玄関を上げた途端視界に入ってくる可愛らしいサイズのスニーカーに思わず眉が下がる。
黄瀬家の家族構成は両親と姉2人。黄瀬より年上の姉には小さいそれは、隣に住む年下の少女のものに間違いないだろう。
玄関に靴は一足だけ。今日は両親は仕事で遅くなると言っていたし姉2人はおそらくデートだろう。家人が誰もいないというのに隣家の住人がいるというのは普通ならおかしいのだろうが黄瀬家では珍しくない。気にせず階段を上り部屋の扉を開けるとそこにいたのは黄瀬が想像した通り、幼馴染の女の子――黒子テツナがいた。ベッドの上に寝転がり先日買ってきたばかりのバスケット雑誌を読んでいる。
まるで自分が部屋の主かのように寛いでいるのはいつものことだが、どうしても見過ごせない現実がそこにあった。
「うわああぁぁぁ!! 何やってんのテツナっち!?」
「おかえりなさい、涼太くん」
黄瀬の絶叫を全く気にせずテツナは帰宅した部屋の主にそう挨拶した。
「何でそんなに驚くんですか。僕が君の部屋にいることなんて別に珍しくないでしょうが」
「部屋にいるのはいいんスよ! いや! 良くないけど!! 言ったところで止めてくれないんだからそれはもういいんだけど!! 服!! 何で俺の着てるんスか!?」
テツナが着ているのは、黄瀬の記憶が間違っていなければ黄瀬の部屋着だ。それも今朝まで着ていたものである。
190cm近い黄瀬の私服を150cm程しかないテツナが着るには明らかにサイズが合っていない。袖は指先が出ないくらい余っているし襟は大きく開いて肩までずり下がっている。おそらく下に短パンくらいは履いているのだろうが完全に隠れて見えない状態なので、一見すると裸にスウェット一枚という姿にしか見えない。
黄瀬よりも年下のテツナは現在14歳。普段は子供にしか見えなくても二次性徴が始まっている身体は細いながらも女性らしい丸みを帯びてきているのだ。普段から多くの女性に囲まれている黄瀬とて成人を迎えたと言っても20歳の青年である。目の前に男のロマン漂う恰好した美少女がいれば動揺するのも当然だ。
「ちょっと寒かったので借りました」
「男が脱いだものを気軽に着るなって言ってるよね?! 何でそう無防備なのアンタ!」
「涼太くん煩いです。おばさんが着てなさいって貸してくれたんだからいいじゃないですか」
「母ちゃん自重して……」
テツナの口から母の名が出て黄瀬は床に崩れ落ちた。黄瀬の母は「お隣のお嬢さん」であるテツナをいたく気に入っている。自分にも二人の娘がいるのにも関わらず「こんな可愛いお嬢さん、娘に欲しいわ」とか言っているのである。どうやら自分が産んだ二人の娘とは比べものにならない素直さとか小動物感とかが堪らないらしい。ちなみに実の母にdisられた娘二人だが、こちらもテツナを妹のように可愛がっているので家庭内がギクシャクしたりという問題はない。黄瀬家の人間は総じて小さくて愛らしいものが大好きなのだ。
今回も「あらあテッちゃん、まだ涼しいのにそんな薄着してちゃ身体に毒よ。女の子は身体を冷やしたら駄目なんですからね。丁度良いから涼太の服でも着てなさいよ。無駄に良いものばかり買ってるから着心地は良いはずよ」とか言ってベッドに置いてある部屋着を貸しただろうことは想像に難くない。それは別にいい。だができれば洗濯済のものを貸してほしかった。朝まで着ていた服を貸さないでほしかった。
テツナは床に蹲ってぶつぶつと呟く黄瀬の姿に首を傾げつつ、ベッドから半身を起こすと袖口を顔に近づける。黄瀬家が愛用している柔軟剤と、微かにだが服に移った黄瀬の匂いが鼻腔をくすぐる。
「だってこれ、涼太くんの匂いがするから安心するんです」
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ」
ガツン、と黄瀬は壁に頭を打ち付けた。テツナは時々というか頻繁に天然タラシのようなセリフを吐く。それは黄瀬の中にある何かを正確に撃ち抜くのだ。主に倫理観とか自制心とか抑制力とかである。もう勘弁してほしい。
テツナはベッドから降りると床で撃沈している黄瀬の前に座り込む。膝を抱える体勢にあらぬところが見えそうになる。否、多分見ようと思えば見える。それこそ上からは胸の谷間だとか下からは太腿だとか。白くほっそりしつつも瑞々しい弾力のあるそれが視界に入りまたもや頭に血が上る。
狙ってやっているのだろうかと思うが、テツナと黄瀬の付き合いは13年以上。つまりテツナが赤子の時からの付き合いなので無意識なのだろうと脳内で結論を出す。
「涼太くん、ボク、お腹すきました」
袖をちょこんと掴んだまま小首を傾げて上目遣い。ガツンと側頭部をハンマーで殴られたような衝撃が黄瀬を襲う。物理的にではなく心理的に。彼シャツ(シャツではないが)状態の美少女の上目遣いは最強だなどと現実逃避ができたのはほんの僅かな間だけだった。続いて発せられた言葉は黄瀬の呼吸を確実に止めた。
「涼太くんの作った美味しいゴハン、ボクにちょうだい?」
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!」
その言い回しを教えたのは誰だと小一時間説教をしたいところだが、今口を開けば何を口走ってしまうかわからないので必死で言葉を飲み込んだ。
テツナは男友達が多い。その影響なのか時々とんでもないことを口走って黄瀬を驚かせるが、今回のように卑猥さを伴うものはなかったはずだ。教えたのは青峰か灰崎か、おそらくそのどちらかだろう。今度会ったら絶対殴る。
テツナは言葉の意味をわかっていないに違いない。おのれ俺の天使に余計な知識を教えやがってと以前に会ったことのある生意気そうな二人の男子中学生の顔を思い浮かべて心の中で罵った。
とりあえずテツナには他の男にだけは言わないように釘を刺さなければと心に決めて深呼吸を数回。ようやく落ち着いたのでテツナに視線を移す。
「……おばさんは?」
「お父さんのところです。ちなみにおばあさんは町内会の慰安旅行で明日まで帰ってきませんお腹すきました」
「わかった。何が食べたい?」
「ポトフが食べたいです」
「りょーかい。着替えるからリビングで待ってて。後、服返して」
「はい」
大人しく部屋から出て行ったテツナが階段を下りる音を聞きながら黄瀬はようやく床から起き上がった。テツナの家は両親と祖母、そしてテツナの四人暮らしだ。仲の良い家族だが昨年から父親が単身赴任で家を出ており、母親はそんな父親の下に週に二度出かけている。祖母は元気だがここ最近は旅行に出かけることが多く一年の半分近くは家にいない。
そのためテツナは家に誰もいない時は黄瀬家で過ごすことが多い。自他共に認める世話好きの黄瀬家の女性が年端もいかない女の子を一人で寂しく過ごさせるわけがないのだ。黄瀬もそれに反対はない。問題は、黄瀬家に男一人しかいない状態であってもテツナが入り浸っていることだ。家に来るのは構わないのだが黄瀬の部屋に入り浸るのは勘弁してほしい。思春期的な意味で。
「本当、マジ小悪魔っスわ…」
去り際に脱ぎ捨てたスウェットはテツナの香りがした。
◇◆◇ ◇◆◇
黄瀬涼太には幼馴染がいる。
とはいえ年齢差は6歳と結構離れているのだが。
幼馴染の名前は黒子テツナ。
お隣の黒子家に生まれた可愛い可愛い一人娘のお姫様である。
生まれたばかりのテツナを初めて見た時、その小ささと愛らしさに驚いた。
水色の髪と白い肌の赤ん坊はまるで雪の精のように見えたのだ。
「お隣さん同士、仲良くしてくれると嬉しいわ」
そんなテツナの母の言葉を忠実に守ったのか、黄瀬家の末っ子だった黄瀬はお隣の女の子テツナをそれはもう可愛がった。それこそ本当の妹のように。
家族から「溺愛」だの「猫可愛がり」だの言われる程度にはテツナを可愛がり、どこに行くにも何をするにも一緒だった。6歳の年の差や男女の違いなど関係ない。テツナは黄瀬に懐いていたし黄瀬もテツナを可愛がっていたのだから構わないのだ。
それは黄瀬が中学生になっても高校生になっても変わらなかった。友人達に彼女ができるようになっても黄瀬は相変わらずバスケかテツナにしか関心がなく、休日のほとんどはテツナと一緒にいた。それは確かに家族としての親愛だったのだが、年月を経てゆっくりと変化を始めた今では何よりも大切な女の子として黄瀬の心を占めている。
「どうしよう……」
テーブルに突っ伏して黄瀬が小さく呟いた。ランチタイムの学食はかなりの混雑で周囲からは活気に満ちた声が響いているため黄瀬の呟きは幸いにも他の人には聞こえなかった。唯一聞こえたのは目の前に座ってラーメン5人前というチャレンジメニューを食している友人の火神と、一足先にランチを終えて珈琲を飲んでいる友人の氷室だけだろう。
「何がだよ」
「このままだとテツナっち襲いそうで怖い」
「ブッフォ!!」
「うわっ、きったな」
「てめえのせいだよ!!」
火神は真っ赤な顔で咽ながら怒鳴っている。麺が器官に入ってしまったらしい。苦しそうなので仕方なく背中をさすってあげるが火神の恨みがましい目は変わらない。確かに問題発言した自覚はあるのだけど。
「というか遠慮なく頂いちゃえばいいのに」
氷室がさらりと吐いた一言で火神が更に咳き込んだ。見た目肉食男子な火神は外見に反して中身は乙男なのだ。中二までアメリカで暮らしていたとは思えない純情ぶりである。幼少期を一緒に過ごした氷室に染まらなくて良かったと言えば良いのか、成人なのだからもう少ししっかりしろよと言えば良いのか悩むところだ。
「タツヤ…」
「だって両想いなんだろう。年頃の女の子が家族のいない男の部屋で男の服を纏ってベッドにいるって、むしろ手を出さない方が失礼だよ。14歳なら特に問題ないじゃないか。アメリカじゃ初体験済ませてもおかしくない年だよ」
「ここは日本っス」
20歳の大学生と14歳の中学生という組み合わせはどこにでもいるようなものではない。年齢差は6歳とは言っても成人したそれと学生とでは受ける印象は違う。一緒にいて許される関係と言えば家族くらいだろう。恋愛関係なんてどちらにとっても不利益しかもたらさない。自分はともかくテツナに変な噂がついてしまっては遅いのだ。
だというのにテツナは黄瀬の気持ちを知らずにあの手この手でアプローチしてくる。本気でもう喰ってやろうかと思ったのは一度や二度ではない。特に彼シャツ。あれはいけない。思わずルパンダイブしそうになるのを止めるのが大変だった。
「テツナっちが可愛すぎて生きるのがつらい」
「熱烈だね」
黄瀬とテツナの関係が変わったのは1年前。二家族合同の家族旅行でのテツナからの公開告白だった。テツナの男らしさと黄瀬の愛らしさが際立った告白だったと家族は今でもあの日のことをネタにするが、黄瀬自身もそんなテツナにときめいてうっかり頷いてしまったので何も言えない。勿論成り行きではなく実際にテツナを異性として可愛いと思っているし、これから先も彼女を手放すつもりはないのだけれど。
そんな告白から始まった関係だからと言えば良いのか、二人の関係はいつでもテツナが押して黄瀬が引くという状況だ。その都度家族から「ヘタレ」「ここで押してこそ男だろうが」と言われているが、考えてみてもらいたい。中学生の女の子――それも二次性徴途中の未成熟の相手に対して成人済の平均よりも体格の良い黄瀬が何やら致してしまって良いのかということを。
テツナは中学生女子として平均的な体格とは言え黄瀬に比べたら遥かに小柄だ。30cm以上の体格差は大きい。抱き潰すなんて可愛いものでは済まないだろう。最悪壊れる。「やぁん、壊れちゃう…っ」とかベッドで言われるのは男として堪らないが、本当に壊れてしまっては困る。本気で困る。
テツナが良いと言っても、家族に何と言われようとも、黄瀬が踏み切れないのはそれが理由だ。
とはいえ黄瀬は聖人ではない。愛しい相手が誘惑してくるのをいつまでも耐えられる自信はない。
ついうっかりペロリと美味しく頂いてしまわないように必死で欲望を押さえ付けているというのに、テツナはそんなこと全く気付かずにあの手この手で黄瀬を翻弄する。黄瀬の理性が崩壊するのは時間の問題かもしれない。
「あー、早くテツナっち高校卒業しないかな」
あと四年。せめて二年。テツナが16歳になれば何か起きたとしても責任を取ることができる。だが14歳に手を出したら犯罪だ。流石にロリコンのレッテルは貼られたくない。16歳でも条例に引っかかるけれど結婚前提と言えば許されるだろう。
あと二年。それまで黄瀬がテツナのアプローチを耐えられるかどうか、それは非常に微妙なところだった。
そんな黄瀬の理性と忍耐がブチ切れるのはそれから三日後のことだった。
◇◆◇ ◇◆◇
「あれ?」
午後の講義が休講になり火神と氷室と三人でストリートバスケに向かう途中のことだった。
氷室が何かに気が付いたように声を上げた。視線は少し離れた人だまりに向いている。新しくオープンしたというアイスクリームショップだ。テツナが興味深そうにニュースを見ていたので今度連れてこようと思っていた店だったので覚えている。長蛇の列を作っている客のほとんどが若い女性だ。列から少し離れた場所で目を引く長身があるのに気が付いた。後ろ姿で男性と分かる二人組は制服から中学生だということがわかる。黄瀬と大して身長の変わらない男子中学生が上機嫌でアイスを食べている姿はどことなく微笑ましい。氷室が見ているのもそういう理由なのだろうと思いき
や、「黒子さんだ」と小さく呟いた。
「テツナっち? どこに?」
「ああ、そこからだとあの男の子達の影になって見えないか。彼らの前にいるんだよ、黒子さん」
「は?」
手招きされたので少し移動してみると確かに彼らの胸付近に見慣れた空色の髪の毛が見えた。影が薄い上に色素も薄いためテツナは認識され辛い。特に周囲に目立つ人がいればそれだけで姿を見失ってしまう。氷室が気づいたのは本当に偶然だ。少年が「黒子」と呼ぶ声が聞こえたのだ。
列を並んで購入したのかそれぞれの手にはアイスクリーム。男らしく豪快に食べ進める少年達のアイスはほとんど食べ終わっているようで、椅子に座ってちまちまと食べているテツナ待ちのようだった。テツナは食も細いが食べる速度も遅い。ゆっくりと味わうようにアイスを食べる姿は無邪気そのものだがアイスをチロチロと舐める姿は何となくエロい。公衆の面前であらぬ妄想をしてしまう程度には欲求不満だと自覚している黄瀬は、食い入るようにテツナを見つめていた。
あまりにも食べるのが遅いテツナを見かねたのか、一人の少年がテツナのアイスを横から頬張った。ごっそりなくなったアイスにテツナが不満そうな顔をする。少年に気を取られている隙にもう一人の少年が残りのアイスを奪いあっという間に食べてしまう。テツナの怒る声がここまで聞こえてきそうだ。だがこれが日常なのかテツナは少年達に何か言って諦めたように椅子から立ち上がった。一人の少年がテツナの肩を抱き、もう一人がテツナの空色の髪を撫でる。同年代のじゃれ合いは微笑ましいのか周囲の女性達の眼差しも優しい。やがて二人に引かれるままテツナの姿は雑踏に消えていった。
恋愛感情がないのは見ていてもわかる。仲の良い友人だと聞いている。学校帰りに友達と買い食いするのは珍しいことではない。黄瀬とて学校帰りに友人と遊んでいるのだから。
(テツナっちの笑顔……)
無邪気な笑顔も拗ねる顔も黄瀬にとっては見慣れたものだ。だがそれは自分以外の誰もが知っている。滅多に見せない甘えた姿だって黄瀬家の家族は全員が知っているものだ。特別なものではない。そう、こんな衆人環視の前で気軽に見せられるものに過ぎない。
(俺だけしか知らないテツナの顔……)
それが欲しい。他の誰にも見せない、恋人だから見ることができるテツナの特別な表情が見たい。
無性に喉が渇いて黄瀬は唾を嚥下した。つい先ほどまで感じなかった飢餓感が黄瀬を苛んでいる。
欲しているのは水ではない。
「怖いね」
声に気付いて視線を向ければ穏やかな笑みを浮かべつつどことなく困ったような氷室がいた。
「今の君、鏡で見てみるといいよ。――まるで飢えた獣だ」
そうだね。そう答えた声は酷く掠れていた。
◇◆◇ ◇◆◇
閉め切った室内に荒い吐息が響く。夜もまだ早い時間だというのにカーテンはぴたりと閉ざされている。同じく閉ざされた扉には普段決して使われることのない鍵がかけられていて八畳の空間は完全に外界との接触を遮断されていた。
この部屋に入ってからどれだけの時間が経過したかテツナにはわからない。おそらくそれほど長い時間は経っていないのだろうがとても長い時間が経過しているようにテツナには感じられた。
「ひっ、ん…っ、やあっ」
ベッドの上、中途半端に衣服を肌蹴られた状態でテツナは甘い声を上げる。いつものように訪れた黄瀬家。いつもと同じように招き入れられた黄瀬の部屋で、いつもとは違う行為にテツナの身体は翻弄されていた。
「ひっ、やぁっ」
タンクトップはブラジャーごと胸の上にたくし上げられ、黄瀬は先程から露わになったテツナの胸を弄んでいる。柔らかな感触を堪能するように手で揉みしだき、ぷくりとふくらんだ淡い頂を口に含む。舌で先端を刺激し時折甘噛みする。初めての感覚にテツナの身体は水揚げされた魚のように大きく跳ねるが肩を押さえることでそれを制して執拗に愛撫を続けた。
「りょ、たくん…、待っ!!」
じくじくと身体の中に燻るように沈殿していく快楽にテツナがもどかしさを耐えるように太腿を擦り合わせた。下腹部を撫でていた手を秘所に忍ばせれば下着越しに濡れた感触がした。
口元だけで笑みを作りそこを爪で軽く引っ掻きながら先端を強く吸い上げた。途端にか細い悲鳴を上げてテツナの身体が数度痙攣した。
「イっちゃった?」
「あ…あぁ…」
荒い息を繰り返してぼんやりと空を見つめるテツナの唇に触れるだけの口づけを落とす。ゆっくりと焦点が黄瀬に結ばれていく様を眺めていると、ようやく我に返ったテツナが黄瀬の下から逃れようともがいた。勿論逃がすわけなどない。
「何で逃げるの? 俺のものになるって言ったのは嘘?」
「う、そじゃありません。でも…っ」
今までの優しくてどこかヘタレな黄瀬の姿しか知らないテツナには黄瀬が別人のように見えるのかもしれない。瞳には明らかな怯えが浮かんでいた。尤もそれが黄瀬自身に対するものなのか、それとも未知の快楽に対するものなのかはテツナ自身もわかっていないだろう。
再びベッドに沈んだテツナの頬を撫でて額に口づけを落とせばそれはすぐに消え失せる。甘えるように手の平にすり寄ってくるテツナの唇を己の唇で塞ぐ。今度は抵抗しなかった。舌先で口を開くように催促すればおずおずと唇が開く。ゆっくりと舌を絡めて吐息を分け合うようなキスを繰り返した。
「テツナっちが好きだよ。俺のお嫁さんになるって言ってくれたよね」
「は、い…」
うっとりと瞳を潤わせてテツナは頷いた。
「だから、いいよね」
再度頷く姿に黄瀬がニヤリと笑う。
この可愛くて無知な少女はこれから自分だけの女になるのだ。
最初こそ従順だったテツナだが二度、三度と絶頂に追いやられても愛撫の手が止まないという現状に泣きが入った。
そもそも最初に仕掛けたのはテツナが先だった。それはもう一年以上に及ぶ執拗な誘惑だったと言っても良い。両想いになったのだから触れたいし触れてもらいたい。そう思って幾度となく黄瀬に手を出されるように頑張ってみたのだが結果は全て不発。少し進展したのは黄瀬からキスをしてもらえるようになったことくらいだ。それも唇が触れ合うだけの可愛らしいもので、そのたびに自分には女性としての魅力がないのだろうかと落ち込んだりもしたが、大切にしたいからと言われてしまえばテツナは何も言えなかった。自分の身体が未成熟なのは自分が一番良く知っているのだ。
だがデートしている最中に妙齢の綺麗な女性が黄瀬に大して熱い視線を送っているのに気付いてしまえば心中は穏やかではいらなれかった。黄瀬の横に並んでも遜色のない美人。自分のように兄妹にしか見られないことは決してないだろう、正に美男美女のカップルだ。勿論黄瀬が自分以外の女性に興味を示すようなことはないのだけれど。そんな中でクラスメイトが初体験を済ませたという話を聞いたものだからテツナは焦っていたのかもしれない。身体を繋げるという行為がどういうものか、本当の意味でテツナは知らなかったのだ。
(こんな…っ、こんな恥ずかしいなんて…)
黄瀬の裸は見慣れていたはずだった。一緒に風呂に入ったこともあったというのにベッドの中で仰ぎ見る姿がこんなにも色っぽいとは。汗で乱れた髪をかきあげる姿に目を奪われる。欲に塗れた視線が己を捕えるたびに繋がった箇所がずくんと疼いた。つらそうに顰められた形の良い眉、うっすらと開いた唇から漏れる吐息。何よりも二人の身体を繋いでいる箇所の熱さは言葉にすることができない。
「やっ、もう…無理ぃ」
ポロポロと涙を流しながらシーツを掴んで快楽に耐えているテツナの姿は通常ならば憐憫を誘っただろう。だが今は別だ。そんな健気な姿すら男を誘う仕草にしか見えない。
「テツナ…」
「あうっ!」
ガツンと奥を抉られて目の奥がチカチカと点滅する。破瓜の痛みは既に消えた。身が二つに裂かれたしまうかと思う程の痛みと衝撃だったのに、気が付けばそこはきゅうきゅうと黄瀬を締め上げて悦楽を感じている。息ができない程苦しいけれど、それが信じられないくらい気持ち良い。黄瀬のものにされたという事実がテツナに至福を与えてくれる。
「りょ、たくん…。涼太、くんっ」
溢れてきた涙を拭うことも忘れてテツナは黄瀬に縋りついた。密着したテツナの胸が黄瀬の胸板に擦れて新たな快感を生む。黄瀬が腰を動かすたびに結合部から厭らしい水音が響く。抜いて突いて捏ねて穿って。限界まで開かれたテツナの秘所が黄瀬に蹂躙されることを悦んでいる。
「あっ、またくるっ、やだ、きちゃうっ」
「いいよ、イって」
「や、ああぁぁぁぁ」
先端を子宮口に押し当てたまま腰を揺すればテツナはあっさりと絶頂を迎えた。前戯の段階で時間をかけて内部を愛撫したのが良かったのだろう。無垢な身体は黄瀬から与えられる快楽を素直に甘受し想う通りの反応を見せて黄瀬を喜ばせた。
ようやく黄瀬を受け入れられるようになった頃にはテツナの身体はすっかり快感に蕩けきっていた。それでも痛みは強かったようだが処女なのだからそれは仕方ない。受け入れてしまえばテツナの身体が黄瀬に馴染むのは早かった。
小柄な身体はやはり黄瀬の怒張を全て受け入れることはできなかったが、そのうち全て収められるようになるだろう。要は慣れだ。一途で健気なテツナのことだ。そう遠くない日のうちに叶うだろうと信じている。勿論協力は惜しまない。
テツナの呼吸が落ち着いたのを見計らって再度抽挿を開始する。初体験の疲労から微睡み始めていたテツナが驚いたように黄瀬を見上げる。もう止めてほしいと顔に書いてあるが敢えて気付かないふりをして腰を動かした。
絶頂を迎えた身体に更なる快感を与えられてテツナが苦しそうに喘いだ。だがテツナの身体は黄瀬に従順で、すぐに蕩けて甘い声を漏らし始める。
「あっ、やだ、奥までっ」
「うん、奥まで届くね。気持ち良いでしょう」
体位を座位に変えれば先程よりも挿入が深くなってテツナが呻いた。コツコツと子宮口をノックすれば身悶えたせいで目の前で細身のわりに大きな胸がプルンと揺れた。乳白色の肌が上気して桃のようだ。溢れる果汁は蕩けるように甘く、芳しい芳香は長寿の秘薬と呼ばれたのもう頷ける。残念なことに本来の桃には邪気を払う力があると言われているが、目の前のこの愛らしい桃は黄瀬の邪な欲望を増幅させる効能があるようだ。これは本人に責任をとってもらうしかない。
「りょ、たくん…っ、くるし、ふっ、う…んっ」
「遠慮するなって言ったのテツナっちっスよ」
「やぁっ、だって、涼太くんの、お、っきいの…ぉ」
「当たり前じゃん。俺、大人だよ」
入口から奥までゆっくりと抽挿を繰り返す。奥に当たると内部が痙攣したように黄瀬を締め付けるのが堪らない。限界まで広がったナカはただでさえきついのに更に蠢くような内部に気を抜くとすぐに果ててしまいそうだった。先端で奥を捏ねるように突き、胸の先端を指で摘まめば耐えられない快感にテツナの瞳から涙が溢れた。散々啄まれた唇は真っ赤に充血していて、お互いの唾液でぬらぬらと濡れている。
見た目だけなら汚れ一つ知らない純粋無垢な女の子だったテツナにこんな厭らしい一面があったとは驚きである。
着やせをするせいで制服に隠されていた身体は細いわりに発育が良く、形の良い胸は黄瀬の手に丁度良いサイズだ。おそらくCかD、成長期でこのサイズならもう少し成長するかもしれない。しかも触り心地は抜群だ。揉めば大きくなるという都市伝説が本当ならテツナの胸は更に大きくなるだろう。黄瀬の手によって。
黄瀬は自分が性に関しては淡白な方だと思っていた。幼い頃から女性に囲まれて育ったのが原因かもしれない。見知らぬ女性にいきなり声をかけられた回数は数知れず、電車内で女性に痴漢をされたことも一度や二度ではない。酷い時などは酔ったふりをして襲いかかってくる者もいた。勿論全て躱してきたけれど、そういう女性の被害を受けていたこともあって女性というものにあまり興味を抱かなかったのだ。例外はテツナだけ。
だからだろう、テツナを抱いた途端にそれまで感じたことのない飢えが黄瀬を襲った。
テツナに触れればその肌理細かい肌の虜となり、快楽に乱れる姿を見ればもっと見たいと本能が訴え、甘い嬌声を耳にすれば下腹部がずくりと熱を持った。
余すところなく喰らい尽くしても飢えは治まるどころかまだまだ足りないと全身が叫んでいた。
身体の隅々まで味わい、誰も知らない最奥まで踏み込めば、言葉に表現できない充実感がようやく黄瀬に訪れた。今までに一度として感じたことのない身体の隅々にまで染みわたるような快感だった。テツナの肉を穿ち、揺さぶり、内部の熱を堪能しながら欲望を吐き出せば眩暈がするほどに気持ち良かった。だがそれもまたすぐに餓えてしまった黄瀬は再度テツナの身体を組み敷いた。
幾度か体位を変え満足するまで貪ってようやく落ち着いたのは日付をとうに超えた午前六時。気が付けばテツナは気を失っていた。いつから意識がなかったのかは正直覚えていない。気絶しても構わず攻め立てていた記憶があるから何度か意識を飛ばしていただろう。もう無理、だめ、死んじゃう。そんな懇願を何度か聞いたような気がしたがそれは黄瀬を煽る媚薬にしかならなかった。愛情と嫉妬と征服欲。更にはそれまでの禁欲的な日々が重なってテツナにはかなり酷いことをしてしまった。かろうじて避妊を忘れなかったのは奇跡だった。それほどテツナの身体に溺れた。この無垢な身体を暴くのに薄い皮膜すら許せなかったのだが、流石に中学生を妊娠させることはできない。
いつかのためにと用意しておいた避妊具を使い切る程には頑張ってしまったがそれは許してもらいたい。テツナが可愛いのが悪い。
昏々と眠るテツナの隣に横になる。
背後から包み込むように抱きしめ、白く薄い腹をゆっくりと撫でた。この中に子種を注げなかったのは残念だが二年の辛抱だ。法的に許される年齢になれば誰に憚ることないのだから。
あと少し。もうちょっと。
だから。
「ずっと一緒にいようね」
お隣のお兄さんと女の子が家族になるまであと少し。
- 15.11.23