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遊郭シリーズ番外・赤司&黄瀬編


この話には18歳未満の方が閲覧になるには不適切な内容が書いてあります。
18歳未満の方やBLが苦手な方は閲覧をおやめください。
ご覧になった後での苦情は一切聞きませんのでご了承願います。
大丈夫な方はレッツスクロール。































































































帝都最大の花街にその店はあった。
最高の贅を味わえると人気の高級遊郭『帝光苑』。
一回の花代が他店では数人の遊女を借りられる程の高額だというのに、その店には客足が絶えることはない。
最上級のもてなしと奉仕を受けられるこの店は、店の規模や遊女の質が他店とは比べものにならない程に良く、そのため誰もがこぞって大金を片手に遊女を買いに来るのだ。

特に、野心に身を焦がす男にとって、帝光苑は一種のステータスでもあった。

身一つで財を成そうと帝都にやってくる人物は多い。
そして己の才覚と運を味方に巨額の富を築く者の数もそれなりにいる。
だが、そんな彼らが帝都で成功したと評価されるためには、帝光苑で常連になることが必要だと言われているほど、その遊郭は花街のみならず帝都でも名を馳せていた。
帝光苑で高位の遊女を買えないようでは成功者とは呼ばれないのだ。
更に人気の遊女には常連客が多く、同じ遊女を求めにきた客が重なることは珍しくなく、そういう客を待たせておくための待機室があるのだが、勿論そこに集まっている客の誰もが帝光苑の常連である。
待機室はそれなりに帝都で高い地位についている男たちに約束をせずとも会える唯一の場所と言ってもいい。。
待機室で彼らと誼を通じることもできるため、帝都で成功を目指す者は多少の無理をしてでも帝光苑に足を運ぶのだ。
そこで得た誼を通じて成功する者しない者は様々だが、生憎帝都はそれほど簡単に生きていけるような場所でないことだけは記しておきたいと思う。

さて、帝光苑が多くの遊女を抱えているのを知らない者はほとんどいないが、その中でも数名とびきりの美女がいるのを知っている者はごく一部である。

たとえば、桃姫。
春先に花開く桃の花のように清楚かと思いきや、冷え冷えとした空気の中でも凛と咲き誇る気高さを持った帝光苑最年少の遊女。
彼女の気位の高さは帝光苑でも随一で、滅多に客を取らないことで有名だ。
だというのに毎晩彼女の下に通う男は後を絶たない。

更には、翡翠姫。
帝都には珍しい碧の瞳を持った遊女で、男を蕩けさせる抜群の身体の持ち主だ。
「その肢体はまさに芸術だ」と、幸運にも彼女を買うことが出来た男は口を揃える。

そして、帝光苑の中でも秘匿中の秘匿と言われる遊女――黒姫。
その素性も素顔も知っている客はほとんどいない。
従業員の中でも知っている者はごく僅か。
それほど奥に隠されている遊女だ。
一晩で家一軒が買えると言われるほど高額な花代がかかる彼女を買うことが出来るのは、僅か5名。
遊女達が暮らす母屋ではなく、少し離れた特別室と呼ばれる場所に住まう彼女は一部の遊女から、『花街の守り神』や『帝光苑の座敷童』などと呼ばれることもある。
1人だけ特別扱いの彼女を揶揄した表現であるが、それを否定する人物は今のところ出ていない。



そう、彼らは分かっているのだ。
彼女――黒姫の存在があるからこそ、この帝光苑は存続されているのだと。



そうして、本日もまた特別室に続く扉が開かれて、鮮やかな色彩を纏った美丈夫が招き入れられる。










「やぁ、『黒姫』。気分はどうだい?」

鮮やかな紅の色素を纏った青年が、室内に佇む和服姿の少女へと声を掛ける。
遊女は基本的に和装に身を包んでいる。
帝都では洋装も珍しくなくなっているとはいえ、日本女性の美しさを引き立てるのはやはり和装が一番で、花街の遊女のほとんどが日常的に和装を身に着けている。
黒姫も例に漏れず和装なのだが、高位の太夫などが身に着ける打ち掛けではなく、1000年ほど過去に貴族の姫君が来ていた十二単に身を包んでいた。
これは何も黒姫が好んでいるものではない。
黒姫の顧客である赤髪の青年が彼女にそれを着せるようにと命じたからだ。
儚い雰囲気を纏う黒姫にはこの上なく似合っているが、総重量は15kgを超えるため着付けられた黒姫にとってはたまったものではないが、遊女が顧客に逆らえるわけがないので着る以外の選択肢は存在しない。

着飾った黒姫に青年が上機嫌でそう声を掛けるが返事は返ってこなかった。
それはいつものことなので青年も特に不快には思わない。
青年の目には脇息に凭れて窓の外を眺める後ろ姿だけが見える。
初めて会った時は肩につかない程度だった髪は、ずっと伸ばしているせいでようやく背を覆う長さまで届いた。
従業員によって丁寧に梳かれている髪は癖一つない艶やかな空色で、離れた場所にいる青年の目からもその絹糸のような輝きは見てとれる。
脇息に添えられている手は、重いものなど持ったことのないかのように白く細い。
とても数年前は荒れ放題だった手には見えない。

「黒姫」

青年が再度名を呼んだ。

「客が来ているんだ。遊女としてやるべきことがあるのではないかい?」
「―――――――」

そう言われて、黒姫と呼ばれた少女はゆっくりと振り向いた。
髪と同色の瞳は飴玉のように綺麗だが、その中では隠しきれない憤怒が浮かんでいた。
愛らしい唇が辛辣な言葉を吐く。

「あぁ、またいらっしゃったんですか。相変わらず無駄に金と時間を持て余しているようですね。憎まれっ子世に憚るとはまさにこのことでしょうか。僕は君の顔を見てすこぶる機嫌が悪くなりました。とっととお帰りくださいませ」

一息にまくしたてると、もう用は済んだとばかりに黒姫は再び視線を窓の外へと向ける。
高台にある帝光苑は眺めが良いことでも有名だ。
母屋ほどの高さはないけれど、特別室は3階にあるため眼下の眺めはとても良い。
本当ならば窓際で眺めたいものだが、それをするには己の足に繋がれている枷が邪魔をした。
それでも少しでも外の世界に近づこうと黒姫は身体を動かした。
途端に聞こえるジャラ、という金属音に眉が顰められる。
黒姫の足には無骨としか言えないほど太い鎖によって一定以上の距離を動けないようにされているのだ。
それは屋敷からの逃亡や窓からの投身自殺を防ぐためのものであり、その事実だけで黒姫がこの店にいることが本人の意志でないことが明らかだろう。

それもそのはず、黒姫は騙されて遊郭に売られたのだ――目の前のこの男に。

両親が亡くなり僅かな伝手を辿って帝都へ上京してきたのは、今から2年程前のこと。
黒姫が14歳の時だ。
帝都の駅で連絡しておいた父の友人という男性を待っていた黒姫は、声を掛けてきたこの男性に騙されてこの店に連れてこられた。
そこで風呂に入れられ豪華な衣装と綺麗な化粧を施され――そうしてこの男に犯されたのだ。
抵抗も懇願も意味をなさないまま散々男に嬲られ意識を失い、目が覚めた時から『黒姫』として生きることを強いられている。

「君はこれからずっとこの場所で、僕らのためだけに生きるんだ」

男は誰もが見惚れる美貌で恐ろしいことを黒姫に告げた。

その言葉の通り、黒姫は文字通り「飼われて」いる。
ほぼ毎晩やってくるのは、目の前の男性――赤司征十郎。
彼が黒姫の所有者であり顧客だ。
そのため黒姫を指名できるのは、赤司が認めた人物だけと限られている。
今のところ黒姫が相手をするは赤司を含めて5人。
最初の頃は己の身に降りかかった災難に毎日を泣いて過ごしていたのだが、いくら泣いても状況が変わるわけでないことに気付いてから黒姫の態度は一変した。

それからというもの黒姫は彼らがやってくるたびに悪態をついて帰れと意思表示するのだ。
勿論本来ならばあってはならないことである。
だが、黒姫は正規の方法で在籍する遊女ではないし、そもそも彼女の所有権は帝光苑にはない。
帝光苑はあくまでも断れない筋からの頼みで特別室を貸し与えているだけであり、黒姫はあくまでも5人の男性――キセキと呼ばれる帝都でも絶対的な権力を持つ男達の所有物なのだ。
逆らえば店を潰される恐怖から、帝光苑の従業員ですら黒姫を庇うことはできない。
不興を買えば殺されるというのが従業員の認識だ。
そのため黒姫はそれを利用することにした。

敢えてキセキを怒らせて、殺されようと。

黒姫が自殺をすれば帝光苑を潰すと言われているため、学のない黒姫が取れる手段はそれしかなかったのだ。

とはいえ黒姫の悪態など可愛いものとしか思っていない彼らには通用しない――特に赤司には。
色違いの瞳が面白そうに細められた。
相変らず学習しない黒姫を愚かだと思っているのだろうか、それともそんな姿すら子猫が威嚇しているようにしか見えていないのだろうか。
どちらにしろ、悪態しかつけない黒姫はどのようなことがあっても赤司に逆らうことはできないのだと彼は知っているのだ。

「可愛い黒姫。無駄なことだとわかっていても牙を剥くその姿勢は愛らしいと思うよ」
「……………」
「だけど、ご主人様は僕だからね。躾はしっかり行わないと」

赤司の色違いの瞳が黒姫を射抜く。
黒姫はこの瞳が苦手だった。
絶対的権力を持つ男だけが持つことを許されている傲慢な瞳。
嫌いだと思うのに逆らえなくなる自分が何よりも嫌だった。

「服を脱いで寝台に行きなさい。今日は久しぶりに涼太も来ているんだ。愉しい夜にしようじゃないか」

赤司の言葉と共に扉が開いて金髪の青年が姿を現わした。
帝都でも珍しい金の髪と琥珀の瞳をした目の醒める美青年である。
このような場所で年端もいかない子供を嬲るよりも、もっと普通の女を選び放題だと思うのに。
何を好んでこのような馬鹿げた享楽に参加しているのか、問うたところでおそらく答えは得られないだろう。

黒姫は何もかも諦めたような表情で立ち上がった。
裳を脱ぎ捨て、唐衣・表衣・打衣・五衣・単衣を上から順番に脱いでいく。
着るのに半時はかかる十二単だが、一本の紐で纏めているだけなので脱ぐのはとても簡単だ。
しゅるりしゅるりと衣擦れの音をさせながら衣服を脱いでいく黒姫の姿に赤司は相変わらず冷静な目で眺め、黄瀬は徐々に露わになってくるほっそりとした身体にごくりと喉を鳴らした。
少しずつ身軽になってくる身体とは裏腹に、心はずっしりと重くなっていくの実感しながら、黒姫は小袖と長袴だけになって寝台へと足を動かした。

2対の瞳が満足そうに細められた。







   ◇◆◇   ◇◆◇







「…っ、……っぁ」

「ふふ、もうこんなに反応してるっスよ」



着物の合わせ目から手を忍び入れてきた黄瀬は、既に固くなり始めている乳首を弄りながら黄瀬が楽しそうに囁いた。
彼らの愛撫に身体が反応するのは、この2年で刻み込まれた快楽のせいだ。
決して自分の本意ではない――――自分と同じ性別を持っている男に嬲られるなど。

『黒姫』とは帝光苑で暮らす際の偽名だ。源氏名と言っても良い。
本名は黒子テツヤ。どこにでもいるごく普通の少年である。
小柄で痩せてて、可愛らしい顔立ちをしているのに愛想が良いとは言えない無表情。
それがテツヤを見た者が抱く第一印象だ。
確かに幼い頃は頻繁に性別を間違われていたけれど、それでも12歳を過ぎた頃からは間違われることもなくなっていた。
とはいえ狭い田舎町のことなので、全員がテツヤの性別を把握しただけだったかもしれないが。
見かけ上はどうであれ身体構造はきちんと男なのだから花街に売られることがあるなどと誰が思うだろうか。
実際好事家の中では女性よりも男性――――特に未成熟な少年を好んで買う客がいることをテツヤは知らない。

何よりも、ごく普通の倫理観しか持っていないテツヤは、男に組み敷かれることを受け入れることができるほど従順ではなかった。
だというのに身体は黄瀬の愛撫に敏感に反応する。
テツヤはいやいやと首を振るが、その反応すら愉しいと手はゆっくりと下降していく。
赤司の手が伸びて長袴の腰ひもを解かれて小袖の裾から白い足が露わになった。
相変らずの白い肌は、帝光苑に来てから格段に良くなった食事情のお陰で本来のハリと艶を取り戻した。
一流の遊女ですら持たない真珠の光沢と絶妙な肌触りは、赤司にとっても予想外だったようで彼はテツヤの肌の感触を愉しむように薄い胸元や白い太腿へと手を這わせる。
そうして黄瀬はテツヤの足の間で存在を主張し出した分身を握り込んだ。

「ひっ、や、あっ」
「あは、かーわいー」
「テツヤは相変わらず敏感だな」

4本の腕がテツヤを追い上げるように弱い箇所だけを選んでテツヤから官能を引きずり出していく。
彼らの好みに調教されたテツヤの身体は否応なく煽られ、堪えきれない涙が空色の瞳から溢れて頬を濡らす。
それを唇で拭う些細な刺激すら快感へと変換されてしまい、テツヤが喘ぐように息を吐いた。

「………ぁ……」
「可愛いね、テツヤは」

懇願だろうか拒絶だろうか、そのまま喉から絞り出されるように紡がれようとしていた言葉は赤司の口によって封じられる。
そうなればもう男たちの独壇場だ。
長い口づけから解放されて、ようやくテツヤは普段は使われているはずの香の匂いがしないことに気が付いた。
初日に恐怖心を薄めるためと称して使われた催淫効果のある香は、それからというもの毎回欠かさず使われている。
常用性のない種類であること、成長期の身体にも悪影響を与えないことから使われ続けているそれは、どうやらテツヤとの相性が良かったらしく、相手が誰であっても焚かれていたものなのだ。
それが今夜はいつまで経っても用意される気配がない。
柔らかい寝具に横たえられたテツヤの視界に映るのは、瞳に情欲を宿した2人の美丈夫。
香が効いている状態ならば気にならなかった視線や笑み、更にはこれから起こるであろう恐怖に身体が強張っていくのがわかる。
正気の状態で男に組み敷かれることだけは避けたかった。
だというのに男達は用意する素振りすら見せない。
テツヤがそれをどれほど嫌がっているか知っているというのに。

「――――やっ」

このような恰好をさせられ、夜毎男を受け入れさせられているとはいえ、テツヤはれっきとした男なのだ。
どうして耐えられるだろうか。
だが抵抗はあっさりと押さえ込まれる。

「テツヤっち。暴れたら危ないっスよ」
「や、やだ…、せめて香を…」
「香ってこれのこと?」

そう言いながら持ち上げられた黄瀬の手のひらには、テツヤが見慣れた香炉が乗せられていた。
こくこくと頷くテツヤに、だが黄瀬は小さく笑って水平になっていた手のひらを傾けた。
バランスを崩した香炉はゆっくりと傾き、そうして大理石の床に落ちて砕ける。


「――――――――――――ぁ」


「今日はそういう気分じゃないし。素面のテツヤッちが俺達の愛撫で蕩けていくところを見たいなと思って」
「な、…で……」
「だってさ、まだ理解していないみたいだから。―――テツヤっちは俺達のものだってこと」

冷ややかな眼差しとは裏腹に、黄瀬の手はテツヤの足を優しく愛撫している。
ぞくぞくと背を這うのは紛れもない快感で、2年以上男に抱かれ続けた身体は正常の状態であろうと彼らの愛撫に敏感に反応するのだ。
そうなるように時間をかけて作り変えられたのだから。他でもない彼らによって。

「あ…っ、あ、やだぁ……」
「ふふ、そう言いながらもテツヤだってまんざらじゃないみたいだよ。相変わらずお前は快楽に弱い」
「やだ、だめっ、許して……」
「許す? 何をだい? 君が懲りもせずに自害しようとすることかい? それとも無駄な断食を続けていることかい? それとも、僕たち以外の男を部屋に招き入れたことかい」
「――――――――――な、んで、それを……」
「この花街で僕の耳に入らないことはないと思った方がいい」
「火神だっけ、そいつ。どうやって『黒姫』の存在を知ったか知らないっスけど、随分とテツヤっちの懐に入り込んだみたいっスね。たかが従業員の分際でいい度胸じゃないっスか」
「何もしてませんっ。彼は、ただっ」
「ただ?」
「あぁっ」

赤司の目がすうっと細められ、それが合図のように黄瀬の怒張がテツヤの秘所に捩じ込まれた。
慣らされていないとはいえ、日々男を咥え込んでいる場所だ。
最初の抵抗を過ぎればそれはすんなりとテツヤの身の内に収まった。

「は…ぁ、相変らずきついっスね。でも、やっぱ最高っス」
「や、はっ、あ…、うそ……」

熱く硬い怒張がテツヤの内部を抉りながら抽挿を繰り返すたび、テツヤの身体に痺れる程の快感が生まれていく。
今日は香を焚いていないのにどうしてと怯えた目が己を組み敷いている黄瀬と、テツヤの頭上でで愉しそうにテツヤが組み敷かれている様を眺めている赤司へと向けられた。
こんなことはただの暴力でしかないというのに、それでも身体は熱を帯び与えられる快感に溺れそうになっているのが信じられなかった。

―――こんなに嫌なのに。

くすり、と赤司が哂う。
そして黄瀬が満足そうに怯えた反応を見せるテツヤの最奥を抉る。

「ひっ…やぁっ」
「ほら、ね」
「ようやく気が付いたかい?」
「…………?」

寝台から下りた赤司が粉々になった香炉の欠片の1つを拾い上げた。
それだけで数百万はするという年代物の香炉だったが、壊れてしまえばただの陶器の欠片に過ぎない。

「あの香には、催淫効果なんて最初からなかったんだよ」
「っ?!」

赤司の言葉に続くように黄瀬が話し出す。
その間もゆるゆると抽挿を繰り返し、黄瀬の怒張が焦らすようにテツヤの性感帯を掠めては離れていく。
望む刺激が得られなくて無意識に動いているテツヤの腰を感じて、黄瀬は満足そうに口の端を吊り上げた。

「あれは俺の知り合いが新しく調香したもので、藤袴を少しアレンジしたものっス。使っているのは伽羅と白檀で、催淫作用は一切含まれてないっスよ。つまり」
「―――――っ」

汗で額に貼り付いた髪を手櫛で梳き、黄瀬の形の良い唇が白い額にそっと押し当てられた。
身体が密着することで体内を抉る角度が変わって弱い箇所に触れ、テツヤは必死で嬌声を噛み殺した。

「散々俺たちに抱かれて喘いでいたのは、テツヤっちの素だったってことっス」



蕩けそうな笑顔で残酷な言葉を紡ぐ男に、テツヤは何度目になるかわからない絶望へと叩き落された。










   ◇◆◇   ◇◆◇










「何これ何これ何これ何これ何これ!! 俺酷っ。下衆いっ。でも、何か色々凄いっス!!」
「うふふふふ。黄瀬様なら気に入って下さると思っていましたわ。今月の裏新刊『籠の鳥〜愛欲の黒姫』いかがです? 前編は監禁凌辱モノで後編は愛憎混沌編ですの」
「既刊も含めて全部5冊ずつ貰うっス!!」
「お買い上げありがとうございます」



目の前で繰り広げられる光景にテツヤは遠い目をした。
室内に散らばるのは装丁も見事な冊子の数々。
帝光苑の遊女は向学心旺盛な女性が多いから書物の類は以前から多い。
かく言うテツヤ自身も、帝光苑で働いていた時は遊女のお姐さんから様々な書物を借りて読破したものだ。
歴史・伝記ものから創作怪奇ものまで幅広いジャンルを揃えている遊女の中でも、最も読書家と言われるのは目の前で艶やかな笑みを浮かべる葛葉という目の前の遊女。
読書好きが高じて作家活動までしているとは聞いていたが……。



「何でキセキの皆さんと僕の男色小説なんですか……」



思わず床に崩れ落ちたテツヤは悪くないだろう。
帝光苑を解雇(という名の身売り)されて赤司に拾われ、現在は赤司の秘書見習いとして働いているテツヤが、久しぶりの休暇で古巣である帝光苑に差し入れを持って遊びにやってきたのが今から10分ほど前。
護衛と称して黄瀬が同伴してきたのは今更なので不平も不満もないが、足を踏み入れるなり葛葉に引っ張り込まれた室内でまさかの事態である。

葛葉は帝都でもそこそこ有名な作家なのだが、彼女の熱心な信奉者は主に花街に集中している。
というのも彼女の得意分野は官能小説。
しかも不遇な人生を送っている遊女が美しい青年実業家に見初められて幸せになる大恋愛話などではなく、俺様傲慢青年やら常勝陸軍大佐やら高貴な血を引く若君やら敏腕外科医やら菓子職人やらに年端もいかない儚い美少年が肉体言語で愛されるという、所謂男色の話が人気を博している異色の作家なのである。
勿論モデルが誰かなんて言うまでもないだろう。
葛葉とはそれなりに親しくしていたけれど、彼女がこんな話を書いていたなんて全く知らなかったテツヤの動揺は大きい。
そうか、だから今日は花街に入るなり他の店でも姐さん方が鈴なりに様子を窺っていたんですね、とか車を降りた時の様子を思い出してちょっと涙目になった。
だというのに「涙目のテッちゃんprpr」とかどこかで声がするのだけれど、本当に泣いてもいいだろうか。

「何ですか、これ…。本当勘弁してくださいよ」

床に散らばる妖しい題名の薄い本を視界に入れないようにテツヤは室の端で竜胆が用意してくれたお茶で喉を潤した。
いつもなら美味しい甘味で機嫌が直るテツヤだが、流石に目の前にこんなにも憂鬱の元があっては復活などできるはずもない。
そんな中で黄瀬は食い入るように『筒井筒〜壊れた関係 黄×黒』とか書いてある薄い本を読んで「うわぁ、黒子っちがエロい…」とか呟いているし、本当にもう一体どうしてくれようか。
とりあえず元凶である葛葉を睨んでみるものの、彼女はまったく悪びれない。
というかテツヤの涙目なんてご褒美以外の何者でもないことにテツヤは気が付いていない。

「だって、目の前にこんな美味しいネタがあるんですもの。物書きとして黙っていられないわ」

葛葉は艶やかに微笑んだ。

「というかこれ明らかに人物特定余裕ですよね。僕もそうですけど、キセキの全員まで実名じゃないですか。これ訴えられたら確実に負けますよ」
「やぁねぇ、テッちゃんてば。依頼主が訴えるはずないじゃない」

あれ、耳が悪くなったかなとテツヤは聞こえてきた言葉を即座に否定した。
だがしかし、幻聴にしろ事実にしろ、とりあえず確認だけは取らなければいけない――己の身の安全のためにも。

「依頼主、だと……?」

どうか幻聴であってくれというテツヤの切なる願いは、あっさりと砕け散った。

「そうよ。こういう話が読みたいって最初に言ってきたのは赤司様ですもの。誰に訴えられても負けるはずのない私、勝ち組」
「………………………」

とりあえず今の雇用主だけど、赤司にイグナイト・廻を抉るように鳩尾に繰り出しても良いかなとテツヤは真剣に思った。
あとついでに興奮しすぎて鼻血を出して床に蹲るそこの駄犬にも。


  • 13.12.09