Sub menu


企む者


「ということで、今日は青学の連中と試合だ」

朝食の席で、跡部がさらりととんでもないことを告げた。





「は?」
「だから、連中が合宿やってるらしいから、いっちょ揉んでやれと言ってるんだ。さっき言っただろうが。耳ついてんのか」

いや、言ってねえから。

こいつの唯我独尊ぶりは今に始まったことじゃないし、俺は幼稚舎からの付き合いで嫌でもこいつの思考回路が常人とかけ離れてることは知ってるとしても、わかることとわからないことがある。
さっきまでお前は青学の「せ」の字すら出さなかったじゃねえか。
昨日と打って変わって上機嫌だし、はっきりいって気味悪い。

「あんな、跡部。もう少し分かりやすく言ってもらえへんと、俺はともかくお子様達にはわからんで?」

お子様って誰だよ…って、あぁ岳人か。
向かいの席に座った岳人が、舌平目のムニエルを口に運ぼうとした状態のまま固まってるし。
長太郎は俺の隣できょとんとした顔をしてるし。

「ちっ、面倒くせえな。先日から青学のレギュラーがこの近所で合宿してるらしい。手塚もいないしあの連中じゃ立海大とは互角に戦えないだろうってことで、俺達に協力してほしいと手塚から要請があったらしい。のところにな
「……」

最後の言葉に怨念を感じたのは俺だけか?
こいつは本当にのことになると心が狭くなるよな。
あぁそういやもう1人…って思ったら何やら別方向から怨念が…。

「…なるほど、のところへ直接かいな」
「そういうことだ」
「えぇ度胸しとるやん。手塚も」

お前もかよっ。
誰かこいつらを止めてくれ。
俺は嫌だ。
長い付き合いでこういうときに俺が口を挟むと余計にひどいことになるんだから。

「へえ、楽しそうじゃん。そんで、俺らが青学の奴らと対戦するの?」
「あぁ、対戦相手は俺とで決めておいた。遠慮はいらない。容赦なく叩き潰してこい。俺が許す」
「りょーかい。任せろ」

場の空気を読めない岳人があっけらかんと笑った。
こいつのこういう鈍さが時々すごく助かるぜ。
和やかな食事風景が一転して殺伐としたものになったが、どうやら岳人のお陰で元に戻ったようでほっとした。
別に皆でにこやかに朝食を取りたいなんて思わないけど、黒い笑顔を見ながら食事しても美味くないからな。

「ところで、さんはどうしたんですか?」

誰もが思っていたけど口に出さなかった疑問を、長太郎が切り出した。
珍しく起床時間になっても起きてこなかった
普段ならしつこいくらいに過保護な跡部も忍足も、何故かそのことに関しては何も触れようとせず、そのまま食事が始まった。
の席は空席のまま。
給仕の人もも当然のようにの席だけ避けてる。
気にならなかったといえば嘘になる。
だけど、怖いくらいに機嫌のいい跡部に、はどうしたと聞く勇気がなかったのだ。
多分、跡部の機嫌の理由はなのだろうとわかっていたから。

か?」

何かを思い出したのか、跡部が口元をゆるめた。

ならまだ寝てるぜ」

そのまま優雅な動作でグラスを傾ける。
そんな仕草も実に様になっている。
たとえ中身がオレンジジュースだとしても。
つーか、ジュース飲むのにそんなに格好つけなくてもいいんじゃないか。

「寝てるって…いいんですか?」

長太郎が訊ねるのも無理はない。
合宿が始まる前にウィリアムさんが言っていたはずだ。
この合宿では様々なことにペナルティが課せられるのだと。
一度だけジローが寝坊して練習に遅れたことがあったが、その時はこのだだっ広い庭全部の草むしりをさせられていた。
勿論1人で。
まさかにも同じペナルティを課すつもりなのだろうか。

「いいわけねえだろ」

そう言う跡部の顔はすごく楽しそうだ。
一体何を企んでいるのか。
ナプキンで口元を拭い、跡部がにやりと笑う。

「当然にもペナルティを課す。あいつは今日一日見学だ」

…跡部、お前めちゃくちゃ心狭いわ本当に。
そんなにと青学を対戦させたくないのか?
あいつらが一番望んでるのはとの試合なのは、普段の態度から明らかだ。
おそらくそのために手塚がに協力を頼んだのだろうに。

が起きてこない原因は跡部にあるのだろう。
昨日の不機嫌から一転したことから、そうとしか思えない。
一体どんな手段を使ったのやら。
さすがにが気の毒になってくる。
どうやら忍足にも跡部の意図がわかったのだろう。
複雑そうな顔をしている。

も可哀想にな」
「…同感」
「独占欲の強い旦那持つと大変やわホンマに」

旦那?
どういう意味だ?


  • 05.12.29