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泪月 05


この話には18歳未満の方が閲覧になるには不適切な内容が書いてあります。
18歳未満の方やBLの苦手な方は閲覧をおやめください。
ご覧になった後での苦情は一切聞きませんのでご了承願います。
大丈夫な方はレッツスクロール。

























































































消灯時間が過ぎた時刻になって、不二は姿を現す。
病院で意識が戻った日と同じように、不二は毎晩のようにこっそり病室に忍び込んでくる。
どうやって来るのか気になり質問したことがあったが、コツがあるのだと軽く笑ってかわされてしまった。
昼間他の人がいるときには、不二は姿を見せない。
そのことに何か理由があるのだろうと思うが、あえてそれを聞こうとは思わなかった。



「ふ……」

滑らかな肌に指を這わせられて、の口から声が漏れた。
夜間に繰り返される逢瀬。
最初はついばむような口付けだけだった。
だが、日を追うことにそれは深くなり、次第に肌に触れてくるようになった。
最初こそ驚いたものの、はそれを拒む気にはなれなかった。
2人の関係が友情という枠を超えていることは、すでに気づいていた。
男同士だということは不思議と気にならなかった。
病院内で不謹慎だと思うけれど、不二の温もりを感じているこの行為は、今の自分には必要なことなのだとは思う。
目の見えない恐怖。将来への不安。
それらを考えると、時折ひどく孤独感に包まれることがある。
今までの当然のようにいた世界が、まるで足元から崩れていくような、たとえようのない孤独。
そんな自分がひどく弱い生き物になったようで、悩んでいる自分を認めたくなかった。
忘れようと何度も思うが、不安というものは考えないようにしても、決して消え去るものではない。
眠りにつくと、夢を見て飛び起きる。
だから眠ることが怖くなった。
それを解消してくれたのが不二だった。
不二の腕の中にいるときは、孤独を感じなかった。
優しい口付けとともに大丈夫だよと囁かれると、本当に大丈夫なのだと思えた。
家族や他の仲間の気遣うような声とは違う、本心からの言葉。
誰がくれる慰めの言葉よりも、それが嬉しい。
愛してると囁かれるたびに、ひどく安心する。
不二が与えてくれる無償の愛情。それが今のを支えているのだ。



首に胸に背中にと、唇が下りてくる。
胸を軽く吸われ、の身体が小さく反応する。
くすり、と不二が笑った。

「相変わらず可愛いね、は」
「…ば、か……っ」

白い肌が羞恥と快感で色づいていくのを見ながら、不二はいっそう愛撫を深くする。
脇から腰骨へとラインに沿って指を這わすと、の眉が切なそうに顰められる。
何も知らなかった身体は不二の手によって容易く翻弄され、今まで見たこともない艶やかな表情を見せる。
白い背が跳ね上がり、うっすらと開いた唇から甘い吐息が漏れる。
眉根を寄せ必死で快感を耐えている様子は、不二の嗜虐心を刺激する
焦らすように指先で弄ぶと、の眦に涙が浮かんだ。

「……不、二……。やだ……!」

つらそうに頭を振って、は不二の手を押さえる。
快感が深くて、このままではどうにかなりそうだった。

「……もう…っ……」
「駄目だよ、。まだこれからなんだから」
「不二…」
「周助だよ、
「しゅ…すけ…?」
「そう。名前で呼んで。僕のこと」
「周助…」
「いい子だ」

耳元で優しく囁かれて、の身体がぞくりと震える。
細い足を持ち上げの中に身を沈めれば、は不二にすがりついてくる。
そんながひどく愛しく、傷が癒えたばかりの身体だとわかっていても、手加減ができなかった。
欲望のまま何度も腰を打ち付ける。
快感のためにうっすらと浮かぶ涙を舌で拭い、赤く色づいた唇をむさぼる。

「…ん……っ……」

呼吸すら奪うほどの激しい口付け。
お互いが深く求め合い、角度を変えて何度も口付けを交わした。

、愛してるよ」

口付けとともに告げられる言葉は、甘い媚薬のようにの心に浸透していった。



唯一の存在。
自分にとっての不二は、確かにそうなのだろう。
触れる肌のぬくもりよりも、耳元に囁かれる優しい愛の言葉よりも、何よりも隣に不二がいるだけで気持ちが安らいでいくのを感じる。
今までの出会いの中で、不二周助という人物に出会えたことは、にとってこれ以上ない幸福なのかもしれない。
おそらく二度と出会えないだろう、自分にとって大切な人。
ベッドから起き上がると、素肌にひんやりとした空気を感じる。
情事の後の火照った身体には、その空気が心地よい。
隣にいる不二の顔に、そっと手を伸ばす。
さらりとした髪の感触。形のよい輪郭をそっとなぞって、は不二の顔に触れていく。
視力は失ったが、こうして触れることで不二の顔がわかる。
長い睫、鼻梁の通った形のよい鼻。
毎日見てきた、にとって見慣れた顔である。
だが、の記憶に鮮明に残っているのは、やはり事故の直前に見た顔だった。
蒼白だった。
今までに見たこともない、必死の顔をしていた。
凍りついたような表情で、不二の口が自分の名を紡いだのをよく覚えている。
は不二の唇に触れた。
少し薄めの、だが形のいい唇。
安らかな寝息を立てていたはずのその口が、ふんわりと弧を描いた。

「くすぐったいよ

頬に触れている手に自分の手を添えて、不二は微笑んだ。

「ごめん、起こした?」
「ううん。の観察をしてたんだよ。急に何するかと思った」
「周助の顔、覚えておきたいなと思って」
?」
「ほら、俺ってば目が見えないじゃないか。記憶の中の周助の顔が消えちゃうの嫌だから。触ってれば指が覚えてるかなと思って」

忘れたくないが、記憶というものはあやふやなものだ。
今でさえ目に浮かぶのはあの時の不二の顔ばかり。
幼い頃から一緒に過ごしてきて、それこそいろんな顔を見てきたというのに、今はもうよく思い出せない。
こうやって忘れてしまうのだろうかと思うと、ひどく哀しかった。
それなら、忘れられないくらい身体に刻み付けておきたかった。
不二のくれるすべてのもの。
抱きしめる腕の強さ。触れる肌の温かさ。
狂おしいほどの愛情も。
そして自分の指先にその繊細な顔立ちを記憶させておきたかった。
いつでも思い出せるように。

の目は見えるようになるよ」
「…周助?」

の手をそっと掴んで、その指先に愛しそうなキスを落として。
不二はそう言った。

「角膜を移植すれば視力は回復するんだから、これから先も見えないなんてことないよ。は見えるようになるよ」
「……うん」

は苦笑した。
不二の言葉は正しい。
視神経を傷つけたわけではないので、角膜移植という手段を用いれば、の視力は確かに回復する。
だが、そのためには角膜提供者が必要なのだ。
そしてのように提供者を待っている患者は大勢いる。
いつ自分の番になるか、それすらわからない。
淡い期待を抱いて、いつくるかわからない角膜提供者を待っていたくなかった。
それならこれから先盲目で生きていくという覚悟を決めておいたほうが、気持ちは楽になる。
の心境がわかったのか、不二はの頭をそっと引き寄せた。
抵抗もなく、は不二の腕の中におさまった。

「僕がの視力を取り戻してあげるよ」
「周助?」
の視力は必ず戻るから、だから安心して」
「…周、助…」
「僕がに嘘をついたことがあった?」

は首を振った。
からかうことは多いが、を騙したり欺いたりしたことは一度もなかった。
は不二の言葉を無条件で信じていたほどだ。

「約束するよ」

真摯な声でそう告げられて、の涙腺が緩んだ。
大きな雫が頬を伝ってシーツを濡らす。
不二はそっとの涙を拭った。

「僕を信じて」

かすかな希望に縋りつくように頷いた。


  • 10.04.23