この話には18歳未満の方が閲覧になるには不適切な内容が書いてあります。
18歳未満の方やBLが苦手な方は閲覧をおやめください。
ご覧になった後での苦情は一切聞きませんのでご了承願います。
大丈夫な方はレッツスクロール。
緑間がソレに遭遇したのは、全くの偶然だった。
名医として名が通っている緑間はキセキの中でも多忙を極め、自由になる時間は少ない。
それでもない時間を捻出して帝光苑へと足を運んでいるのは自分が望んでのことなので、その煽りを受けてどれだけ忙しくなったところで苦にはならなかった。
ただ、1点を除けば。
多忙を極めるということは、すなわち疲労が蓄積されていくということだ。
若いから多少の無理は効くだろうが、それでも積み上げられていく疲労とストレスは相当のもの。
そして、男は疲れると溜まるのである。
生命の危険を感じる状況になると種を残そうとするのは、人間というより雄の本能なのでどうしようもない。
緑間がいくら理性的で禁欲的な生活を送っていたところで、所詮は1人の雄であるため本能に逆らうことは難しい。
本来なら遊郭へ行く時間くらいは作れたはずなのだが、テツヤがいる店で遊女を買いたくないという気持ちが強くて足を運べない。
キセキが行く店は帝光苑という不文律が出来ている以上他の店に行けば少なからず問題が起こるだろうし、一度店を変えてしまえば再び帝光苑に通うことは花街の規律から言って不可能だ。
たった一度の欲の放出のために贔屓にしていた店を失くすつもりはない。
何よりもテツヤと二度と会えなくなる可能性など最初から除外である。
遊女で駄目なら一般の女性に声をかけるという手段もあった。
緑間は帝都でも5本の指に入るほどの名士である。
しかも若くて美形で高収入となれば、玉の輿を狙って寄ってくる女はそれこそ星の数ほどもいた。
中には才女もいたし美女も多い。
だが、彼女たちと家庭を築けるかと聞かれれば、応えは否。
神経質で他人が自分の領域に入ることを厭う緑間には、家庭を持つという選択肢はありえなかった。
そのため女性に誤解をさせるようなことができるはずもなく、更には堅気の女性を一晩だけの相手にするという非道な手段を取るつもりもなかった。
残された手段は自分で処理するか我慢するかの二択である。
(まったく面倒なことなのだよ)
生物学上どうしても避けられない事態であるが、やはり忌々しい。
緑間は自分で自分が制御できなくなるという状況が嫌いだ。
睡眠中は1人を除いて誰も近づけないし、飲酒もそれほど好まない。
当然ながら思考が飛んでしまう可能性のある性向にも消極的だ。
何故かと聞かれても理由などわからないのだから仕方ない。
緑間が寝顔を見せた相手は幼い頃を除けば、両親と相棒である高尾、そして最近お気に入りとなったテツヤぐらいである。
ふと時計を見れば深夜に近い時刻だ。
定時に帰れる事態など年に数回あるかないかなので疑問にも思わず仕事を続けていたが、流石に身体が重い程の疲労を感じて読んでいた資料を閉じた。
急遽舞い込んできた論文製作のせいでここ数日相当の時間を費やされてしまったが、ようやくめどがついてきたので今日こそ自宅に戻って良いだろう。
いい加減簡易ベッドで寝るのは飽きたのだ。
自分よりも先に限界が来た高尾は午前中に点滴を受けて終業時刻と同時に車を呼んで自宅に帰させたため、帰宅するのは珍しく1人である。
車を手配して机の周りを片づけ、そうして鞄を手に病院を後にした緑間は、無人のはずの裏口で蹲る人の姿を発見して息を呑んだ。
「お前は――」
そこにいたのはテツヤだった。
本来なら花街にいるはずのテツヤがどうして帝都の、しかもこのような裏口にいるのか。
大通りならば外灯も多くついているが裏道はお世辞にも明るいとは言えないし、更に言えば治安が良い場所でもないのだ。
夜は特に表街道を歩けないような職業の者が屯していてもおかしくない場所となる裏道は、いくら病院の裏口だとは言え幼い少年が1人でいること自体危険極まりないものだった。
その疑問はすぐに解消した。
「黒子…?」
緑間の声に怯えるように身体を震わせたテツヤは、明らかに「何者かに暴行されました」と言った姿だったのだ。
艶のある水色の髪は乱れ、白い頬には殴られたのだろうか腫れて口元は切れたらしく血が滲んでいる。
何よりもその恰好。
従業員用の仕立ての良い着物は襤褸切れと化し、かろうじてテツヤの下肢を隠している程度でしかない。
素肌が露出している肩や胸元などには夜目でもわかるほどの鬱血が見られるのだから、何があったかなど聞くまでもないだろう。
「緑、間、せ……」
荒い息を堪えて自分の名を呼ぶ姿は哀れとしか言えず、緑間は外套を脱いでテツヤを包み、そのまま抱き上げて車へと乗りこんだ。
治療をするには病院へ戻った方が最適だろう。
だが、病院で治療をすれば証拠が残ってしまうし、夜勤で残る職員の目に留まる可能性もある。
「すぐに着く。もう少しだけ我慢するのだよ」
季節のせいではなくカタカタと震えるテツヤを抱きしめ、緑間は運転手に自宅へと急ぐように伝えた。
身の内に燻ぶる怒りと暗い情念はひっそりと隠したまま。
緑間の自宅は郊外にある瀟洒な建物だった。
近隣住民との接点が限りなく少ない建物を選んだために、門をくぐってから5分ほど走らせないと自宅が見えてこない造りは気に入っていたのだが、緊急を要する事態となっては面倒以外の何物でもないのだと今更ながら気が付いた。
家人は老齢の執事が1人と数名の使用人ばかり。
気が利いて無駄なことをしない有能な使用人ばかりなので、部屋に立ち入らないように、それから風呂の用意をするようにとだけ告げた。
勤続経験の長い彼らは余計な詮索をしてこないので有難い。
緑間はテツヤを担いだまま自室へと入り、ぐったりと力のないテツヤを寝台へと横たえた。
すっぽりと覆われた外套を脱がせれば、それは暗闇で見たよりも遥かに悲惨な状況で、多くの重症患者はおろか強姦患者ですら見慣れている緑間であっても眉を顰めるものだった。
成長途中の細い身体に残る無数の情痕や噛み痕。
抵抗した身体を力で捻じ伏せたのだと分かる傷痕。
更にはどういう意図があったのか最早考えたくない、首に残る指の痕。
下肢は男たちの放った欲望で汚れており、尻から太腿には血が流れた形跡すら残っていた。
途切れ途切れに話される言葉を要約すれば、テツヤはいつも通り帝光苑で仕事をしていたのだという。
常連客の1人を店の外まで見送ってそろそろ勤務時間も終了という時に、突然背後から誰かに羽交い絞めにされ、気が付いたらどこかに連れていかれたのだ。
目隠しをされたためにどこに連れていかれたのかまでは分からないが、おそらくは物音の響かない倉庫のような場所。
そこでテツヤは複数の男に犯された。
当然ながら抵抗はしただろう。
だが、複数の成人男性を相手に未成熟のテツヤの抵抗がどれほどのものだっただろうか。
結果としてテツヤは力で屈服させられ、そして気絶するまで男たちに好きな様に身体を嬲られたのだ。
彼らが満足したのか、それとも時間制限があったのか、意識を取り戻したテツヤは1人で見知らぬ倉庫の一角に転がされていたらしい。
どうやって逃げてきたのか覚えていないが、力尽きて蹲っていたのが緑間の病院だったということは不幸中の幸いだ。
全てを聞き終えた緑間が感じたのは怒りか絶望か。
このような非道を行ったのが自分と同じ性別を持つ男だと言うことに吐き気すら感じる。
生理的欲求は人それぞれだろう。
中には少年に欲情する男がいても不思議はない。
だが、明らかにこれは犯罪だ。
医者としてではなく人として、許せるようなことではない。
「嫌だ、って…言った、んです…。でも、何人も、大勢で…僕……」
「何も言わなくていい。つらかったな。良く…耐えた…」
はらはらと涙を流す姿の儚さに、緑間は華奢な身体を抱きしめた。
散々男に無体を強いられたのだから拒絶されるかと思ったが、テツヤは緑間の背に腕を回してしがみついてきた。
腕の中にすっぽりと覆われてしまうほど小さな身体は、細いけれどとても抱き心地が良く、水色の髪からはふわりと甘い香りが漂うのを感じるのが、実は好きだった。
だが今その身体を覆うのは花蜜のような甘い香りでもなく甘味のような芳しい匂いでもなく、醜い男が放った残滓の悪臭だ。
これ以上テツヤに似合わないものはないだろう。
今すぐにも洗い流したい気持ちはあるが、まずは状況判断が先決だった。
傷の具合はどれも軽傷とは言えないけれど、幸いにも骨に異常がありそうな箇所はなかった。
下肢の傷はやはりひどく、どう見ても強引に捩じ込まれたと分かる裂傷が見つかり、無残に散らされた菊座は赤く腫れて痛ましいことになっていた。
多少は沁みるだろうが入浴させることに問題なしと判断した緑間は、そこでようやくテツヤの異変に気が付いた。
「黒子……」
「ゃ…っ。見ないで、くださ、い……」
緑間の触診にテツヤの下半身が反応を見せ始めたのだ。
職場から拉致されて本人の望まない方法で純潔を散らされ、暴力的な行為で心も体も傷つけられた。
本来ならば拒絶反応すら出ても良いというのに、厭うどころか反応を見せることは常識で考えればあり得ない。
特に強姦被害に遭った者はごく親しい相手であってもひどく怯えるものだから、その奇異さは特に目立つ。
テツヤの口から洩れる荒い息、淡く上昇していく白い肌。反応を見せる下半身。
緑間は躊躇なくテツヤの秘所へと指を差し入れた。
「………ぅあ…っ」
傷に触れないようにしたがやはり痛みがあったのかテツヤが小さく呻いたが、テツヤの秘所は緑間が思う以上にすんなりと長い指を迎え入れた。
指を曲げて掻き出すように動かせば、そこから溢れてくる男の残滓と、明らかにそれとは違う透明な液体。
潤滑を補うためのものだろう、もしかしたら催淫効果が含まれているのかもしれない。
そして過剰な反応を見る限り、原因はこれだけではなく――。
「…何か飲まされたか」
疑問ではなく確信の籠った声に返されたのは無言の首肯だった。
それ以外に説明がつかないのだ。
内服された薬の解毒方法などない。
特に何を飲まされたのかわからない以上、対処の仕様などないに等しいのだ。
解決するにはただ1つ。
掻き出してもどんどん溢れてくる液体に緑間の目がすぅ、と細められた。
「――テツヤ」
「は、い」
「俺はこれからお前が望まないことをするかもしれない。だが、それはあくまでも治療のためで、決してお前を傷つけるためではない。だから、俺を信じて身を委ねてほしいのだよ」
無意識に名を呼んでいた。
普段なら黒子と呼んでいたのに、どうしてかするりと口をついて出たのだ。
安心させるためなのか、それともこの行動に特別な意味があったのか。
真摯な瞳をどう捉えたのか、ゆっくりと頷いたテツヤを緑間は大事に抱えてバスルームへと向かった。
- 13.04.06