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空の下


何事も地道な努力というのは大事なんだなと思う。
テニス部のみんながウィリアムのコーチを受けるのは今回で2度目。
前回は提示された練習メニューをクリアするだけで、身動きすることもつらいほど疲労困憊していた彼らだったけど、日々の練習の成果か半年前に比べて随分と基礎体力が上昇している。
個人別に苦手を克服するための練習メニュー。
特にクライヴが作ったものだからその練習量は半端じゃないし、指導内容だってそれなりに厳しいものだ。
それでも誰一人として不満を漏らさないのは、真剣にテニスが上達したいと思っているから。
コートに向かい指導を受ける態度は真剣そのもの。
こういう雰囲気は結構好きだ。

「何か、いいよね」
「何がだよ?」

独白に答えがあって振り返ると、いつのまに来たのか景吾が背後に立っていた。
今日のメニューはすべて消化したのだろうか。
まるでシャワーを浴びたかのような大量の汗を、タオルで拭いながら僕の隣に腰を下ろす。

「お疲れ」
「あぁ…、お前はもう終わったのか」
「うん、一応ね」

景吾が悔しそうに舌打ちをする。
自分が一番じゃないのが悔しいのだろう。
でも、それは無理のないことだ。
僕と景吾とでは、メニューが全然違うのだ。
過保護な保護者のせいで。
肋骨を折った(正確にはひびが入っただけ)ことを理由に、僕に用意されたメニューはランニングとストレッチと肩慣らし程度の基礎練習だけ。
もう完治したと何度言っても聞き入れてもらえない。
相当心配かけたのは確かなので、とりあえず言われた通りの練習しかしてないんだけど、はっきり言って物足りない。
思いっきりラケットを振りたい。
コートを走りたい。
力いっぱい試合をしたい。

「ねえ、景吾。後で相手してよ」
「コーチの許可をもらえたらな」
「けち」
「何とでも言え。勝手に試合なんぞしたら俺が殺される」

さすがにそれはないだろうと思ったけど、う〜んどうだろ。
完全に否定できないあたりが哀しいよね。
まったく皆過保護なんだから。

ため息をついて芝生に寝転んだら、横で景吾が笑った気配がした。

「許可が下りたらいくらでも相手してやるよ」
「下りるかな」
「さあな」
「微妙に優しくないね景吾」
「2人に黙ってたのが悪いんだろうが」
「それはそうだけどさ」

怪我をしたことをクライヴとウィルに黙っていたのは悪いと思うけどさ、折角合宿で思う存分テニスできると思ってたのに、まさか2人がこういう仕返しをするとは思ってなかった。
自分が悪いのは分かってるから仕方ないと言ったら仕方ないんだけどね。

「ま、最終日くらいには試合の1つもさせてくれるんじゃねえのか。何だかんだ言ってもお前に甘いんだからさ」
「そうだといいけどね」

そう呟くと、景吾が小さく笑ってくしゃりと髪をかきまぜた。



その頃…。

「なあ、あれ何に見える?」
「彼氏の練習を見学に来てる彼女の図、かな」
「めっさラブラブなんやけど」
「無意識でやってるから性質悪いよね」

そんな会話を侑士と滝之介が交わしていたことを、僕は知らない。


  • 05.11.01