ、あんた…」
どうしようかと悩んでいた時に背後から声がした。
振り向けばどこかで見たようなツンツン頭。
以前青学に来た時に帽子を被った少年と一緒にいた人物ではないだろうか。
「あんた、不二先輩の…えと…」
「はい。です。この間は挨拶もできなくてすみませんでした」
「あ、いや、こっちこそ。青学2年の桃城っす」
ペコリと頭を下げられて少年――桃城は困惑する。
目の前の少女はふんわりとした笑顔を浮かべている。
桃城が知る女子と言えばクラスメイトか妹くらいのものである。
どちらも元気というか乱暴というか我儘というか、とにかくまぁ女らしいという表現は到底似つかわしくないような相手ばかりだったので、のようにいかにも育ちが良いですと全身から滲み出ているような、いかにもな女の子はお目にかかったことがない。
尤も少々乱暴な方が桃城としても遠慮なくふざけることができるし、妹は妹で桃城にとっては十分可愛らしいのだが。
「ところで、もう練習は終わってしまいましたか?」
「あぁ。今日はいつもより早いんだけど、後はレギュラーだけのミーティングをするって言ってたぜ」
「そうですか。じゃあ部室に行ってみます。ありがとうございました」
もう一度頭を下げて、は勝手知ったるという感じで部室へと歩いていく。
驚いたのは桃城だ。
不二の関係者だとは知っているが、さすがに他校生が部室に入るのはどうかと思う。
いや、もう既に彼女は一度部室に入ったことがあるのだが。
不二と菊丸の関係者ということは、恐らく手塚や大石とも面識があるだろう。
だがしかし何やら思いつめた様子の3年生たちの様子を思い出して、このまま行かせていいものか悩む。
レギュラーミーティングだと言いながらも部室に戻った彼らは特に何を話すわけでもなく、何となくその場にいるようにしか見えなかった。
では帰っていいのかと思いきや何となくそんなことを言える雰囲気でもなく、気になることと言えば乾がノートを片手に若干ウキウキしているように見えることと、不二の機嫌がMAXに良かったことだろうか。
「もしかして、約束とかしてた?」
「はい。今日はお菓子を沢山作ったから差し入れしますよって周助君にメールしたんです」
ちょっと遅くなっちゃいましたけど、とはにかんだように笑うを見て、桃城は彼らが何故部室にたまっているか理解できた。
不二が機嫌良かったのはが来るからだろうし、菊丸がいつもより3割ほど元気だったのもが持ってくる差し入れが原因だろう。
桃城がと会ったのはこの間が初めてだったが、菊丸やの様子を見れば昔からそれなりに交流があったことは確かだ。
不二の彼女ではないけれど、大切な女性。
菊丸にそう言わしめた少女が何者か興味がわいてきた。
「なあ、あんた。不二先輩の……」
恋人なのかと続けようとした言葉は、扉が開く大きな音でかき消された。
「ちゃんだあぁぁぁ!!」
「あ、菊丸さん」
偶然なのか意図的なのか、いいタイミングで現れた菊丸によっては桃城の前から消えた。
正確には前回と同様小脇に抱えられて部室へと連れていかれてしまったのだ。
1人残された桃城はがいた場所に残されていた、おそらく差し入れの一部であろう紙袋を手に部室へ向かった。
果たしてそこでは、幸せそうにを見つめる不二の姿だったり、何やら質問攻めにしている乾の姿があったり、が持ってきた紙袋から取り出したパウンドケーキを美味しそうに頬張っている菊丸の姿だったり、大石とどこかの主婦のような挨拶を交わしているの姿があった。
他校生のはずなのにしっかり打ち解けているという少女は一体何者なのだろう。
桃城がそう疑問に思うのは当然で、その答えはほどなくして手に入れることができるのだが。
が氷帝のマネージャーだという事実を知った3年生レギュラー勢(不二除く)が、そんなのお父さん許しませんとでも言うかのような騒ぎになり、すっかりむくれたが不二の背中に貼り付いて口を利かなかったり、折角落ち着いた話をまた掘り返しやがってこの野郎、と不二が呪いのこもった眼差しをレギュラーに向けてたり、どこでもマイペースな越前の「あ、このケーキ美味しい」という一言での機嫌が急浮上したりと、中々カオスな状況が繰り出されていたのだが、何かもう色々ありすぎて何に驚いていいか分からなくなった桃城武(13歳)であった。
- 10.04.01