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逆転勝利の条件


が全てを終わらせるべく大社にて時を待っているのと同じ時、望美もまたを繋ぎ止めるべく策を弄していた。
協力者は白龍と朔、リズヴァーン。
そして知盛の4人。
何とも不思議な組み合わせだが、事情を考慮したらこうなったのだから仕方ない。
白龍と朔には力を貸してもらわなければならないし、知盛は身内ということで何か役に立てるかもしれないという、ある意味保険的な役割を担ってもらっている。
そうして人材を確保しつつ向かったのは毛越寺。
当然のことながら望美の傍を片時も離れるなと厳命を受けている銀も一緒だ。
最後の封印をあっさりと解除した望美はそのまま帰宅するかと思いきや里野へと足を延ばした。
広い野原。
普段は鍛錬などに使われるらしいが今は人の姿はない。
人が入ってこないように頼んだからだ。
勿論その時の泰衡の眉間は凄いことになっていたのだけれど、どうやら九郎から望美に逆らうなと言われていたらしくあっさりと通ってしまったのが逆に不気味だったのだが。
とりあえず使えるものは何でも使う。
形振りなんて構っていられないのだ。
望美は背後を振り返る。そこにいるのは望美の従者となった銀髪の青年。

「ねえ、銀」
「何でしょう、神子様」

感情がないのかと思うほどに無表情な銀は、望美の前でもあまり表情を変えない。
整いすぎた外見から精巧なロボットではないかと思うほどだ。
勿論この時代にロボットが存在するはずないのだけれど。
望美が銀の人間らしい姿を見たのはたった一度。
あの月の夜だけだ。
あの日から望美は沢山考えた。
どうして重衡が記憶を失ったのか。
どうして真実を伝えないのか。
どうして、は銀の手を取らないのか。

深く思い合っていた2人なのだから、こうして運命の巡りあわせで再会できたというのに、どうしても将臣も嬉しそうではないのだろうか。
知盛の感情は望美には理解できないのでこの際無視しておく。
望美だったら嬉しくてたまらない。
全部投げ捨ててでも選ぶだろう。
望美がを選んだように。

それなのには銀を選ばない。
それどころか明確な拒絶を示してまで遠ざけた。
一度の制止だけでは通じないと思ったのか、泰衡に命令させてまで己から銀を遠ざけたのだ。
あまりにもらしくない行動は、幾度も廻った運命で見たをどこか彷彿とさせた。
何度願っても望美の手を取らなかった
彼女は頑なに平家と命運を共にすることを選び、幾度となく望美の目の前で命を落とした。
ようやくその運命を回避できるかと思ったのにと絶望したのはそれほど前ではない。
だが、望美は決めたのだ。
この運命では、どんな手段を使ってでもを幸せにするのだと。

だからこうしてやってきた。
全ての準備を整えて。

「ねぇ、貴方が一番欲しいものは何?」
「神子様…?」
「教えて、銀。貴方が求めて、求めて、何よりも手に入れたいものは?」

ゆらりと瞳の奥が揺らめいた。
途端に感じるざわりと肌にまとわりつくような不快感。

「…ぅ…っ」

銀の顔が苦痛に歪む。
全身に纏う呪詛の文様。

「やっぱり…」
「み、こ…様…」

が銀を拒絶してから、望美は望美なりに考えたのだ。
そうしてヒントをくれたのは全てを知っているでなくリズヴァーンだったのだけれど。
銀の魂魄に呪詛が刻まれている。
魂魄の中に刻まれた呪詛は解除しようとすれば銀の魂そのものが消滅してしまう仕組みになっているのだと。
そしてその呪詛のせいで銀の感情は全て消されてしまったのだろうとリズヴァーンは言ったけれど、無意識にを求めるあたり心のどこかに残っているのではないかと望美は思っている。
湧きあがる瘴気は己の呼吸すら苦しくなるほどだ。
神子にとって有害となる呪詛の瘴気は、より優れた神子であるにとって猛毒と同じだ。
これをの前で出さないでくれたことに感謝したい。
呪詛の苦しみで膝をついた銀を望美は見下ろす。
頬を冷や汗が伝う。
正直、かなり苦しい。だが、銀の苦しみはこの比ではない。

「銀…いいえ、『重衡』さん。教えて。貴方の望みを」
「わ…たしは…」
「呪詛になんか負けないほどの強い願いを、貴方は持っているはずよ」
「私は…あの方の…お傍に…。、様…」

弱弱しいながらも銀の口からこぼれた名前に望美は頷いた。

も待ってるの。口には出さないけど、あの子は情が深いから、絶対重衡さんのこと待ってるの。だから、重衡さんも戻ってきて」

の持論。『大丈夫にする』『祈りは力』と言った言葉を望美はそれほど信じていなかった。
どんなに願っても叶わないことはあるし、大丈夫なんて容易に言えない。
でも…。

「朔、白龍、リズ先生。力を貸して」
「わかったわ」
「うん」
「お前の望むままに」

龍神の鱗を手に望美は祈りを捧げる。
白龍、朔、リズヴァーンの手が望美の手に重ねられる。
龍の力の影響を受けた者だけにわかる特異な波動。
それを鱗へと注ぎ込んでいるのだが、果たして成功するかどうか。
望美はのように優れた神子ではないけれど、それでも己を信じて全てを託してくれた白龍の目が曇っていたわけでないのなら何らかの力くらいあるはずだ。
龍神の力の引き出し方なんて良くわからない。
根性で何とかなると思ったのだけれど、望美の意志に答えるように淡い光に包まれた逆鱗を見ると成功したのかもしれない。
後はこれが荼吉尼天の呪詛に勝てるかどうか。
勝敗も安全性も、何もかもが未知数。
だが、望美にはこれしかできないのだ。

「重衡さん! 今からちょっとショック療法を行うから、絶対負けないでね! 根性で耐えてね!」
「望美…それはいくらなんでも…」
「だってこれしか方法が思いつかないんだもん! を手に入れたいならこのくらいの苦難くらい乗り越えてよ! そうしたら悔しいけど認めてあげるから! 根性見せてよ! を死なせないためには重衡さんの協力が不可欠なんだから!!」

最後の最後で本音がだだ漏れた望美は、そんな言葉と共に淡い燐光に包まれた逆鱗を重衡の心臓へと押し付けた。
白い閃光と青年の悲鳴が里野を包んだ。


  • 11.10.29