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天国へのカウントダウン


『明日からみんなで合宿するから』

突然笑顔で宣告したの言葉通り、翌日には俺達は跡部の所有する別荘にいた。
マイクロバスに揺られること数時間。
跡部家や家の所有する別荘に来ることはこれが初めてではない。
むしろ大型連休にはほとんどお邪魔していると言っても過言ではない。
だが、俺は思う。
何故毎回違う別荘なんだ?
普通いくら金持ちとは言っても、別荘なんて大層なもの、そんなにいくつも持っているもんじゃないだろ。
一体いくつ別荘を所有しているんだ、この2人の家は。
今回訪れたのは関東では有数の観光地で、避暑地として有名な場所だ。
去年の夏には、この地での家が所有するばかでかい別荘にお邪魔して、普通では考えられない1台ン千万もするというグランドピアノが2台鎮座する小ホールにど肝を抜かれたが、今回の跡部家別荘にも空いた口がふさがらなかった。
玄関前に広がるロータリー、庭には2面のテニスコート、そして何部屋あるかわからない洋館のような大きな建物。
総勢10名。
それぞれに個室を割り当てても、それでも部屋は余っているというのは普通じゃありえないだろ。
毎度のことながら、一般家庭の平均所得を無視している。
車窓から見えていたペンションでさえ、これほど大きくなかったぞ。
これが個人所有だというのだから、世の中何か間違ってる。
玄関をくぐると目の前に広がるエントランス。そこには、一見しただけで高価とわかる壺や絵画が飾られている。
天井に輝くシャンデリア。無駄に多い美術品。
さながら欧州の城のように。

ここで1週間、合宿をする。

………。
正直、帰りたい。



「各自部屋に荷物を置いたら、着替えてコートに集合な」

跡部の言葉に従うように、ぞろぞろと移動する。
が提案し、跡部が了承したとなれば、それはすでに決定事項だ。
俺らの意見などないに等しい。
もっとも休日すら返上してテニス三昧な俺達なのだから、反対するつもりもないのだが。

「学校サボってテニスできるなんて、最高じゃんっ」
「毎日合宿でもいいC〜」

どういう手回しをしたのか学校は公休扱いになっているようで、出席日数の心配をすることはない。
勿論後日補習が待っているのだが、岳人やジローはそのことをすっかり忘れているようだ。
呑気に浮かれまくってる岳人とジローを尻目に、割り振られた部屋の扉を開ける。

「あれ?」

隣の部屋の扉を開けた長太郎が、不思議そうに首をひねる。
それも無理はない。
入口こそ別になっているものの、室内はツインになっていたのだ。
一歩室内に踏み入れてお互い顔を見合わせ、廊下にいる跡部に視線を移す。
いくつもの視線を受けて、跡部はにやりと笑った。

「個室だと寝過ごす奴がいるかもしれないんでな」

確かに岳人とかジローとかは寝過ごす危険がかなり高い。
だが、今まで何度合宿しても誰かと同室ということはなかった。
別に文句があるわけじゃないが、疑問を抱いたのも事実だ。

「それに、寝過ごすとお前らが困ることになるんだぜ」
「どういうことだ?」

何かを含んだ笑みに嫌な予感がする。

「それは、今回の合宿で様々なことにペナルティを課すからだよ。当然寝坊もね」

答えたのは跡部ではなかった。

かちゃり、と音がして突き当たりの部屋の扉が開かれた。

「あ…」

洩れた声は誰のだったか。
均整の取れた身体。長い手足。
光を受けて鮮やかに輝く短い銀の髪。
そして、精悍な顔つき。
ゆっくりと俺達へと歩みよってきた彼は、によく似た、だがよりも包容力のある笑みを浮かべた。
思わず見とれてしまう笑顔は、やはり血筋なのだろうか。

「やあ、久しぶり」

ウィリアム・E・ウィンチェスター。
ATPランキング2位。
の従兄で、世界でも屈指のプロテニスプレイヤーが、そこにいた。


  • 05.10.19