とは言ったものの、現実問題としてどうすればあの死にたがりを止めることができるか、正直将臣にはさっぱりだ。
何しろ我儘を言うのは望美かであって、将臣が彼女達に己の我を通したことなど一度もない。
――訂正、通せたことなどない。
結局将臣や譲は彼女達に甘くて、どんなに反対しても怒っても最終的には彼女達の望みを叶えてしまうのだ。
それはもう物心がつく頃からなので年季は入りまくりである。
「どうしたもんかなぁ」
がしがしと乱暴に髪をかきむしりながら将臣は対策を練る。
ここが平家の本拠地ならばまだしも平泉である。
将臣が動かせる人材は非常に少ない。
そして、その中でもを止めることができる人物となると、本当に手持ちの駒はないのだ。
将臣が知る限り一番歯止めになりそうなのは二位尼や安徳帝だが、遠く離れた土地にいる2人をこちらに呼び寄せる手段も時間もない。
敦盛ならばどうだろうと思い、彼もまた己の運命を一日も早く終わらせたいと思っている1人であるため、を説得という立場には相応しくない。
むしろ大人しい敦盛では一瞬で丸め込まれて終わりだろう。
知盛は論外。
彼の思考は将臣には推し量れないが、に対して絶対服従の様子を見る限り説得は難しいだろう。
そもそも知盛が戦以外で自分の言うことを聞いてくれた例はない。
最も有効なのは望美なのだが、彼女は彼女で何か考えているらしく将臣に協力してくれるかは微妙なところだ。
そして前回同様暴走される危険性が高いため、できるならあまり近づきたくない。
「あいつが正気ならなぁ」
無駄だと思っていてもつい考えてしまうのは、あの銀髪の青年の姿。
を溺愛しつつも己の胸に閉じ込めて離さなかったあの人物ならば、彼女をこちらの世界に留めておくことは可能なのだが。
重衡の独占欲は傍目にはわかりにくいが相当なものだ。
甘く緩やかな束縛で、本人にそうと気づかせることなくの心を手に入れた重衡ならば、の決心ですらも思い止まらせることができるはず。
彼女の全てを肯定しながら、彼女の心を己で覆い尽くし、真綿のような優しさですっぽりと包み込んでいた重衡の懇願を断ることは、流石のでもできないだろう。
殿軍の重衡に命を諦めさせないように求婚を受け入れたことからも容易に推測できる。
だが、それは重衡が『重衡』であることが大前提だ。
残念ながら、今の『銀』では力不足。
『重衡』と『銀』との違いにかえってが苦しむことになるだろう。
討ち取られていなかったことは正直に嬉しい。
だが、どうせなら完全な状態で戻ってきてほしかったと思うのは我儘だろうか。
いや、確かにあの劣勢から生還できただけでも十分過ぎるほどの奇跡なのだが。
「さあて、本当にどうしたもんだろうか」
とりあえず他に候補になりそうな人物は、と候補を上げては却下するという行為を何度か繰り返していた将臣の前にひらりとよぎる見慣れない衣。
黒地のそれは一緒に旅をしていた軍師のものではない。
不機嫌そうな眉間の皺。
頼りになるのかは未知数だが、一応が認めた人物。
将臣はポン、と両手を打った。
「よし、お前に任せよう」
「・・・・・・・・・」
泰衡の眉間の皺がかつてない程に深くなった。
◇◆◇ ◇◆◇
最終決戦の地は奥州平泉。
細部こそ違うが概ねの世界の歴史と同じ道を進んでいる歴史には軽く笑う。
こちらでも数百年も経てばの世界と同じように平家滅亡や奥州藤原氏滅亡などと伝えられるのだろうか。
確かに壇ノ浦で源平の戦は終了した。
だがそれは平家が滅亡したわけではない。
もっとも歴史の表舞台から消えたことに間違いはなく、このまま源氏が天下を取ったならば源氏にとって都合の良い歴史に脚色されてしまうだろうが、それは特に構わない。
だがこのまま大人しく滅ぼされるほどお人よしではない、も藤原家も。
その証拠がこの大社だ。
急遽造らせたとは思えないほど立派な造りのそれは、泰衡とだけが知る、荼吉尼天の檻だ。
餌は。彼女がかからないはずはない。
仏教、それも密教に関しては知識がない。
だから泰衡に一任しているが、彼が失敗をしているとは思わない。
短い期間だがそれだけの信頼は置いているのだ。
見事な晴天。穏やかな平泉の地。
美しいこの地を守るために泰衡が心血を注いだのだ。
それに応えるのがの使命。
今度こそ、必ず。
「」
強い決意を胸に刻むの元へ泰衡が歩み寄る。
その表情には彼女が平泉の地を踏んだのだと知る。
若干表情が固いのは、ただ人が神と対峙するのだから当然だろう。
それともの命運を知ってのことか。
はふわりと笑う。
「大丈夫。大丈夫にしましょう」
それは祈り。
そして、祈りこそがの力の源なのだ。
負けるはずがない。
- 11.10.26