この話には18歳未満の方が閲覧になるには不適切な内容が書いてあります。
18歳未満の方やBLが苦手な方は閲覧をおやめください。
ご覧になった後での苦情は一切聞きませんのでご了承願います。
大丈夫な方はレッツスクロール。
百万都市と呼ばれる帝都。その中で異質を放っている一画がある。
悪鬼が現れるという鬼門の位置に作られたその場所は、通常の繁華街とは全く違う性質を持っていた。赤い大門によって外界から隔離され、住人以外の女性の特例を除いて立ち入りは禁止、出入りには厳つい警備兵による検閲が幾度も行われるそこは、帝都で唯一の花街であった。
豪華絢爛な建物の中には天女もかくやと言われる程の美女が集い、選ばれた男のみが一夜の甘い夢を見ることができる。そんな、男にとっては桃源郷のような世界である。
その中で最も有名なのが全てにおいて上級の遊女を集める『帝光苑』で、彼の店で一日に動く金は花街全ての売り上げの実に三割に及ぶと言われている。
花街にあって遊女が客を選ぶことのできる数少ない妓楼。その筆頭が帝光苑だった。通常の妓楼の十倍以上はするという金を工面できるのは帝都広しと言えど多くはない。況してや常連になる者はその中でもほんの一握り。遊びに身を窶して身代を崩すような中途半端な金持ちでは門前払いを喰らうという、帝都で最も敷居の高い店なのだ。尤もそれに見合うだけの最上級の遊女が揃っているのは誰もが認めるところである。
そんな帝光苑には通常の営業場所である本館とは別に特別室と呼ばれる別館がある。他の客と顔を合わせることのなく時を過ごすことができるそこは選ばれた客のみが使用できる場所で、現時点でその特別室を使うことができる人物は五人しかいない。
そのうちの一人は未だ姿を見せたことはないが、少なくとも他の四人は何度か使用したことがある。特にここ半年は週に三日は確実に誰かが使用している。
一泊するだけで帝都に一軒家を建てられると言われる帝光苑の特別室を年間チャージする勢いで予約を入れまくる彼らのお陰で、帝光苑の売り上げは右肩上がりである。従業員の給料も同じく右肩上がりなのだが正直あまり嬉しくはない。
何しろ彼らの接待は気を遣う。
怒らせたら簡単に首が飛ぶような相手なのだ。勿論これは比喩ではなく物理的にという意味である。
帝都でも有名な彼らは気難しいことでも有名なのだ。
過去に彼らの怒りに触れて潰れた妓楼や会社は片手の数では事足りない。
噂では政府高官ですら手を出せないやんごとなき血筋の方もいるらしく、いくら『帝都の治外法権』と呼ばれ花街で権勢を誇る帝光苑であろうとも、彼らの怒りを買った日には同じ轍を踏むことは間違いないのである。
お陰で接客には人一倍の気を遣う。
特別室は帝都でも選りすぐりの上質な調度品を集め、上品かつ繊細な空間作りを心掛けている。
接客する従業員もベテランを配し、ほんの少しの粗相も行わないように爪の先にまで気を付けているのだ。
幸いというか今のところ彼らの気分を害した様子は見られないが、決して油断はしてはいけない。
最大級の接待で彼らを特別室に案内して彼らが望む酒や肴を用意し、目当ての人物がやってくる頃を見計らって静かに部屋から退室する。音を立てずにひっそりと。
何度経験しても緊張が和らぐことはない。
それだけキセキの客というのは特異な存在なのだ。 だから、そんな彼らを前に態度を改めるでもなく恭しい態度を取るでもなく、むしろ頻繁に訪れてくる彼らにかなりぞんざいな態度を取っているテツヤには敬意を通り越して畏れすら抱いている。
気難しいキセキがテツヤの前では子犬も同然な懐きように初めて見た時には幻覚ではないかと己の目を疑ったものだ。幸い目には何の異常もなく、目の前では小柄なテツヤの膝に頭を乗せて甘えている金髪の青年がいたり、挨拶代わりにテツヤの尻を撫でて鳩尾に掌底を喰らっている陸軍大佐がいたり、季節の移り変わりで体調を崩し始めたテツヤの額に自分のそれを当てて熱を測る天才医者がいたり、お手製の新作菓子を手づから食べさせている大型妖精がいたりする。
中で何が行われているか知らないが、テツヤの態度から考えて不埒な真似はされていないだろうと推察できる。むしろテツヤは何かされそうになったら自分で鉄拳制裁しそうだし実際にしている。
すっかり帝光苑一の稼ぎ頭になったテツヤは、今日も特別室に籠っている。
「今日は紫原様か」
帝都では数が少ない洋菓子専門店のオーナーでありパティシエである彼は、テツヤと食の好みが似ているために試作品を手に数日テツヤを買うことは珍しくない。甘味に関してだけは舌の肥えたテツヤの意見が参考になるのだと言う。大きな箱を手にやってきた彼の目的はいつもと同じく新作の試食兼ティータイムだろう。紫原は一泊でテツヤを解放してくれるのでキセキの中では上得意客である。何しろどこかの金髪公家のように三日三晩テツヤを抱きしめたりするわけでもなく、どこかの青年将校のようにセクハラをするわけでもない。すっかり主治医となった緑間に次いで良い客である。食事が偏るのだけが唯一の難点か。
そんなことを思いながら従業員は別棟を後にした。
半時後、その部屋で何が起こるか知ることなく――。
◇◆◇ ◇◆◇
「んっ、ふ…ぁ」
己の唇を塞いでいたそれからあえかな吐息が漏れる。普段とはまるで違う甘い声にずくりと腰が疼いた。
「黒ちん、ちょっと待って。ねえってば」
「や…ぁ、もっと」
「ちょ……んっ」
抗議の声は再び落ちてきた唇によって封じられた。ぬるっと入り込んできた舌がチロチロと紫原の歯列を舐める。技巧的にはまだまだ未熟だがどこでこんな知識学んできたんだと言いたい卑猥な仕草だった。
「ちょっと待って、何この拷問」
頭をかきむしりながら甘い誘惑に耐えているのは紫原だ。ソファーに座った己の膝に向い合せで座ったまま頬に、額に、唇にと口づけを落として行くのは帝光苑の名物従業員。黒子テツヤである。
愛らしい外見に反して非常に男前な性格で、間違ってもこのように男にしなだれかかって甘えるような人間ではない。むしろ普段から子供のように甘えてくる大人を甘やかす立場だ。
そんなテツヤが、今、紫原の膝に乗って口づけを強請っている。天地がひっくり返ってもあり得ない事態だが起きてしまったのだ、実際に。原因は紫原の持ち込んだ試作品であることは間違いない。
紫原が帝光苑を訪れる理由はテツヤに新作を試食してもらうためである。
甘味に関しては紫原も驚く程センスの良いテツヤの意見は商品を開発する上でとても助かっている。何しろこの見世にはテツヤだけでなく舌の肥えた遊女達が大勢いるので、試作品の感想を集めるには最適なのだ。洋菓子の購買客の八割が女性客であるため女性の意見は無視できない。
大量の試作品を手に帝光苑に向かい、テツヤと遊女に新作の意見を聞くようになってから店の売り上げは右肩上がり。従業員からはアドバイザーとしてテツヤに給料を払うべきではという声すら出てくる程テツヤの貢献度は高い。一度そう話してみたのだが「友達と美味しいお菓子を食べてるだけなのにお金貰うなんておかしいです」と一蹴されてしまった。それを言ったら友達に会うために大枚はたいて遊郭に来ていることがそもそも矛盾するのだが、そこはそれ、商売だからとテツヤはあっさり言い切った。お世話になっている店の売り上げの方が重要なテツヤである。彼の価値観ははっきりしている。
テツヤが言うように紫原とテツヤの関係は友人だ。そこに色恋は含まれていない――――はずだったのだが。
「ふふっ、紫原くんの唇は甘いですね」
「ちょ、本当マジ勘弁して…」
ペロリと紫原の唇を舐めて上目遣いで笑うテツヤの姿はひどく蠱惑的だ。流石歴戦の遊女を日々見ているだけのことはある。門前の小僧ではないが一緒に暮らしているだけで男を惑わせる術を身に着けてしまったのだろうか。
とろんと蕩けた眼差しとほんのり上気した白い肌に思わずむしゃぶりつきたくなるのは男として無理はないと思いたい。
何が楽しいのかテツヤはくすくす笑いながら紫原の首筋に顔を埋めている。時折甘い痛みがすることから恐らくキスマークを付けているのだろう。何これと呟きたいが原因は分かっている。紫原が持ってきた新作菓子が原因だ。
季節の果物をふんだんに使ったフルーツタルトにレモンを効かせたチーズケーキ。甘酸っぱいベリーが入ったフォンダンショコラ、プリン・ア・ラ・モードにその他焼き菓子の数々。いつもよりも大量に持ってきたものの中に洋酒を使ったものが紛れていた。
紫原は己の手の中にあるものを見た。綺麗に焼きあがったブラウニー。紫原の作る焼き菓子はテツヤの好みなので新作でなくても持ってくることが多いのだが、今回のブラウニーはいつもと違い洋酒が効いていた。大人向けにラム酒を入れていたのだ。香りづけ程度ではなくしっかりと。未成年で酒を飲んだことのないテツヤには少々どころでなく強いアルコール度数に、テツヤは一口で酔っ払った。それだけならまだ良いのだが、テツヤの酒癖が悪かった。ハイになるとか眠るとかならまだマシだったのだが、まさかの絡み酒。しかも性的にとくれば、流石の紫原とて驚くというもの。
小さくカットされたブラウニーを美味しそうに食べているテツヤを見て、自分も食べようと手を伸ばした時に感じた違和感は一口食べて確信に変わった。鼻に抜ける酒精の香りに間違えて持ってきてしまったのだと理解した時には既に遅く、隣を見ればアルコールのせいで目を潤ませて頬を上気させたテツヤがそこにいた。慌てて取り上げたものの酔っ払いと化したテツヤに紫原の声は届かず、寄越せと強請ったテツヤの目の前で己の口に放り込んだ結果が先程の暴挙である。
「黒ちん、ね、これ黒ちんにはお酒が強いから他のを食べてよ」
「やーだー。ぼくのブラウニーかえしてください」
「だから、酒入ってるって言ってんじゃん。黒ちん完璧酔ってるよね」
「よってないれすぅ」
手を伸ばして残りのブラウニーを奪おうとしているテツヤを押さえ付けるのは簡単なのだが、驚く程の色香につい手が止まる。
正直に言おう。子猫のようにすりすりと紫原に甘えながら菓子を強請る姿を手放すのは惜しいのだ。
テツヤの目の前でブラウニーを食べれば奪うように口づけてくる。小さな舌で紫原の口内を一生懸命探る姿は何ともいじらしく、そして淫靡でつい魔がさしてしまいそうになる。勿論渡してしまったら最悪急性アルコール中毒で病院送りになる可能性があるので渡すことはできないのだが。
「はい、おしまい。もう全部食べちゃったよ」
「えー、紫原くんのけちー」
「ほらほら、イチゴ味の生チョコだよ。あーん」
「あーん」
テーブルに置いてあったガラスの器に入っているチョコレートを一欠片摘まんでテツヤの前に差し出せば、慣れた仕草でパクリと口に含んだ。その姿はいつもと同じようで少し違う。
「…何で俺の指まで一緒に食うのさ」
「ふふ」
「やだこの子怖い」
チョコレートごと咥えられた紫原の指にテツヤの熱い舌がぬるりと絡む。何この小悪魔と紫原は心の中で呟いた。
紫原は知らない。以前テツヤが遊女の一人に同じようなことをした際に「こうするとお客様悦ぶのよ。一度やってみるといいわ」と言われたことを再現しているだけなのだということに。
理性が崩壊する音がどこからか聞こえてくる。かなり酔っているテツヤはどうせ明日になればケロリと忘れているだろう。仮に覚えていたとしても紫原を責めることはできまい。どう見ても誘っているのはテツヤだ。
紫原はテツヤの身体を抱きしめる。脱力した身体はすっぽりと紫原の腕に収まった。
「ねえ、黒ちん」
「? なんですか」
「俺と、イケナイことしようか」
「ふふ、いいですよ」
あっさりと頷いたテツヤの身体を抱き上げて寝室へと運んだ。
◇◆◇ ◇◆◇
「ひゃ、あ…んっ」
「黒ちん、かわいー」
テツヤの肌は思っていた以上に極上だった。肌理の細かさや色の白さはどの遊女にも負けないだろう。黄瀬や青峰が一度試してみたいと言っていた理由が良く分かる。実際紫原もテツヤは美味しそうだと思っていた。想像していたような甘い味はしないけれどもっと味わいたくなる麻薬のようなものだと紫原は感じた。
従業員用の簡素な着物を脱がし、その胸に口づける。淡い蕾を指でこねれば細い身体が大きく跳ね上がった。感度も良い。喘ぎ声は少年特有の高い声で下半身を直撃する。
「ねえ、気持ち良い?」
「気、持ち良いです…っ、やぁ、んぅ」
「腰揺れてる。可愛いー」
「や…触っちゃ、駄目です…っ」
未経験の身体は快楽に弱い。それを証明するようにテツヤは紫原の指に翻弄されシーツの上で淫らに乱れている。どこもかしこも弱いテツヤの身体は触れるたびに甘い悲鳴を上げる。まるで妙なる旋律を奏でる楽器のようだと、らしくもなく詩人のような感想を抱いてしまう。
紫原は特に性欲が強いわけではない。魅惑的な肢体の美女と甘味のどちらかを選べと言われれば迷いなく甘味を選ぶだろう。尤も自分が気に入った相手であれば男女関係なく美味しく頂くのだが。
黒子テツヤは正に紫原にとって甘味のような存在である。小さくて白くてふわふわしてて甘い匂いがする。舐めたらさぞかし甘いのかと思ったがそうでもなかった。だが、小さな唇も白い肌も一度味わったら病みつきになる心地良さを持っている。下肢に手を伸ばせばくちゅり、と濡れた音が響いた。未成熟なそれを紫原の大きな手が扱く。耐性のない身体はすぐに絶頂を迎え、すっかり快楽に染まったテツヤはすすり泣きをしているが手を止めるつもりはない。
双丘に手を伸ばし誰も触れたことのない箇所を触れた。第一関節まで埋めて慣らすように小刻みに揺らせば声に悦が含まれるようになった。気持ち良いかと問えばふるふると首が振られる。だが苦痛だけではない証拠にテツヤの分身からは先走りの体液が零れている。
時間をかけて解してみたものの、指一本がやっとだった。これでは紫原は到底受け入れることはできない。身長に見合うだけのサイズを持つ紫原のそれを受け入れることができる人は遊女でも中々いないのだ。テツヤの細い身体では到底無理だ。だが快感を分かち合う方法は何もそれだけではない。
身体を反転させて後背位の形にすると太腿の間に己の怒張を挟んだ。所謂素股というやつである。ドクンと脈打つそれがテツヤの幼い分身と擦れてテツヤの背が弓なりにしなる。
「やっ、あぁっ」
「うわ、柔らかくて超気持ち良い」
「あ、熱い…」
紫原が腰を動かすたびにテツヤが耐え切れないと涙を流す。だがその腰は物欲しそうに揺れて紫原を誘う。押して、引いて、突いて。まるでナカに入っているかのような強い刺激に紫原も止めることができない。背後から手を伸ばして胸を愛撫すればテツヤはか細い悲鳴を上げて達してしまった。後を追うように自分もテツヤの太腿に白濁を放つ。正直一度きりの射精では物足りなかったが、くったりとシーツに沈んでしまったテツヤを見れば続きは無理そうだ。テツヤの身体を丁寧に清めてシーツを整えると用意されてある寝間着に着替えてテツヤの隣に滑り込んだ。ぎゅっと抱きしめると無意識にすり寄ってくるのが堪らなく可愛い。
「お疲れ様、黒ちん。今度は最後までしようね」
額に口づけてそう囁き、紫原はやがて襲ってきた睡魔に身を委ねた。
さて、これはどういうことだろう。抱き枕状態のままテツヤは頭を悩ませていた。
紫原と一緒に寝るのはいつものことだ。抱き枕にされるのも。
だがテツヤはベッドに入った記憶がない。覚えているのは一緒にケーキを食べたところまでだ。紫原が用意した新作スイーツを頬張った当たりで記憶がすこんと消えている。それはもう見事な程に。
何があったのかと思い出そうとしても無理なものは無理だ。記憶の欠片も見つからない。悩んだ結果テツヤは匙を投げた。思い出せないのだから寝てしまったのだろうとあっさり自分の中で結論つけることにした。まさか酔っ払って男を誘惑して挙句の果てには喰われたのだとか微塵も考えていないところがテツヤである。
「紫原くん」
「ん〜………」
「起きてください、紫原くん」
「な〜に〜。眠い〜」
「朝です。時間です。起きてください」
「む〜」
べしべしと胸板を叩いて紫原を起こす。遊郭には門限がある。陽が高くなっても遊郭に居続けるのはあまりよろしくない。主にテツヤの勤務体制的な問題で。
紫原が起きないのは別に構わない。数日居続ける客も多くはないがいるし、紫原は『キセキ』だ。多少の融通は利く。
だがテツヤは駄目だ。一晩という契約で買われた身ではあるけれど、朝は従業員と一緒に朝食を食べる約束なのだ。その後は遊女のお姐さんの世話がある。今日はさつきと芝居を観に行く約束なのだ。遅れたら可哀相ではないか。
「ほらほら、早く腕を離してください」
「う〜、黒ちんいじわる」
「時間ですからね。はい、起きて」
愚図りながらも起きた紫原の身支度をして特別室から送り出す。
「昨日は途中で眠ってしまってすみませんでした。この埋め合わせは次回必ず」
「うん。次はもっと一緒に楽しもうね」
にやりと笑った紫原の姿に何となく嫌な予感がしたものの、テツヤは約束と指切りをして帰っていく紫原を見送った。
「…何か、腰がだるいかも?」
その理由を知っているのは紫原ただ一人である。
- 15.11.23