Sub menu


囚われ人


この話には18歳未満の方が閲覧になるには不適切な内容が書いてあります。
18歳未満の方やBLが苦手な方は閲覧をおやめください。
ご覧になった後での苦情は一切聞きませんのでご了承願います。
大丈夫な方はレッツスクロール。

































































































広い室内で断続的にスプリングの軋む音が響いている。
ギシギシと鳴るそれはまるで己の身体が壊れていく音のようだとシンは感じていた。
それとも心か。
少なくともシンにとってそれは物理的な意味ではなく精神的な何かが崩壊していく音と同義だった。

先程からシンは、男の凌辱をその身に受けていた。
両手を頭上高く拘束され寝台に縫い止められ、その後孔に男の怒張を埋め込まれ、思う様に身体の内部を抉られて続けている。
視界を塞がれ口に猿轡を噛ませられ、できることと言えば少しでも早くこの時間が終わることを祈るのみ。
だというのにこの責め苦が止まる気配はない。
男が自分のナカで幾度となく果ててはいるもののその怒張は一向に鎮まる気配がなく、欲望を吐き出してもすぐに固さを取り戻してシンを嬲り続けているのだ。
本来受け入れる器官でないそこを押し拡げられた恐怖と痛みは既にない。
そんなものとっくに摩耗して消えてしまった。
怖いのは、僅か短時間で男の思うように作り変えられていく己の身体である。

何の変哲もない日常を送っていたはずだった。
朝起きて大学に通い、講義が早く終われば教授の手伝いやバイトなどをして時間を過ごし、夜になれば自宅に戻って寝る。
そんなごく普通の平均的な大学生として過ごしていたというのに。
帰宅途中に背後から拘束され意識を失い、気が付いたら寝台で男に組み伏せられていたのだ。
シンがまともな思考に戻れるわけがない。
性の衝動とは無縁の日々を過ごしていたシンは当然のことながら異性との性経験はない。
勉学に関しては深い知識があるくせに色恋に関しては皆無だったため、世の中には同性にそういう欲求を抱くものがいることすら知らなかったほど、そういうことに関しての知識は薄いのだ。
だからこそ己の身に起きたことに理解が追いつかないまま、シンは見知らぬ男にその無垢な身体を奪われた。
驚愕の中で身体を拓かされ、恐怖に震える身体を労わるような愛撫に理性が追いつかないのも無理はない。
だからこそ身体は与えられる刺激だけを素直に受け止めてしまう。
予備知識がないものだからそれが良いことか悪いことかの判断すらつかず、男が与える刺激に身体だけが反応してしまうのだ。

「……っ……!」

敏感な箇所を抉られてシンの痩躯が寝台で跳ねる。
激しい抽挿を繰り返していたそれがシンの弱点を重点的に嬲るように擦り付けられるのに耐えきれず、涙が溢れて視界を覆っている布へと沁み込んでいく。
いやいやと首を振って快楽から逃げようとするものの、そんなことは抵抗にすらならない。
しかも相手はそんなシンを気遣うように優しい仕草で頬を撫でるのだ。
大丈夫、怖くないからとでも言うかのような慰撫にも感じるそれは、男が行っている凌辱が原因だと分かっているのかどうか。
額へ頬へと幾度となく落とされる口づけは、だがシンの唇にだけは触れてこない。
猿轡が邪魔なのかもしれないし、そもそも唇に触れるつもりがないのかもしれない。
身体だけが目的ならばさっさと終わりにして解放してくれればいいのに、男は己の欲望よりもシンの反応を窺うように行為を続けている。
最初のように強引に抱いてくれれば犬にでも咬まれたと忘れることもできるが、甘く優しく与えられる愛撫は、怖いほどにシンの身体に刻み付けられていく。

終わりのない責め苦にシンは幾度となく絶頂に追い上げられ、そうして幾度となく意識を飛ばした。
そうすると相手は行為を止めるのだ。
まるで意識がないシンでは抱く意味がないとでも言うかのように。
意識が戻ると口移しで水分を与えられ、そうして行為が再開される。
最早自害の意志がないと判断したのか、気が付いたら猿轡は外されていた。
そうして自由になった口から洩れるのは悲鳴でも懇願でもなく、断続的な嬌声。
腰を動かすたびに室内に響くシンの甘い喘ぎ声に、男が満足そうに笑ったような気がした。





解放は突然だった。
最早何度目になるかわからないほど重ねた行為の後、シンは昏倒に近い形で意識を失い、そうして目が覚めたら自分の部屋のベッドの上だった。
外出した時と同じ服装で、一切の衣服の乱れも見られない。
勿論財布の中身も、自室にある数少ない貴重品も見るところ何の変化もなさそうだ。
まるで帰宅をしてそのまま転寝をしてしまっただけとでも言うような現状。
だが身体はごまかしようのないほどの疲労に包まれているし、長時間拘束されていた手にはうっすらと縄の痕。
何よりも体中の至るところにつけられている情痕が、シンの身に起こったことが紛れもない現実であることを突き付けている。
気怠い身体を動かしてテレビをつけて時刻を確認してみれば、どうやら日曜の夕刻らしかった。
48時間の空白は、シンの体感日数に比べればやや短い。
だが流石に一週間以上も経過しているとは思えなかったので、本当に拉致されていた日数は2日間だけだったのだろう。
そういえばまともな食事も摂っていなかったことを思い出した。
空腹感より疲労の方が強いのであまり気にならなかったが、やはり2日程度が妥当なところだろう。
それでも実際の時間よりも長く感じてしまうのは、それだけ濃密な時間だったということか。
幾度も責め苛まれ意識を飛ばした。
目が覚めている時間のほとんどは男を受け入れていた。

彼が何の目的でシンを拐したのかわからない。
シンは本当に普通の青年で、女性のように柔らかい身体もまろい胸もないのに。
平均より細身の身体はどちらかと言えば貧相と言える部類で、同年代の友人に比べても圧倒的に見応えはない。
同性である男が欲を覚えるような要素はないはずなのだ。
シンの容姿が人並み以上に優れているという事実は、本人だけが知らない。
夕方のニュースを報じているテレビを消して、シンはそのままベッドに仰向けに寝転んだ。

(それにしても……)

行きずりの強姦魔にしてはずいぶんと優しかったとシンは呆然と考える。
愛撫も行為も決して緩いものではなかったし、むしろ激しさだけで言えば相当だったとは思うのだが、そこには自らの欲を解消するための性欲処理という大抵の強姦魔に該当する目的ではなかったような気がするのだ。
彼は常にシンの反応を見ていた。
シンが怯えないように、痛くないように、只管にシンの快感を引き出すことを意識していたように思える。
それなのにシンはあっさりと解放された。
まるで悪い夢だったかのように、身体に刻まれた痕以外は何一つ痕跡を残すことなく。
何故だろう。
恐怖は不思議となかった。飽和してしまったのかもしれない。
アパートに戻されたということは、相手がシンの家を知っているということ。
だが荒らされた形跡はないから、目的はあくまでもシン自身だったのだろう。
誰が、とか何故、とか疑問はいくつも浮かんでくるが、残念ながら今はシンに考える余裕がない。
精神的にもそうだが、何よりも肉体の疲労が激しいのだ。
正直指一本動かすこともつらい。
シンは見た目に相応しい体力しか持っておらず、長時間の行為は明らかに肉体の限界を超えていたのだ。
特に腰のだるさは今までに経験したことがない程だ。

(とにかく、今、は……)

ようやく取り戻した自由を感じるまでもなく、シンの意識は眠りの奥へと旅立っていった。







   ◇◆◇   ◇◆◇







一晩ぐっすり寝て体力も多少は回復したらしい。
それでも悲鳴を上げる腰だけはどうしようもなかったが、何とか誤魔化しながら登校してきたシンは1限目の講義へと出席した。
遺伝子学の授業は出席していれば単位を取れるという簡単なものではなく、むしろその単位修得率は学内でも1〜2を争うほど難解だと有名だが講義を受講する生徒は毎年数多くいる。
講師は昨年赴任してきた新任の教授だが、彼の講義はとにかく人気が高い。
難解な授業であるはずなのに彼が説明すると非常に分かりやすいと評判なのだが、人気の最たる理由は彼の要望に他ならない。
深紅の髪、アイスブルーの瞳。
均整のとれた長身は鍛え上げられた完璧な美しさで見る者の目を奪う。
特に神の寵愛を独り占めしたのではないかと言われるほど整った顔立ちは、女性ならば間違いなく目を奪われ、男性ならば羨望の眼差しを向けるほどである。
シンは教授の人気ではなく純粋に講義を目的に履修を決めたのだが、どんな細かい質問にも親切に答えてくれる教授に対する好感度は高い。

いつもの定位置に座り講義を受けているものの、シンの心を占めるのは先日のあの事件だ。
忘れるには深く刻み込まれたあの時間は、思い返せば思い返すほど夢のように感じてしまう。
勿論証拠は身体のあちこちに残っているのだから現実に起きたことは間違いないのだが、あまりにも現実離れしすぎていてどうしても自分の身に起こったことだと思えない。
見知らぬ男に強姦されたという事実は、不思議なほどシンの身体に嫌悪感も恐怖心も残さなかった。
思いの外愛撫が優しかったということもあるし、行為自体に対する知識がシンには乏しかったからかもしれない。
気になるのは、どうしてシンだったか、どうして顔を見せなかったのかだ。
考えられる理由は顔見知りの相手であるということ。
シンに素顔を見られることに弊害があることしか思いつかないのだ。
では誰がと考えれば、該当するのは大学の人物。
もしくはバイト先の相手という可能性もあるが、シンのバイトは家庭教師で、生徒は現在中学1年の女の子である。
その可能性は限りなくゼロに近い。

そんなことを考えているせいか講義の内容が半分ほど耳に入ってこない。
重要なことを聞き逃していたのだと気づいたのは、終了のチャイムが鳴ってからだった。
授業を聞き逃していたと思われるのは不本意だったが、事実なので潔くシンは教授の元へ質問に向かった。
女子生徒に人気の高い教授だからすぐに退室していなかったことが幸いだ。
何かと腕にまとわりついてくる生徒を苦笑とともに交わして廊下へやってきた教授へ目礼する。

「シン」

生徒の中でも比較的親しい相手の存在に、教授がふわりと笑みを浮かべる。

「ユダ教授、すみませんが先程の講義で質問があるのですが」
「ここで平気か。何なら研究室に戻ってからでも」
「いえ、一つだけですので」

若年ながら大学の教授として招致されたユダは、論文や研究など数多くこなしている多忙な人物だ。
研究室でゆっくりと話をするというのは非常に魅力的だが、そこまで時間がかかる質問でもないし、何よりシンの身体がまだ完全ではないため椅子に座るのが正直つらい。
シンの申し出にそうかと頷いたユダは、シンの訊ねる質問を丁寧に分かりやすく説明してくれた。
なるほどと納得したのを見計らってユダが教科書を閉じた。

「そういえば今日は心ここにあらずといった様子だったな。俺の講義はつまらなかったか」
「いっ、いえ、そんなことはありません」

軽い口調で言われてシンは焦る。
彼の講義が興味深いのはいつものことで、今日もそれは変わりなかった。
ただ、昨日の疲れがどうしても抜けていないのは事実。
そして己の身に起きたことが理解できなくてつい考え込んでしまったのも、又、事実だ。
結果として授業が上の空だったことは否定でいないが。

「すみません。少し気にかかることがあったもので」
「責めているわけではない。悩みがあるなら相談に乗ろう。いつでも訊ねてくればいい。授業の内容でもプライベートでも、な」
「……っ」

甘い笑顔でそう言われてシンの頬が赤く染まる。
知識欲の強いシンは講義を受ける際には必ずと言っていいほど前列席に座る。
それは勿論板書が見やすいという理由のためだが、大学内では真面目に講義を受けている生徒が少ないためそういうシンの受講態度は講師の目に留まることは多い。
誰であれ自分の話をきちんと聞いている相手に好印象を持つのは当然で、そういう理由でシンは多くの教授から可愛がられているし人によっては論文などの手伝いを頼まれることも多い。
特にユダとは年が近いということもあるせいか、教授の中でも親しい部類に入るだろう。
尤も彼から論文の手伝いを頼まれたことは一度もないが、資料探しを手伝ったり忙しい彼にお茶を淹れたりということは何度かある。
そんな彼がシンを気にかけてくれる気持ちは素直に嬉しい。

「あ、ありがとうございます。何かあったら相談に乗ってもらえますか」
「勿論だ。だが、あまり1人で無理をするなよ」
「はい」

そう言って、ユダはシンの頬を親しみを込めて撫でる。
最初は驚いたけれど、ユダは時々そうやってシンの頬や頭などに触れてくるのだ。
どうやら親しい相手にだけ見せる癖のようなものらしいと察し、シンはまたもや赤くなる頬を押さえながら礼をして踵を返し――そうして彼の触れたぬくもりがある記憶を刺激して足を止めた。

溺れるほどに与えられた快楽の渦の中で、このぬくもりを感じたような気がしたのだ。
振り返った先には、何事もなかったかのように去っていく後ろ姿。



(……まさか――)



  • 12.07.02