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作戦失敗


艦内に響くアナウンスに、暖かい毛布にくるまって眠りについていたキラは飛び起きた。
とは言っても寝起きのよろしくないキラのことなので、勢いよく飛び起きたのはいいものの、現状の把握ができずしばしベッドの上でぼ〜っとしている。
思考回路がまだ脳に接続されていないらしく、キラの行動は限りなく鈍い。

「何があったの、アスラン・・・・・・あれ、アスラン?」

瞼をこすりつつ、ぱしぱしと布団を叩いてアスランを呼ぶものの、冷たい布の感触にキラは不思議そうに首をかしげた。
つい先ほどまで隣で寝ていたであろう恋人は、すでにいない。
彼が何も言わずに部屋を出ていくことはありえないから、おそらくキラに声はかけたのだろうが生憎キラは覚えていなかった。

「なんでいないのさ・・・」

不満そうな声がキラの口から洩れる。

『デュエル・バスター・イージス・ブリッツのパイロットはコックピットへ』

「イージスのパイロットって、アスランじゃん。なるほど、だからいないんだ・・・・・・って、えぇっ!?」

アナウンスが再び艦内に響くとキラはようやく現状を把握したらしく、慌ててベッドから起き上がると軍服を掴んで部屋を飛び出した。





   ◇◆◇   ◇◆◇





「クルーゼ隊長!」

キラは無重力とは思えないほどの勢いでブリッジに駆け込んでくると、白い軍服に身を包んだ仮面の男へと飛びついた。

「戦闘配備って、どういうことですか!?」

キラは心配そうな顔でクルーゼへ問いかけた。

「アスランや皆が出撃するんですか?」

対するクルーゼは興奮した様子のキラを宥めるように、その薄い肩を叩いた。

「我々は軍人だ。敵が攻めてきたら戦わねばならんのだよ」
「でも・・・」
「心配することはない。アスランもイザークも皆優秀な兵士だ。ナチュラル相手に遅れをとるはずなどない」

不安そうな瞳で自分を見上げてくるキラに、クルーゼは日頃見せない優しい笑みを浮かべると、柔らかな茶色の髪を撫でながらキラを安心させるように優しく告げる。
キラは戦争が嫌いだ。
戦争というよりも、他人を傷つける行為そのものに恐怖を抱いていると言ってもいい。
本人の望まぬこととはいえ、以前は地球軍の唯一のMSパイロットとして同胞と戦っていたことが原因なのだろう。
優しく純粋で、脆い少年だとクルーゼは思う。
軍人としては致命的な欠点になる弱さを持つ少年。
だが彼は紛れもなくザフトのエースパイロットであり、優秀なエンジニアでもある。

「彼らを信じて待っていなさい」
「本当に、大丈夫・・・ですか?」
「あぁ」

クルーゼがそう答えるとキラもようやく安心したのか、ほっと息をついたように小さく笑った。
その可憐な笑みに、その場にいた全員の視線がキラへと注がれた。
コーディネイターは総じて美形が多い。
そのコーディネイターの中にいても尚注目を浴びる容姿のキラは、年齢にそぐわない可愛らしい性格もあってかヴェサリウスでアイドル的存在である。
キラの笑顔を見るために頑張っているという兵士も少なくない。

「それで、どこの隊と戦ってるんですか?」
「それがまだ見えんのだよ。地球軍であることには間違いないのだが・・・」
「もしかして・・・」

キラが言葉を続けようとしたとき、モニターに敵艦が映し出された。

「敵の艦隊、発見しました。地球軍、第八艦隊!」

モニターに映るのは、白を基調とした大きな戦艦。
もちろんキラはそれをよく知っていた。
管制官の声が鋭く響く。



「足つきです!」



ピクリ、とキラの肩が震えた。
クルーゼがその様子に気付いてキラへと視線を向けると、キラはゆっくりとクルーゼへと視線を動かした。

「・・・クルーゼ隊長?」
「何だね?」

見上げられた視線は見事に座っていて、先ほどの可憐さの欠片も見当たらなかった。

「僕、お願いしましたよね?」
「・・・・・・」
「アークエンジェルには手を出さないでって、お願いしましたよね?」

声のトーンが低くなると同時に艦内の気温も低下したような気がするのは気のせいだろうか?

「まさか、忘れたなんてこと、ありませんよね?」
「・・・今回はあちらが攻めてきたんだ。我々から攻撃を仕掛けたわけではないぞ?」

大きな瞳でじっと睨まれ、クルーゼは明後日の方向を向いて答えた。
嘘は言っていないぞと、クルーゼは心の中で呟いた。
敵艦に見つかるように接近していったのはヴェサリウスからであるが、実際に攻撃を開始してきたのはアークエンジェルからだ。
もちろん向こうが攻撃をしかけてくると読んでの行動だったのだが、それをキラに悟られてはいけない。
なぜなら、キラがザフトのパイロットとしてヴェサリウスに搭乗する条件の一つとして、アークエンジェルに対する攻撃の一切を禁止するという項目があったのだ。
ただし、これはザフトからの攻撃は禁止するが、自衛の為ならば応戦も止む無しということになっている。
アークエンジェルは地球軍の新造戦艦であり、その武力は今までの戦艦とは比較にならない。
現在は地球軍艦隊と合流できずアークエンジェルの単独航海の為、合流する前に撃破しておきたいのがザフト軍の正直な感想だった。
そしてアークエンジェル撃破の命を受けたのは、他でもないクルーゼだった。
そのためキラに気付かれないようにと、わざわざキラが眠りについた時刻を狙って戦争を仕掛けようとしていたのに、キラが目覚めてしまったのでは台無しである。
聡明な頭脳で今回の計画が失敗したことを悟ると、クルーゼはアデスへと視線を移した。
「アデス! ガモフに打電だ! 戦線を離脱する。4人を呼び戻せ」





そんなザフトの事情などまったく知らないアークエンジェル側は、現れたときと同様に突然撤退してしまったザフト艦を呆然と見送っていた。

「なんなんだ、一体・・・?」

呟いたフラガの言葉は、まさしくアークエンジェルのクルー全員の声だった。