「ふふふふふ・・・・・・」
ディスプレイを眺めながら、キラは笑みを浮かべていた。
「キラ?随分楽しそうだね。何をしてるの?」
シャワー室から出てきたアスランが、楽しそうにキーボードを叩いているキラにそう語りかけた。
「秘密」
キラはアスランへと振り返って、にっこりと笑った。
その笑顔は大輪の花のようで、キラの瞳は今までになく輝いていた。
(また何か企んでるな)
アスランはその笑顔を見てそう思った。
付き合いが長いと笑顔の裏に隠されたことまで分かってしまう。
というよりもキラが輝く笑顔を向けるときは、必ずといっていいほど何かを企んでいるときなのだ。
そう、幼年学校時代に面白いことを見つけたと言って地球軍月基地のメインコンピューターに侵入した時も、キラは今のような笑顔を浮かべていた。
キラのハッキング能力は高く幸運にも軍に感知されるということはなかったが、事態の重大さに気付いたアスランによって大慌てで終了させられるまで、キラは地球軍の重要機密を手中に収めていたのだ。
その後の処理に追われていたアスランの横で、大満足の笑みを浮かべていたキラをアスランは忘れていなかった。
そして、何かを企んでいるキラを止めることが不可能だということもまた、嫌というほど分かっているアスランは小さく肩をすくめた。
「・・・・・・キラ、まさかとは思うけど、またどこかハッキングしようなんて考えてないだろうね?」
恐る恐るという感じでアスランが聞くと、キラは意外そうに首をかしげた。
「え?そんなことしないよ」
不思議そうに自分を見上げるキラは惚れた欲目を抜きにしても可愛らしく、アスランは思わず抱きしめようとした。
が、その行動はキラの続けた一言によって凍りついた。
「それに、ヴェサリウスとガモフにはもう侵入済みだし、アークエンジェルなんて大したセキュリティかかってなかったからすぐ入れるしさ。地球軍本部とプラントは、さすがにここからじゃ厳しいでしょ?」
悪気もなく話すキラに、アスランは背中に冷や汗が伝った。
しないではなく、すでにハッキングしてしまったためにする必要がないのだと、キラは笑顔で言う。
どこかずれてる恋人の言葉に、アスランは小さくため息をついた。
「・・・ほどほどにね」
「わかってるよ」
嬉しそうなキラを止めることは、アスランにはできなかった。
「それで、いつまでやってるつもりだい。明日は早いんだから、そろそろ寝ないと俺はともかくキラは確実に起きられないよ?」
「うん。もう終わったし寝るよ。寝不足でミーティングに出るとイザークがうるさいしね」
コンピューターの電源を落とすと、キラはアスランに抱きついた。
シャワー後の火照った身体からはカモミールの香りがした。
それは軍の支給品ではなく、キラの為にアスランがプラントから取り寄せたものだった。
地球軍のパイロットとしてザフトと敵対する立場になっていたキラは、ヴェサリウスに連れてこられた最初の頃は精神的に不安定で、アスランはそんなキラの気分を和らげようとニコルが薦めるリラックス効果のあるものを大量に取り寄せたのだ。
そのため現在の彼らの部屋はすっかり癒しグッズに囲まれた部屋になっている。
「アスラン、あったか〜い♪」
「シャワー浴びたばかりなんだから当然だろう。キラも早くシャワー浴びてきなよ」
「アスランの匂いって、安心する」
「俺じゃなくてボディソープだろう」
「違うよ。アスランの匂いだよ」
キラはそう言ってアスランの首筋に顔を埋めた。
確かにアスランが私用しているカモミールのボディソープの香りはリラックスできる香りだ。キラにとっても好きな香りである。
だが、それは香りが好きだからではなく、使っているのがアスランだから好きなのだ。
素朴なのに、ふんわりと自分を包み込んで安心させてくれるこの香りは、キラにとってアスランそのものだ。
子供のようにアスランにすり寄るキラを、アスランは穏やかな瞳で見つめた。
そして両手でキラを抱きしめると、そのままベッドへと倒れ込んだ。
「もう寝ようか?」
「え?僕まだシャワー浴びてないよ」
「朝入ればいいよ」
キラの瞼にキスを落としながら、アスランはそう答えた。
まだ少し濡れたアスランの髪からは、ボディソープと同じ香りがする。
「そうだね」
瞼に頬に、首筋にと降ってくるキスの雨を受けながら、キラはくすくすと笑った。
どんな香りよりも、アスランと一緒にいることが一番リラックスできるのだ。