「キラ…」
触れた唇はひどく柔らかかった。
幼い頃から今まで幾度となくキスをしてきたが、それはあくまでも友愛のもの。
親愛の情をこめたキスとは違うそれを、ふっくらとした唇に落とした瞬間、言い知れない喜びが胸に湧き上がってきた。
誰よりも大切な存在が、自分を受け入れてくれたことへの喜び。
腕の中のぬくもりが、何よりも愛しい。
初々しい恋人同士のような、触れるだけの口づけ。
だがそんな些細な行為でも胸を満たす思いは強く、至近距離で見つめる潤んだ眼差しに心ごと捕われる。
「愛しているよ、キラ…」
「僕も…」
恥ずかしいのかうっすらと目元を朱に染めてうつむいてしまったキラ。
性別を偽って育ってきたキラがこういうことに聡いとも思わなかったが、いざ触れてみると予想以上に可憐な反応を見せ、そんな反応がアスランには嬉しくてしかたない。
自分以外誰もこの愛らしい唇に触れたことがないのだと、キラの態度がそう告げていた。
幸せで幸せで、まるで夢の中にいるようだ。
「早く戦争が終わるといいな…」
腕の中で呟いたキラの言葉が何を意味しているか、アスランにはわかった。
心優しいキラのこと、当然その言葉には今この瞬間にも傷つき失っていく命があることを憂えてのことではあるが、ほんのわずかな希望に縋るような響きはそれだけが理由ではない。
プラント最高評議会議長の息子であるアスランと、永世中立を宣言したオーブの代表の娘であるキラ。
お互い深く想いあっているものの、いざ結婚ということになると時代背景がそれを許さない。
2人の結婚によってプラントとオーブの結びつきが深くなることを、地球連邦軍が由としないだろう。
その結果戦争が激化するのは明白で、それゆえに2人の婚約は秘密裏に行われ、それを知るものは当面の間ヴェサリウス・ガモフに搭乗する人物だけ。
そして想いが通じ合ったばかりの現在では、当事者以外では自分を焚き付けたラクスとその場にいた同僚の4人だけだ。
キラとの関係を公にできないことに不満がないわけではない。
だが、誰よりも平和を愛するキラが、戦争が激化するとわかっていて自らの意志を押し通すほど強情ではなく、そして愛するキラの望みを聞き入れられないほど狭量なアスランではなかった。
戦争が終われば、誰に憚ることなく一緒にいられる。
ならばそんな世界を作ればいい。
キラの望む平和な世界を。
「必ず終わらせるよ、こんな戦争…」
「うん…」
腕の中の存在を、しっかりと抱きしめてアスランは約束する。
このぬくもりを失わないためなら、どんな奇蹟も起こしてみせる。
- 05.10.26