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世界は2人のために


「はい、アスラン。あ〜ん」

キラは自分のトレイから卵焼きを取り上げると、アスランへと差し出した。
キラの箸使いはお世辞にも上手とは言えない。
どこか個性的な箸使いで、それでも器用にだし巻き卵を掴んでいる。
ヴェサリウスの料理人が作ったとは思えないそれは多少焦げ目がありどこかいびつだったが、アスランはそれを嬉しそうに口に入れた。

「おいしい?」

心配そうに伺うキラに、アスランは笑顔を浮かべた。

「もちろんだよ。キラが作ったもので不味いものなんてあるわけないだろう」
「えへへへ、よかったぁ。アスランが和食好きだから頑張ったんだよ?」
「本当に美味しいよ。毎日食べたいな」
「う〜ん、毎日は無理だけど、出来る限りアスランの為に作るね。あ、これも食べて。肉じゃがに初挑戦したんだ。はい、あ〜ん」
「いただきます」

またもや差し出されたそれを、アスランがぱくりと食べる。





いちゃいちゃいちゃいちゃ。





食堂に入ると、そこは別世界だった。
キラがお手製の料理をテーブル一杯に並べて、アスランに手ずから食べさせているのである。
純白のエプロン(フリル付き)が異様に似合っているキラの姿に、赤服を着たエリートパイロット達は扉を開けるなり固まってしまった。
いつも通りシュミレーションをこなし軽く汗を流してから食事を摂りに来たのだが、目の前で繰り広げられている新婚夫婦の食卓風景に、足が縫いとめられてしまったかのように動くことができなかった。

「ねえねえ、明日は何が食べたい?何でも作るから言ってvv」
「キラが作ったものならなんでもv」
「え〜、それじゃあ困るよ。何がいい?」
「強いて言うなら、キ・ラ、かな?」
「やだ、アスランのえっちvv」





「………」





もはや誰が口を挟むことができるのだろうか。
馬鹿だ馬鹿だとは思っていたけどまさかここまでおかしいとは思わなかった、とイザークは心の中で呟いた。

まさに、

『お帰りなさい。お風呂にする?ご飯にする?それともあ・た・しv?』

な世界である。これをバカップルと言わずに何と言うのか。

イザークはため息をついた。
なるべくなら関わり合いになりたくない。
もの凄くなりたくないが、これから食事を摂るためにはこの中へ入らなければならないのだ。
午後からはMSのメンテナンスもやらなければいけないし、ゆっくりしている時間はない。

「そこのバカップル。一体何をやってるんだ」

すっかり2人の世界に浸っているアスランとキラに、イザークは不本意ながら声をかけた。
2人は入り口に突っ立ったままの3人へと視線を移した。

「それって、僕たちのこと?」
「失礼な奴だな」
「今この状況でお前ら以外に誰がいる!?」

きょとんと自分を見上げてくるキラに、イザークは眉間の皺を深めて答えた。

「見ての通り新婚さんごっこをやってるんだけど?」

キラはさも当然のように答えた。



「……」



「ほら、もうすぐアスランの誕生日でしょう。で、『アスラン誕生日おめでとうラブラブ週間』を開催中なの」

にっこり笑顔でそう言われて、イザークは極度の疲労感に襲われた。
確かこいつは16歳コーディネイターは13歳で成人するからこいつはもうとっくに成人なわけでナチュラルと一緒に生活してると精神年齢までも低くなっていくのかというかこいつの精神年齢は一体いくつなんだ仮にもここは戦艦なわけで俺たちは戦争をしているわけでそれなのにこののほほんとした空気は一体どういうことなんだクルーゼ隊長は何故何も言わないんだetc...。
イザークは色々考えていたが、突然くるりと反転して食堂を後にするともの凄い勢いで歩き出した。

「俺は何も見なかった何も見なかった…」

そう呟いていたのを、ディアッカは聞き逃さなかった。

「へんなイザーク。はい、アスラン、沢山食べてねv」

もはや2人の目には誰の姿も入っていないのだろう。
厨房から怖いもの見たさに様子を伺っている料理人や入り口に鈴なりになっているクルーの存在もアスランとキラは気付いていないのか、相変わらず砂を吐きそうな甘ったるい雰囲気を醸し出している。
どう考えてもこの中で一緒に食事を摂ることはできない。
クルー達の見世物になるつもりもないし、第一あの2人の邪魔をしたらただではすまない気がする。
キラを怒らせると後が怖いのである。
ディアッカは肩をすくめて、イザークと同様に自室へと戻ることにした。



キラの言葉通り『ラブラブ週間』はしっかり一週間続いた。