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続・囚われ人


この話には18歳未満の方が閲覧になるには不適切な内容が書いてあります。
18歳未満の方やBLが苦手な方は閲覧をおやめください。
ご覧になった後での苦情は一切聞きませんのでご了承願います。
大丈夫な方はレッツスクロール。

































































































あの夜からずっと夢に見る。
己が男に組み敷かれて愉悦に喘いでいた、あの時間を。
たった2日間の出来事だったが、その記憶はシンの身体だけでなく心にまでしっかりと刻み込まれてしまっていたようで、夜毎に淫夢となってシンを苛んでいるのだ。
細い身体をベッドに縫い止める腕。
額に、首に、唇にと落とされる温かい唇。
激情を叩きつけるように身体の最奥を抉り、狭い内部をこれでもかと蹂躙する男の逞しい怒張。
室内に響く肉がぶつかる音といやらしい水音。
熱に浮かされた吐息がシンの耳朶を擽り、その吐息すらシンの官能を煽り、シンはなす術もなく男の動きに翻弄され続けた。
全身が蕩けてしまうほどの快楽は色事に無縁だったシンにとって未知の体験であり、恐怖を抱く間もなく溺れるほどに与えられたそれに無垢だった全身が染められてしまうのは無理のないことだった。
目が覚めても夢か現かわからないほどにそれはシンの脳内に浸透し、毎夜のように繰り返される夢に休まらない身体が蓄積された疲労を感じるようになったのは、拉致されてから10日程が経過してからのこと。
徐々に口数が少なくなっていくシンを心配したのは、大学で親しくなった友人だった。

「最近、元気ありませんね」

そう言われたのは、構内の食堂。
本日は1限からびっしりと講義が入っている。
1人暮らしではあるがあまり料理は得意ではないシンは、必然的に学食か近郊の店で昼食を摂ることになるのだが、蓄積された疲労のせいで外出する気力のないシンは学食を選んだ。
この大学の学食は良心的な値段とそこそこの味で学生には好評だ。
実際シンも自宅では不足しがちな野菜などを学食で摂取することが多い。
特にここ最近は食欲も落ちているために学食自慢のスープを選んだのだが、目に見えて食が落ちたシンに友人のレイが心配そうに眉を寄せた。

「顔色もあまり良くありませんし、何か思い悩むことでもあるのですか?」
「いいえ、そういうわけでは……」

大学で親しくなったレイは、それまで特定の友人を作らなかったシンにしては珍しく気心を許せる相手だったが、だからと言ってさすがにシンが悩んでいる原因を話すのは躊躇われた。
言えるわけがないのだ、男に強姦されましたなど。
しかもそれが嫌ではなかったのだから、どう説明すればいいのか自分でもわからない。

「すみません。私もどう説明して良いのかわからなくて…」
「そうですか。でも、何かあったら相談してくださいね。1人で悩んでいても解決しませんよ」
「はい」

レイとの付き合いは決して長いわけではないが、シンの気持ちを良くわかってくれる友人であり、だからこそ無理やり聞き出そうとしても無駄だということは理解しているようだ。
シンは儚げな見かけに反してかなり強情なのだ。

「相談なら適任がいるだろう」

不意に頭上から声が響いた。
耳に心地良い低音はシンが良く知るものとは違うが、それでも声だけで判断できるほどには交流がある人物。
そしてその隣にはシンも良く見知った人物の姿。

「ルカ教授、ユダ教授」

レイが明るい声で彼らを呼んだ。
ユダとルカは大学内では異例の若い教授だが、その名は学内に広く轟いている。
シンはユダとそれなりに親しくさせてもらっているが、同じくレイもルカの講義を受講していてかなり親しくしている。
この2人が今年から付き合いだしたと知っているのは今のところ本人から報告を受けたシンだけだ。
当然のようにレイの隣に座る姿は、シンとは違う親しさが見える。

「綺麗どころが2人で暗い顔をしているようだから何かと思えば。そんな頼りなげな表情でいて、悪い男に付け込まれでもしたらどうする」
「ルカ教授……」
「レイの言う通り、1人で悩んでいても解決しないだろう。俺達で良ければいくらでも相談に乗るぞ」
「あ、ありがとうございます。でも……」

本当に、とてもじゃないが他人に言えるような内容ではないのだ。
原因はわかるが対処法はわからない。
ついでに言えば親友であるレイにも言えないことなのに、それほど親しくないルカに相談なんて無理に決まっている。

「俺で駄目ならユダならどうだ。シンとは親しくしているし、ユダならば相談もしやすいのではないか」
「ルカ」

明らかに揶揄っているようなルカの態度に、シンの隣に腰を下ろしたユダが柳眉を寄せて窘めた。

「そういうものは強要することではない。気持ちの整理だって必要なのだから、シンの気持ちが纏まるまで口を出さない方がいいだろう」

ユダからは既に相談に乗ると言われている。
いつでも良いと言ってくれた以上、シンが訊ねれば快く応じてくれるだろう。
だが、それをしないのはシン自身だ。
勿論相談できる内容ではないのだが。
それでも親しい人に自分のことで気を揉ませているのが申し訳なく、シンはきゅ、と唇を噛みしめて俯いた。
そんなシンの頬に大きな手がゆっくりと触れ、シンは驚いて顔を上げた。

「ユ、ユダ教授……?」
「顔色が良くないな」

空色の瞳が気遣わしげに揺れている。
シンは色が白いせいか、体調が崩れると直に顔色に出てしまう。
白い肌は青白いと呼べるほどに白く、淡く色づいている唇は色を失い、本人が自覚している以上に外見は頼りなく見えてしまう。
こうしてユダが触れる頬も普段より冷たく、決してシンの体調が万全でないことをユダに教えてくれる。

「ちゃんと眠っているのか? 食欲がないようだが、無理してでも何か摂らないと体力も落ちてしまうだろう」
「だ…大丈夫です。眠ってますし、食事も…それほど量は食べられませんが、きちんと摂っていますか、ら……」

突然触れてきたぬくもりに驚いて立ち上がったシンは、動揺しながらも言葉を紡いでいくうちに、不意に視界が逆さになって声を詰まらせた。

「シン?」

チカチカと目の奥が明滅する。
それに呼応するように足元から力が抜けていくのがわかった。
くらり、と上体が揺れて慌ててテーブルに手をつこうとしたのだが暗くなる視界では上手くいかず、伸ばした手は空を切りシンの身体が背後に大きく傾いだ。

「シン?!」

意識が呑まれていく瞬間に聞こえた声が妙に切羽詰っているように思えた。







   ◇◆◇   ◇◆◇







――ゃ、ぁ……っ



内部から溶かされてしまうのではないかと思うほどの熱から逃げようと身を捻れば、逆に自身に埋め込まれた怒張の太さを認識させられた。
深く深く貫かれたそれはシンにとっては脅威でしかない大きさなのに、それが抜き差しを繰り返すたびに背筋が灼けてしまいそうなほどの快感が全身を駆け巡る。
自然に揺れてしまう腰を抱え込まれ激しく揺さぶられて嬌声を堪えることができない。
大きく足を開かれた姿は自分の大事な部分は勿論、繋がっている箇所も全て相手に曝け出す恰好で、それを思えば羞恥に目が眩みそうになるが、考える間もなく与えられる快感に翻弄されてしまう。
逞しい体躯で華奢な身体を押さえ込まれ、何度も何度も腰を打ちつけられる。
深い口づけに身体は酸素を欲して激しく喘ぎ、大きく上下する胸に嵐のようにキスが落とされた。
啄むように落とされる口づけはシンの白い肌に赤い華を咲かせていく。
赦してと譫言のように呟かれる声は、一体何に対してか。
もう本人にもわからない。

不意に視界を覆っていた布が外された。
幾度も繰り返し行われてきた淫夢の中で、それは初めてのことだった。
眩しさと長時間拘束されていたせいで感じる違和感を払いながらゆっくりと視線を上げていけば、そこに見えたのは獣のように獰猛な光を湛えた空色の瞳。
理知的な輝きを放つそれしか知らないシンにとってそれはまるで他人のもののように感じたけれど、射抜く程の強い視線はシンが憧れた彼しか持ち得ないものだ。
彼の頬を伝う汗がシンの頬へと落ちてくる。
見たこともない雄の顔に、シンの身体がずくりと疼いた。
獰猛な獣のように舌なめずりをしてシンを貪る彼の姿は恐ろしいほどに美しかった。
無意識のうちに繋がっている部分に力が入ってしまったのか、彼の眉が苦しげに歪む。
たまらないというように漏れた吐息は熱く、その表情には隠しきれない愉悦があった。
永劫に続くように思われる甘い時間。
シンは初めて自ら進んで男を受け入れた。






冷たいものが喉を通り過ぎていく感覚にシンはゆっくりと目を開いた。
まず最初に目に入ってきたのは天井の蛍光灯。
無機質な天井はおそらく大学構内のものだろう。
状況が掴めず天井を眺めるシンの視界に端整な顔が広がり、唇が何かに塞がれた。
口移しで流し込まれたのは水だろうか、シンは与えられるままにそれを甘受した。
白い喉がこくんと上下するのを見てユダが唇を離す。
至近距離で交差する眼差しにシンが何かを求めるように瞳を閉じた。
三度塞がれる唇。
今度は水ではなく熱い舌がねじ込まれて口内を蹂躙した。
吐息すら奪うようなそれに応えるのはとても簡単だった。
思う存分シンを堪能した唇が離れていく。
真摯な瞳で見つめるユダの顔。
その唇が濡れているのがお互いの唾液だと思えば羞恥に頬が染まる。
初めて触れた唇。
それは全く知らないものであるべきものなのに、シンの身体はこのぬくもりを知っていた。

教えこまされた、嫌というほど。

「やはり、貴方だったのですね」

さんざん蹂躙されたせいで上手く回らない口で、それでもどうしても伝えたいことだったので告げると、秀麗な顔が僅かに歪んだ。
シンはソファーに横たわっていた。
何度か使ったことのあるそれはユダの研究室にあるもので、おそらく食堂で倒れたシンを運んでくれたのだろう。
食堂から研究室のある棟はそれほど離れていないが、それでも保健室よりは遠い。
この部屋に運ばれたのはユダの意図だろう。
シンは手を伸ばしてユダの頬に触れた。
感じる視線、触れるぬくもり。
さりげなくシンに与えられるそれらは、ほんの些細なものであるのに関わらずシンの官能を刺激した。
レイが幾度となく触れてくるスキンシップには何の反応も見せないのに、ユダの手から与えられるそれはシンが忘れたくても忘れることのできない記憶を思い出させるのだ。
ユダのぬくもりがあの夜の情事を思い起こさせるのは、シンの身体に快楽を刻み込んだのが他でもないユダだからと考えるのは簡単だった。
ただ、理由がわからなかった。
ユダは男女問わず人気があったし、あのような犯罪めいたことをしなくてもユダに身体を委ねる相手はそれこそ掃いて捨てるほどいる。
ただの性欲処理にしてはリスクが高すぎる行為だった。
そのような危険を冒さなくてもユダならば相手に不自由などしないはずなのに。

「どうして、と聞いてもいいですか」

シンの問いかけにユダは自嘲するように笑った。

「お前が欲しかったからだ」

卑劣と罵られてもおかしくない行為。
だがそのような手を使ってでも、ユダはシンが欲しかった。
初めて会った時から他人には抱かない感情を抱いていた。
控えめな態度は好ましく、ふわりと笑う姿は可憐で庇護欲を抱かせた。
会話を重ねるほど穏やかな性格に癒されていくのを感じていた。
真摯な憧憬を向ける眼差しに情欲を覚えるようになったのはいつからだったか。
ふと触れた肩があまりにも細かったのに驚いた時だろうか、それとも白い肌があまりにも肌理細かいことに気付いた時だっただろうか。
自分でもわからないほど、ユダはシンに対して同性には決して抱くはずのない感情を抱くようになった。
自惚れではなくユダはシンに好かれている自覚があった。
だがそれはあくまでも人間としてであり、性愛の対象としてではない。
そんなシンに想いを告げたところで困らせるだけなのはわかっていた。
だから秘めていようと決めたのだが、押さえ続ける想いは蓄積されればされるほど募るばかりだった。
このままでは友好な関係を崩しかねないほどに膨らんでいる感情に気付いたユダは、それが犯罪であることを承知でシンを拉致したのだ。

「どれほど罵られても仕方ないことだとわかっている。だが、それでもお前が欲しかった」
「何故……」
「愛しているからだ。シン、お前を」

懺悔をするように膝をつき、己の頬に触れているシンの手を縋るように握りしめた。
その瞳が、指が、シンを愛しいと告げている。
生まれてからこれまで、こんなに激しい想いを伝えられたことがあっただろうか。
決して褒められた行為ではない。だが、それがシンへの思慕故だと言われてしまえばどうしたってシンは怒れない。

「…言ってくださればよかったのに」
「臆病だった。断られたらと思えば怖くて伝えられなかった」

飾らないユダの本音に黄金の瞳に涙が溢れていく。
一瞬驚いたように腰を浮かせたユダだったが、シンの手が意志を持ってユダの手を握り返して動きを止めた。
違うのだと告げるように首を振り、気遣わしげに向けられた瞳へ小さく微笑む。
目尻から零れた涙がシンの頬を濡らしていくのは決して哀しみの涙ではない。

「私は確かにそういう話には疎いですし、正直に言いますとまだ良くわかっていないのかもしれません。でも…」

横たえていた身体を起こしてユダへと向き合う。
人が人を好きになるという本質を、シンはまだ理解しているとは言えないだろう。
特にユダのように情欲を伴う感情は。
それでも――。

「ユダ教授の気持ちは、とても嬉しいです」
「シン……」
「勿論最初は怖かったですし、何をされているのかもわからなかったのですが……でも、嫌では、なかったと、思います」

あの腕はシンを愛しいと告げていた。
全身でシンへの想いをぶつけてきたのだ。
無知なシンですら単なる強姦とは違うと認識できるほどの想いが詰まったあの行為を忘れることはできなかった。
嫌悪感がなかった理由は、無意識に相手の気持ちを感じていたからなのだろう。
決して褒められた行為ではないし、今回のシンのように強姦した相手を受け入れることができる者などほとんどいない。
シンだって誰彼構わず受け入れることなどできるわけがない。
相手がユダだったから。

「貴方だったから、嫌ではなかったのですね」
「っ!!」

掻き抱かれるように閉じ込められた胸の中で、シンはユダの謝罪を聞いた。
それに小さく頷きながら、シンはユダの胸へそっとすり寄った。
鼻腔をくすぐるコロンの香りも、抱きしめる腕の強さも同じ。
熱い体温と耳元で響く鼓動に、シンはうっとりと身を委ねた。


  • 12.08.02