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果てしない闇の向こうへ


知り合ってから2年余り。
14年の人生でそれは決して短い時間ではなかったが、だからといって長いと呼べる時間でもない。
365日、それこそ会わない日はない程に一緒にいたせいか、親友というよりも兄弟と呼んだほうが近いほどに馴染んでいた。
しっかりしているくせに無防備で。
誰よりも聡明なくせに、驚くほど自分を知らなくて。
何もかもに恵まれておきながら、そのすべてに執着を見せない、そんな清らかな存在。

傍にいるのが当然だと思っていた。
俺の隣に立つのはあいつだけだと。
今までも、そしてこれから先も。

それが失われることになるなんて、想像したことがなかった。
いや、想像しようとしなかった。
このまま年を重ね、そうしてお互い社会に出ても、それでもこうしてお互い並んでいられると、そう信じて疑わなかった。

留学生という立場のが、生まれ育った国に帰ることは至極当然のこと。
なのにそれを失念していたのは、やはり俺の傲慢なのだろうか。
にはの人生があることを、わかっていたつもりで理解していなかったのだろうか…。



「…餓鬼みてえだ…まったく…」

は俺の所有物ではない。

「そんなのはわかってる…」

あいつはいずれ本国へ帰る。

「当然だ…」

向こうには家族が待っているんだ。
を溺愛している両親と、そしてまだ幼い妹が。
によく似た、の大好きな妹が。
俺がの立場でも、戻るだろう。
何よりも大切にしなければならないのは、家族の絆なのだから。

そこまでわかっているのに、それでも頭のどこかでそれを否定しようとしている自分がいるのが、あまりにも愚かすぎて笑うこともできない。

が、このまま日本にいてくれないだろうかとか。
家族よりも俺達を選んでくれないだろうかとか。

叶わないと知りつつも、願わずにいられないなんて、俺は愚かだ…。




「ここにいたんだ、景吾」
…」

向けられる微笑はいつもと変わらない。
その奥に先日見えた影も憂いも、表情を曇らせる何もかもなくなっている。
わずかに見せたあの翳りは、今はない。

「進路希望書は提出したのか」
「うん、さっき監督に出してきたよ」

決めたのだろうか。
は、どちらの道を選んだのだろうか――。

「監督に捕まっちゃってさ、レギュラーを鍛えてくれって。これから皆で顔出しに行くんだけど、景吾も一緒に行こうよ。久しぶりに相手してよ」

差し伸べられた白い手。
思わずその細い手首を掴んだのは、多分無意識のこと。
引き寄せた身体は、スポーツマンとは思えないほどに軽かった。

「景吾?」
…」

嫌だ。

「イギリスになんて、帰るな…」

子供じみた我儘でもいい。
無理に気持ちを押し殺すには、まだ俺はガキなんだ。


「帰らないけど…?」

………は?

「あれ?僕ロンドンに帰るなんて言ったことあったっけ?」
「いや…」
「え?じゃあ何で?」

不思議そうに首を傾げる様は演技しているとは思えなくて。

「お前…進路で悩んでたんじゃ…」

昨日見せたあの表情は一体…。

「別に悩んでないよ。確かに父さんと全然連絡取れなくて承諾貰うのに時間かかったけど、僕の進路は氷帝学園高等部だし」
「連絡取れないって…」
「そうなんだよ、聞いてよ景吾。父さんってばパリに出張中に携帯をセーヌ河に落として壊しちゃったんだって。しかも新しい携帯作る時間もなくて、その間ずっと秘書を通してしか連絡がつかなかったんだよ。パリと日本の時差を考えると私用で秘書を起こすのも申し訳ないから、結局父さんと連絡がついたのって2週間ぶりだったんだよ。まったく、父さんに話を通さないで進路を決めるのも悪いと思ったから早く連絡取りたかったのに…呆れるよ」

…ってことはつまり。

「お前がイギリスに帰国するってことは…」
「ないよ」

俺が今まで悶々と1人苦悩していた疑惑に対して、返ってきたのは非常にシンプルかつ明確な一言。

これはつまりアレか?

俺の早合点ということか?


………………………。




〜おまけ〜


「あ?の進路?んなのあいつだって言ってたろうが、このまま持ち上がりだって。提出遅れたのだって、親の承諾が必要だってだけだろ」
「俺達と一緒だって言ってたC〜」
「何や、跡部が昨日から機嫌悪うなっとったんは、そのせいなん?」
「………激ダサ…」
「本当に、跡部はのことになると面白いくらい壊れるよね」


うるせえよ!!


  • 06.12.20