試合禁止と言われてはいたけど、どうしても我慢できなくて。
自分1人が違反すると後で景吾が怖いから、どうせなら氷帝も青学も全員巻き込んじゃえばいいじゃんという萩の言葉通り、試合後の皆を誘って無差別ダブルス総当り戦をすることになった。
最初こそ額に青筋立てて怒っていた景吾だったけど、何だかんだ言っても皆が乗り気だったので1人だけ反対しているのも無駄だと悟ったのか、景吾もトーナメント戦に参加してくれた。
本当に、渋々って感じだったけど。
トーナメント戦ともなればパートナーとのコンビネーションが重要になるのはわかりきったことで、あちこちでパートナーをめぐる小競り合いが起こってしまい、公平にくじ引きにした結果なかなか面白いことになった。
まずは、樺地・河村のパワーダブルスに対し、岳人・英二のアクロバティックペア。
勝負は樺地・河村ペアの力押しで勝敗が決まったけど、身の軽さが武器の2人のダブルスは予想通りコート内で飛びまわっていて、見ている分には面白かった。
特に岳人は試合に勝つことよりも、英二よりも高く跳ぶことに執着していたようで、結局そのコンビネーションを狙われて負けたようなものだった。
うなだれてベンチに戻った岳人と英二を、侑士と不二が慰めてたのが微笑ましかった。
それから宍戸・桃城対長太郎・海堂戦とか、侑士・乾対萩・不二とか、ジロー・大石対日吉・リョーマ戦とか色々面白いダブルスを見ることができた。
どうやら皆適応力が強いみたいで、ほとんどのペアはそれなりにいい試合になっていたと思う。
中には根本的にダブルスに向かない性格をしている人もいたけど。リョーマとか。
個人ではおそらく全国に出ても十分通用するであろう実力の持ち主なんだけど、やはり他人と呼吸を合わせることが苦手みたいで、日吉とのコンビネーションは悉く失敗していたのが可哀想だった。
青学のためにも、リョーマはシングルスで出場するしかないかもしれない。
僕のパートナーは景吾だった。
これだけの人数がいながらどうして景吾なのか不思議だったけど、くじは僕が作ったから不正なんてあるわけもない。
氷帝の皆は「跡部の執念が勝った」とか言って笑ってたけど、どういう意味なんだろう?
でも、景吾がパートナーということは、僕にとってはすごく力強いことだった。
何しろ景吾とのダブルスは、他の誰よりも僕が僕らしくテニスできるのだから。
結果、僕と景吾のペアは全戦全勝。
トーナメント戦は僕と景吾の優勝で終わったんだけど、どうやら皆楽しかったらしくてパートナーを変えてあちこちで対戦が始まっていた。
僕達もかなり試合を申し込まれて、一体何回試合したか正直覚えていないくらいだった。
1年生の時、僕達のダブルスは無敵と言われたことがあったけど、今こうやって改めてペアを組んでみると、本当にそんな気がする。
1セットマッチのダブルス戦だったけど、勝敗など関係なく単純にテニスを楽しめるから、僕は公式戦よりもこういうゲームのほうが好きなんだ。
「と跡部って、私生活だけでなくテニスでも最高のパートナーなんだね」
最後の試合を終えてから不二がそう言ったけど、よく意味がわからない。
まあ、その一言で景吾の機嫌が直ったから、よしとしよう。
別荘に戻って食事をしたら、あっという間に夜になってしまった。
連日のハードな練習メニューと今日の無差別ダブルス戦で疲れたのだろうか。
普段ならリビングに集まってテレビを見たりゲームをしたりと、夜遅くまで元気だった皆は、眠そうに目をこすりつつ早々に部屋に戻っていった。
元気なのはこの合宿中、1人で練習メニューが少なかった僕だけ。
しかも僕は移動のバスの中でも熟睡していたから、正直いって疲れてはいたけどあまり眠くはなかった。
かと言って普段からテレビを見る習慣があまりないものだから、1人でリビングにいてもすることもないから、今日はシャワーを浴びて早めに寝ることにしよう。
シャワーを浴びて、ふと時計を見ると午後10時になろうとしていた。
ヨーロッパとの時差は約15〜16時間。
ということは向こうは昼間だし、電話しても不都合はないかな。
もしかしたらリハビリ中で電話が繋がらないかもと思っていたんだけど、携帯からは予想に反して低い落ち着いた声が返ってきた。
『か?』
「あ、手塚?ごめんね。今大丈夫?」
『構わない。そういえば、先ほど大石から連絡があった。うちの合宿に協力してくれたそうだな。感謝する』
「ううん、約束したし。僕達にできることはこれくらいだからね。僕達としても、青学には是非とも全国に行ってもらいたいし」
多分僕達が協力しなくても、青学は全国に行くだろう。
今年の青学は強い。
だからそれは心配していない。
心配なのは、全国の切符を手に入れることよりもむしろ…。
『それで、あいつらはどう思った?』
「どうって…」
『王者・立海大を相手に勝てると思うか?』
「……」
手塚も僕と同じことを考えていたのだろう。
僕の思考とシンクロしているかのような問いかけに、思わず苦笑が浮かんでしまう。
『…?』
「あぁ、ごめん。丁度僕も同じこと考えてたから。…そうだね。立海大は確かに強いけど、同じ中学生なんだから絶対勝てないってことはないと思うんだ」
そう、確かに立海大は常勝校だし全国連覇をしているけど、それでも決して無敗の学校じゃない。
一人一人の実力は確かに凄いものがあるけど、それでも彼らだって一度も負けたことがないわけじゃないんだ。
「手塚がいない穴は大きいけど、その分残った皆が頑張ってるし、今の彼らなら信じてもいいと思うよ」
『そうか…』
立海大に負けない結束が、青学にはあった。
難しいけど彼らならやってくれるかもしれない。
「関東大会の決勝戦は、僕達も応援に行くつもりだから、手塚の分も応援しておくね」
『…そうだな、頼む』
「ねえ、手塚」
『何だ?』
「青学はいいチームだね」
『当然だ。何ならも青学へ編入してくればいい。こちらは大歓迎するぞ』
冗談半分な軽い口調に、思わず笑ってしまった。
手塚って落ち着いたイメージがあるけど、こんな軽口を言う人なんだ。
青学に編入…ね。
確かに毎日楽しいだろう。
でも、僕はやっぱり氷帝が一番だしね。
「ありがたい申し出だけど、僕は…」
「が青学なんかに行くわけねえだろ」
耳元で低い声が響いて驚いて振り返ったら、手塚並みに眉間に皺を刻んだ景吾がいた。
「景…モガツ!」
「生憎だったな。手塚。こいつは俺らのもんだ。青学には髪の毛一本とてやらねえよ」
受話器を持っていた手ごと景吾に捕まれた。
『いつからはお前の所有物になったんだ?のことはが自分で決めるんじゃないのか』
「はっ!そう思ってるならお前はのこと何一つ知らないってことだろ。お前らじゃを満足させることはできねえよ」
満足ってどういう意味?って聞きたかったけど、言葉にはならなかった。
だって、僕の顔のすぐ横にある景吾の視線がすごく怖い。
折角機嫌直ったと思ったのに、昨日よりも更に不機嫌になってるよ。
電話を奪うなら携帯だけにしてくれれば今すぐ萩の部屋に避難できるのに、景吾の手は携帯ごと僕の手をしっかりと握り締めたまま。
ぎりぎりと握られる手は、正直言って結構痛い。
さらに背中を抱え込むように口を塞がれているので、逃げることは不可能だ。
まったく、何でこんなに力があるんだろ。
じたばた暴れても無駄なので、大人しく電話が終わるのを待つことにした。
どうやら景吾と手塚は絶対的に相性が悪いらしい。
もう少し和やかに会話してくれればいいのに、景吾の言葉も携帯から漏れてくる手塚の声もお互い険を含んでいる。
テニスではライバルでも、普段は仲良くしてくれるといいんだけどなあ。
そしてこんな状態のまま、僕は一体どうしたらいいんだろう?
どうやら、景吾と手塚はその後延々30分にわたって会話していたらしい。
僕はいつの間にか景吾の腕の中で眠ってしまったようで、その内容は覚えていない。
「あの状況でよく眠れるよな」
景吾は呆れてそう言ったけど、動けないし話せないんじゃ眠る以外方法がないじゃないか。
ねえ?
- 06.02.28