Sub menu


あるべき場所


退院後の自宅療養中、色々なことがあった。
予想外だった地区予選での敗北。
不動峰の橘に負けた亮は正レギュラーを退き、代わってジローの正レギュラー入りが決定した。
その後亮が実力で正レギュラーの座に返り咲いて、萩が正レギュラーの座を追われた。
一度でも負けたら即レギュラー落ちが氷帝のルールなので仕方ないことなのかもしれないけど、今まで一緒に行動してきた仲間が消えていくのは哀しいものがある。
コンソレーションで関東大会進出を決めた氷帝は、初戦で青学と対決することになった。
全国でも有名な手塚国光率いる青春学園。
立海大についで氷帝のライバル校である青学に楽勝できるとは思えない。
それがわかっているからか、みんなの練習量も半端じゃないらしく毎日のように見舞いに来てくれる皆はひどく疲れて見えた。
みんなの力になりたいと思っても、怪我が完治せず医者から外出を止められているためにそれもままならない。
自分の取った行動を後悔するわけじゃないけど、頑張っているみんなに何もできないことが申し訳なかった。

大会当日。
大人しくしているようにと医者から厳命されていたけど、自宅でじっとしていることなんてできない。
運転手に無理を言って会場まで連れてきてもらい、ばれないように目立つ髪の色を帽子で隠して応援できる場所を探そうとしていたんだけど、会場に入って数分で見つかってしまった。



背後からよく知った声が僕の名を呼んだ。
忙しいはずなのに、何でこんなところにいるんだろう。
それに何ですぐ僕だってばれるんだろう。

「呼んでるのが聞こえないのか」

不機嫌な声に聞こえないふりをし続けることもできず観念して振り返ると、やはりそこにはよく見知った顔があった。

「…よくわかったね」
「お前はどこにいても目立つんだよ」
「念のため変装してたのに」
「こんな帽子1つで俺がお前を見間違えるとでも思ってんのか、あ〜ん?」
「……」
「第一お前は目立つんだよ。良くも悪くもな。いい加減自覚しろ」

いや、景吾より目立たないと思うよ。
そう言ったら景吾に睨まれた。
ただでさえ試合前はナーバスになるのに、僕の行動が景吾を余計に機嫌悪くさせてしまったようだ。
もう少し遅く来ればよかった。
コートに入ってれば気付かれなかったのにな。

「お前、自分の体調分かってんのか」
「わかってるよ」
「…外出許可は出たのか」
「出てないけど、大丈夫」

景吾はため息をついて僕の額に手を当てた。
慌てて振り払ったけど、やはり気付かれた。
景吾の眉間の皺が深くなる。

「熱があるじゃねえか」
「ただの微熱だよ」
「骨だってまだ完全にくっついてないだろうが」
「退院したから平気だよ」
「それはお前が無理やり帰るって言い張ったからだろうが。怪我が癒えたわけでもなければ本来ならまだ入院してるべきだろう」
「それはそうだけど、でもみんなの応援がしたかったんだ」

厳しい眼差しで睨まれるけど、ここまで来て素直に帰ることなんてできない。
景吾が僕の身体を心配してくれるのはありがたいと思うけど、僕はいつまでも小さな子供じゃない。

「僕だって氷帝テニス部の一員なんだよ」

地区大会の時は一緒にいることができなかった。
その後のことも、僕は後になって報告を受けるだけ。
一生懸命練習しているみんなに対して、僕は何もできなかったんだ。
ここに来たからって、みんなに何かをしてあげられるわけじゃない。
むしろ心配かけるだけかもしれない。
でも、それでも一緒にいたかった。
頑張るみんなの傍にいたかった。

「まったく…」

一度言い出したら聞かない僕の性格を知っているからか、景吾は諦めたようにため息をついた。

「…仕方ねえな」
「…ごめんね」
「おい、樺地」
「ウス」

ばさり、と頭上から何かが降ってきた。

「ジャージ?」

しかも僕のだ。
もしかして持ってきてくれていたの?

「お前のことだ。どうせ反対されても来ると思ってな。どうせなら隠れて応援するより姿を見せたほうがあいつらも喜ぶだろう」
「景吾…」
「ただし具合が悪くなったら無理せず言うんだ。試合中にぶっ倒れでもしたら完治するまでベッドに縛り付けるぞ」

景吾は有言実行のタイプだ。
やると言ったら必ずするだろう。
そうなると家族の誰も僕の味方をしてくれないから、怪我が治るまでベッドに縛り付けられることは間違いない。
そこまでいかなくても部屋から一歩も出られなくなるのは確実だ。
それは嫌だな。

「約束するよ。大人しくしてる。少しでも気分が悪くなったら帰るから」
「その言葉忘れんなよ」




景吾に腕を引かれ集合場所に行くと、すでにみんな集まっていた。
頻繁に見舞いに来てくれていたから久しぶりというわけじゃないけど、ジャージ姿のみんなを見るのは何だか懐かしかった。
ラケットを持つみんなは生き生きとしていて、僕を見ると嬉しそうに笑った。

が大人しゅうしてるとは思うてへんかったで」
「来ると思ってたよ」
「結果が分かりすぎてて賭けにもならなかったもんな」
「跡部だって、本音はに来てもらいたかったんだぜ」

口々に言われる言葉に、景吾が不機嫌になる。

「お前ら、人をダシに賭けなんてしてんじゃねーよ」
「せやからしてへんって。第一賭けにならへんもん」

いつもと変わらない軽口。
緊張してないみたいで安心した。

「でも、本当に来てくれてよかったよ」
「萩」
「みんな口に出さないけど、本当はと一緒に試合に出たかったんだよ。それが駄目ならせめてベンチに座っていてくれるだけでもって思ってた。だって、みんなの夢は全員で全国制覇することなんだから。でも、に無理をさせるわけにはいかないから、誰も言葉にすることはなかったけどね」
「みんな…」
「僕は試合に出ないから一緒にみんなを応援しよう」
「うん」


試合は出られないけど、その代わり精一杯応援するよ。

だから頑張って。


  • 05.08.19