「回転」
「カウンターや」
部室に戻ったら、岳人と忍足が何やら言い争いをしていた。
「何だ、あれ」
「とてもくだらないことだよ」
俺の問いに、滝が苦笑を浮かべて答えた。
「最初は練習後に何を食べるか話してたんだ。そうしたら何故か寿司の話になって、回転寿司と普通の寿司屋のどっちがいいかって話になって、この通りというわけ」
「なるほどね…」
「回転寿司の方が断然いいよ。沢山ある中から好きなの選べるしね」
「あんなのは邪道や。いつまでも回っとる寿司なんて、鮮度が落ちるやろ。寿司は新鮮さが命や」
「いいんだよ。それにデザートも食べられるし安いし、一石二鳥なんだから」
「寿司食いに行って何でプリン食いたいのか理解できひんな。第一いくら安くてもまずいもんには金は払いとうないわ」
「くそくそ侑士ー!!」
どうやらずいぶん前から始められていただろうそのバトルは、収まる気配を見せなかった。
むしろ悪化しているような気がする。
……激ダサ。
ふと、岳人が俺を見た。
「なあなあ、宍戸はどっちがいい?」
「あぁ!?」
「回転寿司だよな」
「カウンターに決まってる」
ずいっと2人して俺ににじり寄ってくる。
まさか自分に矛先が向くとは思わなかった。
滝に助けを求めて視線を送ると、我関せずという感じでテニス雑誌をめくっている。
くそっ、薄情なやつめ。
「別にどっちでもいいんじゃ……」
「駄目!」
「よくないんや!」
……そうかよ。それなら答えは決まってる。
「カウンターだな。目の前でネタを選んで握ってもらう方がいい」
どちらかと言えばだけど。
というか、俺も忍足と同じで、寿司とケーキもしくはプリンを一緒に食べているのを見るのはあまり好きじゃない。
「ほら、やっぱり寿司は量より質なんや」
「くそくそー!」
「俺、回転寿司の方がE〜」
先程までソファで寝ていたジローがむっくりと起きて、更なる波紋を広げそうな一言を発した。
岳人の顔が一気に明るくなった。
「おぉ!そうだよな。やっぱ回転寿司だよな!」
「うん。エビマヨとか照り焼きとかあるC〜。あれ好き〜」
「そんなのは寿司やあらへん!」
気がつけば低レベルな寿司バトルはさらに白熱していき、当分収拾はつきそうにない。
「何の騒ぎだ?」
「随分にぎやかだね」
そんな中に姿を現した2人は、事態を収拾するきっかけになるのか。それとも更なる騒動の引き金を引くのか。
…多分後者だろう。
「あ、跡部とは回転寿司とカウンター、どっちが好き?」
ジローの問いに、2人が理由がわからないというような顔をした。
「回転寿司だよね」
「跡部とがそないな所に行くはずがあらへん。カウンターに決まってる」
「そんなん、訊いてみなけりゃわからないじゃん!」
「わかりきってるやろ」
そんな2人を尻目に、跡部は不機嫌そうに俺を見た。
「説明しろ」
……命令かよ。
「…なるほどな」
俺の説明を聞いて、跡部は頷いた。
「で、どっち?」
「回転寿司は寿司じゃねえ」
きっぱりと言い放った。
相変わらずきつい言い方だな。
「くそくそ跡べー!は?はどっちが好き?」
すがるような目でを見つめる。
岳人の気持ちもわからないでもないが、相手が悪いと思うぞ。
何しろ相手はだ。ある意味跡部よりも一般市民の生活とはほど遠いレベルにいるが、回転寿司の存在自体を知っているとは思えない。
ファミレスやコンビニも知らなかったしな。
「その前に訊きたいことがあるんだけど……」
「なに?」
「回転寿司って、何?」
「……」
の問いに岳人が固まった。
それを見て忍足がにやりと笑う。
「ほらな。やっぱりもカウンター派なんや。そうやろ?」
「カウンター?」
不思議そうに首を傾げるその様子に、忍足が怪訝そうな顔をした。
「…、寿司、好きやったよな」
「うん」
「どこに食べに行っとるん?」
忍足の問いに、がにっこりと笑った。
「何言ってるの。お寿司は職人が家に握りに来てくれるものじゃないか」
「………」
「違うの?」
…訊いた俺たちが馬鹿だった。
これだから金持ちは。
- 04.05.24