青年の脅迫としか取れない申し出を断る選択肢はテツヤにはなかった。
自身が笑い者になるだけならばまだ良い。
だがテツヤが笑い者になるということは家族をも嘲笑の的にさせてしまうということで、そうなれば名門摂関家である権大納言家の名は地に落ちてしまう。
将来は左大臣にと言われている父や、若手では一・二を争う出世株の兄にも迷惑をかけてしまうだろう。
華やかに見えても権力欲が強い宮中のこと、数日後には父も兄も失脚して都落ちということとて否定はできない。
宮中がどれだけ陰謀渦巻く場所であるか、誰もが知るところなのだから。
テツヤ1人が耐えれば何もかも穏便に済むと言われれば、どのような理不尽な要求であろうと受ける以外に選択肢はない。
とは言っても素直になれるかと言われれば話は別で、テツヤは固く唇を引き結んで男の唇を受け止めた。
決してそれ以上の侵入は許さないと言わんばかりに閉ざされた唇に、青年は触れ合わせたままくすりと笑う。
ささやかな抵抗だと思っているのだろう。
そんな余裕のある仕草すら頭に来る。
テツヤは一瞬前まで感じていた青年への好意を全て投げ捨てて目の前にいる青年をじろりと睨みつけた。
大我を助けてくれたことには感謝している、だがそれだけだ。
己の身だけでなく家族の命運すら人質に取るような下劣な男なのだと分かった以上、テツヤが感じるのは嫌悪しかない。
だが、その憎悪と嫌悪があるからこそ、テツヤは青年に組み敷かれても逃げずにいられるのだ。
テツヤが男に組み伏せられるのは、不本意ながらこれが2度目である。
1度目の青峰の君の時は困惑と恐怖で身体が動かなかった。
乳姉妹である小桃が異変に気づいて声を上げてくれたから未然に防げたが、彼女が傍にいなければテツヤは今頃男だと露呈して大騒動になっていたことだろう。
あの時は男に組み伏せられている現実よりも自分の性別がばれることが怖くて仕方なかったが、今回は違う。
目の前の美丈夫はテツヤの性別をわかっていて、それでも尚テツヤを女のように抱こうとしているのだ。
酔狂だと思う。悪夢だと思う。
一体なんでこんな事態に陥っているのかと思いを馳せれば、そもそもの元凶は自分なので何とも言えない。
これぞまさに自業自得かと投げやりになってしまうのは許してもらいたい。
着物の合わせに手を差し込まれても無表情を貫いて余所事を考えているテツヤに、流石の青年も不快そうに眉を顰めた。
「随分と余裕があるんだな」
「貴方の要求をお受けしましたけど、心まで渡す謂れはありませんから」
「――強情なのは嫌いじゃないよ。その強情がいつまで持つか楽しみだ」
袿を脱がされ単衣を肌蹴られ、むき出しになった肩に触れる空気がこれから己の身に起こることを予兆させて息を呑んだ。
男同士で何をされるか、正直テツヤにはわからない。
だって、自分には女性のように男を受け入れる場所などないのだから。
物語では男女の営みは描かれていても同性同士の営みは描かれていない。
そういえば源氏物語の一幕に光君と少年の関係を匂わす描写があったにはあったが、詳しく書かれていなかったからどうなるのか本当に想像がつかない。
青年の手が明確な意図を以てテツヤの肌の上を滑っていく。
感触を愉しむようにゆっくりと鎖骨や胸元や脇腹を移動し、そうしてテツヤが反応を示した箇所に印をつけるかのように唇を落としていく。
むず痒いようなくすぐったいような感触に知らず身体は逃げようとするが、青年の腕が許さないというように上から押さえつけられた。
「―――っ、ふ、ぁっ」
薄い胸の頂をペロリと舐められて耐えきれない声が喉から洩れた。
自分のものとは到底思えない鼻にかかった甘い声に羞恥で頬が朱に染まる。
慌てて口を押さえるものの青年の耳にはしっかりと拾われてしまったようで、形の良い唇がやんわりと弧を描いた。
「随分と感じやすいようだな」
「か、関係ないでしょうっ」
「悦い声だ。もっと聞かせてもらいたいね」
「お断りし…っ、んっ」
的確にテツヤが感じる箇所を探り当て執拗に責めてくる指の動きにテツヤがいやいやと首を振るが、逆に相手を喜ばせるだけだとテツヤは気づかない。
青年は喘ぐように息をつくテツヤの唇を塞ぎ、歯列を割って小さな舌を絡めて吸い上げる。
内部からざらりと上顎を撫でられてぞくりと肌が泡立つ。
不快とも快感ともつかない奇妙な感覚が背筋を伝わり脳髄を痺れさせていく。
「や、あぁっ、ふ、ぅんっ」
驚き逃げ惑う舌を追いかけ腔内を蹂躙すれば、慣れない身体はあっという間に陥落する。
こういう行為の知識がないのもテツヤには災いした。
未知の行為に身体が過剰に反応していくのを止める方法を知らないのだ。
混乱する頭は恐怖と快感の狭間でどうして良いかわからず、与えられる快感を甘受することしかできず、テツヤの眦から透明な雫が零れていく。
潤んだ水色の瞳、上気した頬。幾度も蝕まれて赤く濡れた唇。
荒い息すら男を煽る要素としかならず、青年の目を愉しませる。
抵抗は意味をなさず、テツヤの身を覆うのはほとんど脱げかけた単衣のみ。
それも下半身を申し訳程度に覆っているに過ぎず、家族の誰にも晒したことのない部分まで青年に見られているという羞恥がテツヤの肌を更に朱に染め上げていく。
「や…もぅ、やめ……」
「駄目だよ」
青年の身体の下から何とか逃げようと這う腕をあっさりと握り込まれて、テツヤは小さく悲鳴を上げた。
怯える瞳に映るのは、情欲に濡れた色違いの瞳。
決して逃がさないとその瞳が語っていた。
青年の唇がテツヤの耳元に寄せられる。
吐息が耳朶を擽り、残酷な言葉がそっと囁かれた。
「君は僕に抱かれ、妻となるんだ」
見開かれた瞳から、再び涙が溢れて頬を濡らした。
◇◆◇ ◇◆◇
「ふぁ、ぃやぁ……っ」
「ふふ、テツヤの身体はどこもかしこも甘いんだね」
「やぁ、そんなっ、舐めない、で…ぇ」
「だって、こうされるの好きだろう」
「あっ、あぁっ、や、ん」
ぐちゅぐちゅと厭らしい音が周囲に響き、テツヤを聴覚からも犯していく。
同時に胸と下半身を責められては初心者のテツヤはたまらない。
あっという間に白濁を放った下肢はそれでも解放されず、一向に止まる気配のない青年の口淫によって痛いくらいの快楽をテツヤに与えていた。
解放されてはまた煽られ絶頂へと追い上げられていく。
青年の手で、口で、一体幾度解放させられたのか、もうテツヤにはわからない。
そもそも回数など数える余裕などなかったし、断続的に続く快楽で思考回路は疾うに蕩けてしまっているのだ。
いつの間にか後孔に侵入を果たした指が更にテツヤを苦しめる。
最初は1本、前に与えられる快感に紛れるように侵入してきた指はやがてもう1本増やされ、今では3本の指が内部で自由に動いてテツヤの身体を作り変えていく。
苦痛と圧迫感しか与えなかったそこがゆっくりと解けていき、やがて本人の意識とは裏腹に与えられる快感をもっとと強請るように淫靡な動きで青年の指を絞めつけているのだが、半分以上意識が飛んでいるテツヤは気づいていないだろう。
身体の奥から聞こえてくる水音も、最早テツヤを煽る要素の1つでしかない。
「は、あっ、やだっ、だめ、も…ぅ」
「まだだよ、テツヤ。もっと僕を感じるんだ」
「ひ、や、ぁ…っ!」
テツヤのナカを弄ぶ指の1本が、ぷっくりと腫れている箇所を軽く引っ掻いた。
その途端大きく背を反らして絶頂を迎えたテツヤを青年は満足そうに眺める。
何も知らない身体を己の好みに染め上げる作業は思った以上に愉しい。
元々敏感な身体なのだろう、青年が爪弾く度に心地良い音色が唇から流れる様は稀有な楽器を奏でているような気分にさせる。
白い肌を朱に染め、身も世もなく悶えている姿は清らかであればあるほど淫靡な印象が強く、青年の雄を刺激する。
「や、ぁ…、お願い、だから…もう、僕…っ」
「じゃあ、僕の名を呼んでごらん」
「な、まえ…?」
「先程教えただろう」
「あぁっ」
内部を抉るようにぐるりを指を回せばナカはひくひくと淫らに蠢き、その刺激に白い背がのけぞった。
喘ぐように開かれた唇の奥に見える赤い舌が何とも言えず淫靡である。
これで未経験だというから驚きだ。
余程の素質があったのか、それとも青年との身体の相性が良いのか。
後者だと嬉しいのだがと思いつつ、テツヤの答えを促した。
「さぁ、テツヤ。呼んでごらん」
「せ…じゅ、ろ……さん」
「良い子だ。ご褒美を上げよう」
「あ…やああぁぁぁぁっ」
蕩けた眼差しを向けて舌っ足らずに自分を呼ぶ姿がいじらしくて、青年――征十郎は小さな唇に触れるだけの口づけを落とすと、内部を弄んでいた指を引き抜くなり猛った己の分身をテツヤの後孔に捩じ込んだ。
とろとろに蕩けている入口は最初こそ異物の侵入を拒もうと抵抗を見せたが、征十郎の愛撫に応えるように仕込んだ身体は思ったよりも簡単に男の怒張を呑み込んだ。
今まで感じたことのない質量にテツヤは悲鳴を上げるが、内部の性感帯を掠めるように抽挿を繰り返せばあっさりと快楽に染まった。
「…はっ、凄いな」
「や、あ…熱い…っ」
「テツヤのナカも熱くて気持ち良いよ」
「やだぁ…言わない、で」
羞恥と強い刺激にポロポロと涙を流しながら、それでも後孔は征十郎をしっかりと咥え込んで離そうとしない。
初めて味わう身体は正に絶品と称するに相応しいものだった。
時間をかけて慣らした甲斐もあってか痛みは感じていないようで、それどころか征十郎の望むままに震え乱れている。
最初に見せた威勢はどこへ行ったのかと思う程の変わりようである。
尤も未経験の身体には過ぎるほどの快楽を刻み込んだ自覚があるので、それは計画通りなのだが。
妻にすると決めた以上、征十郎が今後もテツヤを手放さないのは確定で、そうなればこれから先も肌を重ねることになるのだ。
どうせならお互い楽しみたいではないか。
見た目以上に強情な一面があるのでどうなるかと思ったものの、この分では上手くいきそうだ。
白く細い身体を堪能しながら、征十郎は思う様テツヤのナカに己の欲望を注ぎ込んだ。
- 13.05.21