夜は長いと言うけれど、規則正しい生活を送る現役高校生にとって、夜とは眠るためにあるもので、ベッドに入って目を閉じればあっという間に終わってしまうものではないだろうか。
少なくともテツヤにとって夜とは健やかな眠りを提供してくれる時間であり、毎日平均7時間は眠るテツヤにとってそれは決して長く感じるものではない―――今までは。
「……眠れませんね」
午後11時には眠りにつくのがテツヤの日課である。
部活動を行っていないテツヤだが家事全般を一手に担っていることもあり、一日を終える頃には疲労感はそれなりに溜まっているため眠りにつくには丁度良い時間帯だろう。
お世辞にも体力がある方ではないので、眠れる時はしっかり眠っておかないと体調を崩しやすいのだ。
そのためテツヤは今時の高校生にありがちな、不規則な生活や夜更かしとは全く無縁の生活を送っているが、規則正しい生活を送っているのにも関わらず身長が伸びないのはどうしてかと悩んでいるのは余談である。
ベッドに入り部屋の電気を消して、あとは寝るだけという状況なのに眠りは一向に訪れてくれない。
成長期に睡眠は不可欠だ。きちんと睡眠を取らないと身長だって伸びない。
ただでさえ小柄なのだ。成長する要素を自分で消すつもりはテツヤにはなかった。
ゴロリ、とベッドの中で寝返りを打つ。
テツヤは基本的に寝つきが悪いわけではない。
むしろ乏しい体力のせいで入浴を済ませる頃には自然と瞼が重くなってくるほど寝つきは良い。
ベッドに入って五秒で熟睡ということも少なくないものだから、こういった事態は初めてである。
とはいえ原因は何となく予想がついているのだけれど。
「…今日で、もう十日ですか」
義父である黄瀬の不在。間違いなくこれが原因だ。
今までも仕事で留守にするのは何度もあった。
地方ロケや海外での写真撮影など、下手したら月の半分は国外にいることだってあったのだ。
今更一人で過ごすのが寂しいとか言うつもりはない。
だけどやはり広い家に一人きりという状況は楽しくない。
普段ならば黄瀬の留守を知った赤司が頻繁に顔を見せたりとテツヤを一人にしないように心掛けてくれているのだが、生憎赤司も地方での対局が続いているためそれも不可能だ。
こういう時に限って緑間は夜勤が続くし紫原は出張中だ。
青峰に至っては海外遠征中であり、テツヤを気にかけてくれる人たちは揃って都内にいないのだ。
さつきや両親の高校の同級生たちは連絡を入れれば会いに来てくれるだろうが、流石に彼らにそこまでの弱みを見せるのは気恥ずかしかった。
実際テツヤが無条件で甘えられるのは黄瀬を筆頭としたキセキだけである。
迷惑も多々かけているけれど、それはお互い様なので気にしない。
時刻は深夜1時を過ぎている。
眠ろうと思ってから二時間が経過しているが、一向に眠くならない。
時計の針の音がいやに耳につくような気がするのは錯覚だろうか。
身体は疲れている。だけど、眠れない。
不眠症の人の気持ちがほんの少しだけ理解できそうである。
尤も彼らの方がより深刻なのだとは重々承知だが。
「……あぁ、もう」
テツヤはたまりかねたようにベッドから跳ね起きた。
眠れない原因が義父の不在にあるのはわかりきっている。
毎日のように抱き枕にされて眠っていたのだ。そのぬくもりがないのが寂しいのだということくらい、いくら鈍いテツヤだってわかろうというもの。
ならば解消するのはただ一つ。
テツヤは黄瀬の寝室へと足を向けた。
広い室内に存在を主張するキングサイズのベッドは、当然ながら特注である。
既製品では190センチ以上ある黄瀬には小さいからというのが理由だが、平均身長のテツヤにとってそれはベッドと呼ぶには規格外な大きさだった。
何しろ大きい。
縦も大きければ横も広い。
紫原が両手両足を伸ばしても不自由しない広さなのだから、テツヤにとってはちょっとした部屋くらいに感じても無理はないだろう。
実際このベッドならテツヤは5人くらい余裕で寝られる。
そのため一人だと余計に寂しさを痛感するので、黄瀬が出張で家にいない日はテツヤは自室のベッドで眠ることにしているのだ。規制のサイズだがテツヤが眠るには何ら不自由はない。
とはいえ自室で眠れないのだから、普段使い慣れているベッドに移るのは当然のことだ。
もぞもぞとベッドにもぐりこみ、いつも眠っている定位置へと治まる。
片側のぬくもりがないのが難点だが、微かに黄瀬の匂いが残っているため何だか安心する。
この匂いに包まれて眠るのがテツヤの日常だ。
匂いとぬくもりと、それから甘い口づけ。
それがないだけで、テツヤの日常は一気に味気ないものへと転じてしまう。
そういえば黄瀬の留守が十日続いているということは、それと同じだけ彼に触れられていないということになると今更ながらテツヤは思い出した。
出発前はこれでもかと求めてくることが多いのだが、今回は時間が押しているとかで寝る時間もないまま笠松に連れていかれた。
その前はテツヤが少し体調を崩していたのでお預けになっていたし、思い返してみれば半月ほどご無沙汰だったかもしれない。
これは帰ってきたら大変だろうと思いつつ、テツヤは布団の中にもぐりこんだ。
そうすると黄瀬の香りに包まれているような錯覚がテツヤを襲う。
恥ずかしくて絶対に言わないけれど、テツヤは黄瀬に抱かれるのは嫌いではない。
引き締まった二の腕に抱きしめられ、全身余すところなく愛撫され、頭の中身がぐちゃぐちゃになるくらいに抱かれるのは、それだけ愛されている証拠のようで嬉しいのだ。
男同士、更には義理の親子という禁忌の間であるということすら気にならないほど彼に溺れている自覚がある。
彼の指がテツヤを煽るたびに、唇が愛を囁くたびに、何よりも彼がテツヤの中に欲情を注ぎ込むたびに、テツヤは泣きそうなくらい幸せを感じるのだ。
「………」
テツヤの手がゆっくりと下肢に伸びる。
黄瀬とのことを思い出したからだろうか、テツヤのそこは既に固くなり先端から蜜が零れていた。
ゆるく扱けば甘い疼きが下半身に広がる。
この行為が『自慰』と呼ばれるものだと知ったのは最近だ。
テツヤは性に対して非常に淡白で、黄瀬との初体験の方が自慰より先だったくらい、そういう行為に興味がなかった。
教えたのは勿論黄瀬である。
自分がいない間に欲求不満になっても平気なようにという名目だったが、あれは絶対にテツヤの痴態を己の脳裏に刻み込むのが理由だったと今でも疑っていない。
何せただでさえ性欲の薄いテツヤが黄瀬の不在に自慰を行う可能性などほとんどないのだから。
実際外泊の前日には限界まで攻め抜かれるテツヤが黄瀬の不在中に自慰を行ったことはない。今回が初めてである。
そのため手つきはとても拙く、己の手で好きに弄れるというのに絶頂には至らない。
快感を感じはするけれど黄瀬に触れてもらう程の強い刺激にはならないのだ。
「や……、ど、して…ぇ…」
もどかしさに腰が揺れる。黄瀬が触れるように弄っているつもりなのに決定的な何かが物足りない。
初心者なのだから仕方ないと諦めるには、身体は熱を帯びてしまっている。
出したい、解放したい。だけど、それより何より、触れて欲しかった。
テツヤにもわかってる。疼いているのは前ではなく後ろなのだと。
自慰より先に快楽を教え込まれた場所が、黄瀬を欲しいと訴えているのだ。
だが、テツヤは自分でそこに触れたことがない。
おそるおそる手を伸ばして見るものの入口に触れるのが精いっぱいで、固く閉じた蕾の先に踏み込む勇気は流石に持てなかった。
「ふ……ぁ」
先端からは快楽を強請るように蜜が溢れテツヤの手を濡らしていく。
普段なら決して感じることのないもどかしさに、じわり、と涙が浮かんでくる。
身体が熱くて、虚しくて、どうにかなりそうだった。
「と…さん…」
切れ切れの声で呟いたのは義父だった。
熱くて、苦しくて、でも自分の力ではどうしようもなくて、無意識のうちに呼んでしまったのだ。
彼が帰ってくるのは早くても二日後だというのに。
淫らに腰を揺らし、あられもなく足を開き、いるはずのない相手の名を呼ぶ虚しさにテツヤの眦から雫が零れ落ちた。
「父、さん…助け、てぇ……」
「了解っス」
「………え」
応えるはずのない独白にやたら明るい声が返ってきたのだ、驚くのは当然だろう。
声のした方向に視線を向ければ、扉に凭れかかって足を組んでいるイケメンの姿。
久しぶりに見る義父の顔がやけに輝いて見るのは、多分気のせいではない。
テツヤは固まったままだ。
「え、な…、と……、えぇっ?!」
「頑張って二日早く撮影終了させてきたっスよ。成田からはタクシーで一直線。父さん、頑張っちゃった」
パチン、と音がしそうな勢いでウインクされて、テツヤは「はぁ、そうですか」しか言えない。何しろ未だ絶賛混乱中である。
どのくらい混乱してるかと言えば、己がどのような恰好をしているか綺麗さっぱり忘れているくらいである。
勿論それを見逃す黄瀬ではない。
「いやぁ、それにしても、良い眺めっスねぇ」
「………………………っ?!」
琥珀の瞳を細めて舌なめずりをするように、黄瀬はテツヤの痴態を眺める。
まるで視姦でもされているかのような視線にテツヤは慌ててシーツを被るが、思い切り今更である。
黄瀬の寝室で、黄瀬のベッドで、黄瀬の名を呼びながら自慰に耽っているテツヤを見て黄瀬が何もせずにいられるはずがない。
何せここ半月ほどご無沙汰だったのだ。
淡白なテツヤですら欲求不満で寝不足になるくらいなのだから、テツヤに関しては万年発情期と赤司に言わしめる黄瀬がテツヤ不足になっていないはずがない。
翌朝の便で帰れば良いと言われてもキャンセル待ちの飛行機に強引に乗り込んだのは、偏に愛しいテツヤに一刻も早く会うためである。
迎えの車を待つのももどかしくタクシーに乗り込み、結構な長距離を飛ばして家まで帰ってきた黄瀬を迎えたのは、まさかのテツヤの痴態である。何て素晴らしいご褒美だと思った黄瀬は悪くない。
羞恥のせいでシーツから出てくることのない小柄な身体をシーツごと抱きしめて、黄瀬の手がゆるゆるとテツヤの下肢へと伸びる。
中途半端に煽られた身体は薄いシーツ越しでも十分に感じるらしく、腰から太腿へと指を這わせれば小さく身じろぎする。
息苦しさから顔だけ覗かせたテツヤの唇を啄み、蕩けたところでシーツを剥ぎ取った。
「あっ」
「はいはい、邪魔なものはどかすっスよ」
未練がましくシーツにしがみつくテツヤの手をあっさりと外して己の背に回させ、距離が近くなったところで深く口づける。
その間にも手は下肢へと伸びてテツヤの分身を弄ぶ。
先程から溢れる蜜はテツヤの手だけでなく黄瀬の手もしとどに濡らし後孔へと伝っている。
これならば潤滑剤の必要はないだろうと蕾へ手を伸ばせば、先ほどテツヤが自身で触れた時には頑なに閉じたままだった蕾がゆっくりと解けていくのがわかる。
するりと入り込んだ指を歓喜するように咥え込み、一本、また一本とそれを歓迎していく。
「や、と…さん、そこっ」
「ん? ここが悦いの? でも、こっちのが好きだよね」
「やぁ…んっ、そこ…凄い…っ」
打ち上げられた魚のように淫らに跳ねる身体を腕に閉じ込め、解した後孔にすっかり臨戦態勢の怒張を押し当てた。
ごくり、と唾を呑むのはテツヤだ。
黄瀬も限界だったがそれ以上にテツヤの方が限界だったらしく、後孔に感じる熱に瞳が潤んでいる。
こんなテツヤを見るのは初めてで、半月我慢すればこの艶姿が拝めるのかと思わぬ発見に口の端を持ち上げた。
とはいえ黄瀬が半月我慢することなど余程の異常事態でない限りありえないので、これから先この艶姿を拝める日が来るのはいつになることか。
ぐ、と押し込めば甘い嬌声が喉を突いて出る。
相変らず狭いそこは久しぶりということもあって痛みすら感じる程だが、テツヤは痛みより快楽が勝っているらしい。
なるべく負担にならないように侵入し、テツヤの感じる場所を抉るように抽挿を繰り返した。
久しぶりの行為に手加減する余裕もなかった黄瀬は、心の欲するままにテツヤの内部を穿ち揺さぶり、思う存分テツヤのナカに欲望を吐き出した。
テツヤもそんな黄瀬を歓迎して望むままに痴態を披露し、言われるままに淫らな言葉を口にした。
半分以上意識がぶっ飛んでいたんです、と後になってテツヤが後悔する程には濃密で淫猥な時間を過ごし満足して眠りについたのは東の空が白み始めた頃。
夕方になってようやく目覚めたテツヤが学校を無断欠席したことに気付いて落ち込むのだが、目覚めた途端またもや組み伏せられたテツヤは翌日も学校を欠席することになることを知らない。
- 13.12.28