テニス部に入部して、1ヶ月が経過した。
日本の学校って結構上下関係が厳しいって聞いてたけど、どうやら氷帝学園はそれほどでもないみたい。
監督の主義だかテニス部の主義だか忘れたけど、、実力があれば1年生でもレギュラーになれるんだって。
じゃあ景吾はレギュラーだねって言ったら、『お前もだろうが』と言われた。
う〜ん、どうだろう。
多分弱くはないと思うんだけど、ほら日本の中学生の実力がどの程度か知らないし。
だって日本に来てから試合したことあるの景吾だけだし。
景吾が上手なのはわかるけど、他の子まではね。
素振りとか見てると経験者と未経験者はすぐ分かる。
だからって試合してるとこ見たわけじゃないから誰がどのくらい強いとか、もちろんわからない。
僕より強い人がいてもおかしくないよね。
そう言ったら景吾に頭を小突かれた。。
痛い……。
「俺様からサービスエース取れるやつが何言ってんだ」
う……ごめんなさい。
「それよりも景吾、ちゃんとしなよ。先輩たち何も言わないからって、サボっちゃ駄目だよ」
「あーん?俺様のところにボールが来ねえから拾いようがないだろ」
「怒られてもしらないよ」
そんなことを話してたら、1年生は全員集合って声がかかった。
何だろうと思いつつ部長の方へ行くと、これから1年生同士で簡単な試合を行うから2人1組になるように言われた。
試合といっても新入部員の数が多いから1球勝負なんだって。
つまり、ラリーをやってミスした方の負け。
今年の新入部員は100人以上いる。
そのほとんどは初心者なので、普通の試合をしようとしても当然試合にならない。
だから打ち合いをさせて個人の実力を見るんだって。
なるほど。
えっと、好きな人と組んでいいんだよね。
僕がちらりと景吾を見ると、景吾がにやりと笑った。
あ、楽しそう。
「、組もうぜ」
「うん」
僕が頷くと周囲が騒がしくなった。
え?何?
何かあったの?
「何で騒いでるんだろ?」
「気にすんな」
それもそうだね。
順番は特に決まってなくてやりたい人からどんどん進めていくみたいだ。
コートは3面使用しているけど、これだけの人数がいたら時間かかるんだろうなぁ。
今日中に終わるのかな?
なんて思ってたんだけど、ほとんどの人が大したラリーもできずに終わっていた。
中には何人か上手な人がいるんだけど、相手がボールを返せなくて終わってしまっていた。
あの眼鏡の人なんてサーブしかしてないよ。
綺麗なフォームだったから試合するとこ見たかったのに。残念。
「待ってるのって退屈だろ」
「そうでもないよ。色んなタイプの人がいて結構面白い。あ、見て。亮の番だ」
相手は経験者みたい。
コートで構える姿が慣れている感じだ。
大丈夫かな?
「あいつなら心配いらねえよ」
景吾がそう言った通り、僕の心配は取り越し苦労だった。
だって、ボールがコートに跳ね返った瞬間に、亮はライジングであっさりと打ち返して終わり。
相手の人はボールの軌跡を見て呆然としている。
そんなに早くリターンが来ると思わなかったらしくて、まったく構えもしていなかった。
「上手いね、亮」
「奴の得意技だからな」
うん、凄かった。先輩たちもびっくりしてるし。
今度勝負してもらおうかな。
「見てるだけじゃつまんねえな。そろそろやるか」
「そうだね」
「」
「何?」
「本気出せよ?」
「うん」
と跡部がペアを組んだとき、その場にいた皆が驚いた。
何故ならあの跡部が誘ったからだ。
跡部のテニスの腕は有名で、そのへんの中学生じゃ正直歯が立たない。
いつだったか氷帝の正レギュラーの1人と試合して6−1で圧勝したことがあるくらいだ。
非公式だからあまり知られてねえが。
ましてや相手は。
細くて小さくて、こいつ本当にテニスできるのかと思うような奴が、あの跡部と打ち合うなんて無謀だ。
ましてや今回は実力を見るためのもの。
ここであっさり負けたら、最低1年間は球拾い確実なんだぞ?
もう少し弱そうな奴を選べよまったく。
そして跡部との番になった。
心配する俺の横を、が笑顔で通り過ぎる。
相変わらずの笑顔だ。
すれ違いざまに「おめでとう」って言われた。
あのくらい勝って当然なんだよ。
俺のことより自分の心配をしろ。
「サーブどうする?」
「あーん?お前が打てよ」
「じゃ、いくよ?」
いつもと変わらない口調でが言って、ラケットを振り下ろした。
……ウソだろ?
なんなんだ、あの2人は。
ラリーが始まって10分。
それまでの試合が1分程度で終わっている中で、それは明らかに長かった。
しかもボールのスピード、半端じゃなく速いし……。
2人とも笑顔で打ち合っているってことは、まだ余裕があるってことなのか?
あ、先輩たち固まってる。
無理もないよな。跡部以外にこんなラリーできるやつがいるとは思ってなかっただろうし。
まあ俺も同じだけど。
跡部が上手いのは知ってるけど、がここまでできるとは正直思ってなかった。
でも、はかなり長いことテニスをしているはずだ。
基本に忠実なプレイスタイルがそれを証明している。
ストロークのフォームもまるで教科書に載っているように一切の無駄がない。
フォームにクセがないんだ。全くといっていいほど。
こんなに綺麗なフォームは1日や2日でできるものではない。
そして試合慣れもしているようだ。
前後左右に打ち分けて跡部を走らせている。
しかも全部際どいところを狙ってるし。
気がつけば他のコートの奴らも皆2人のラリーを見守っていた。
凄すぎだよお前ら。
「そこまで!」
部長のその声で、長かったラリーは終了した。
……こいつら、息もきれてねえ。
なんつースタミナしてるんだよ。
部長は跡部とを交互に見て、奥のコートを指差した。
「2人とも準レギュラー決定だ。隣のコートで練習に参加しろ」
部長がそう言うと、の顔が輝いた。
う……わ、極上の笑顔だよ。
の笑顔を直視してしまった奴らは顔を真っ赤にして固まってしまっていた。
もちろん部長も例外ではない。
これまで部活での笑顔なんてあまり見られなかったから、免疫ができてなかったのだろう。
ある意味犯罪だよなの笑顔は。
の『天使の微笑』は見ると幸せな気分になれるけど、『極上の笑顔』ははっきり言って心臓に悪い。
いや、『天使の微笑』も毎回必ず見惚れてしまうんだけど、『極上の笑顔』はあまりにも凄すぎて、幸せを通り過ぎて崇拝の域に達してしまうらしい。
何ていうか……こう、『のためなら命もかけます!』という信者が出来てしまっているくらいに危険なものだ。
……あいつ、男に生まれてきたの間違いじゃないのか?
は笑顔のまま、部長へ頭を下げた。
「ありがとうございます!」
そして跡部に抱きつくと、そのまま隣のコートへ走っていった。
先輩たちの異常に気付くこともなく……。
あいつらが準レギュラーか。
俺も負けてられねえよ。
とっとと追いつかねえとな。
……それより、こいつらどうしよう?
- 04.12.11