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今この瞬間


関東大会初戦。
氷帝対青学。
事実上の決勝戦と言われただけあって、その試合は1戦1戦がわずかな油断すら許されないものだった。
4戦終わって1勝2敗1引き分け。
次の試合を逃したら、氷帝は初戦敗退という結果に終わる。
すべては景吾の手に委ねられた。



景吾が僕を呼んだ。
前を見据えたまま。
その視線の先にいるのは、最強と言われた手塚国光。
景吾がライバルと認めた唯一の相手だ。

「お前に最高の試合を見せてやるよ」

振り返った景吾は口元に笑みを浮かべたまま、そう告げた。
強く、自分に言い聞かせるように。

「頑張ってね」

景吾の背中をそっと押した。
大丈夫。
景吾は負けない。






シングルス1。
景吾と手塚の長時間に及ぶ激戦は、景吾の勝利に終わった。
本人にそのつもりがなかったとは言え、結果的に景吾が壊してしまった手塚の肩。
苦痛に顔を歪めながらも、それでも全力で試合に臨む手塚。
そしてそんな手塚に全力で挑んだ景吾。
普段の景吾なら、こんなことはしない。
誰よりも誇り高く、誰よりもテニスを好きだから。
相手選手を潰すようなこと、しないはずだ。
だが今回景吾はあえて持久戦に持ち込んだ。
手塚の肩が長時間の試合に耐えられないと知りながら。
景吾は手塚が勝ち急ぐと予想しての行動だったのだろう。
だが、手塚は急がなかった。。
自らの腕を犠牲にする覚悟で持久戦を選んだのだ。
そうなっては景吾は引くことができない。
全力で戦うしかなかった。
勝利のために。

必ず全国に連れて行くと、そう言ってくれた。
その言葉を守るように勝利を収めた景吾。
最高の試合だった。
手塚も景吾も、本当に素晴らしかった。
ベンチに力なく座り込んだ景吾の頭にタオルをかけ、荒く息をつく頭をそっと抱え込んだ。

「最高の試合をありがとう」

こんな試合は多分そう何度も見れるものじゃない。
僕の囁きに、景吾が小さく笑ったのがわかった。

「………約束、しただろ……」

切れ切れの声で、景吾がそう言ってくれたのがわかった。
不覚にも涙が出そうになって、目を閉じた。


氷帝の命運を決める最後の1戦。
青学の選手はリョーマ。
偶然知り合った2つ年下の少年。
青学に通っているということは聞いたことがあった。
テニス部に所属していることも知っていた。
いつか試合できるといいねと話していたけど、これまで時間の都合で対戦するまでには至っていなかった。
背は低く身体も細いけど、それでもしっかりとスタミナはありそうな感じがした。
そう思ってリョーマを見ると、強い視線が僕を見ていた。
対戦相手の日吉じゃなく、応援席にいる僕の姿をその目が確かに捉えた。
口元がかすかに笑みを作り、小さく動く。
ほんのわずか。
でも、その動きからリョーマが何を呟いたか僕には分かった。

『俺は勝つよ』

確かにそう言った。
揺らぎない視線とともに。
何かが頭の中で響いている。
何だろう、この感じ。
景吾がようやく繋ぎとめた全国への道が目の前にあるというのに。
今にも手からすり抜けてしまいそうな脆さを感じるのは。
無意識のうちに握り締めていたのだろう僕の拳を見て、景吾が怪訝そうな顔をした。

?」
「…何でもない」

気のせいであって欲しい。

だが、それは的中してしまったのだ。


  • 05.09.05