「ということで、『第一回 のお願いなら何でも叶えてみせましょう』会議を開きます」
勇ましい足音と共に戻ってきた望美が開口一番に発したのは、そんな言葉だった。
とりあえずその場にいた全員がぽかんと望美を見るが、そんな反応なんて気にならない。
「私としては源氏を完膚なきまでに叩き潰してやりたいところなんだけど、が望んでないのでそれはやめることにして、代わり頼朝と政子さんには徹底的に後悔してもらおうと思ってます。特に政子さん。を悲しませた罪は万死に値する」
「お前、私情入りすぎ」
「お黙り、将臣くん。政子さん――というか正確には政子さんに憑りついてるモノか、彼女には丁重に日本から出て行ってもらうか封印してもらうかしかないんだけど、流石にそれはどうやったらいいかわからないんだよね。は直接乗り込むつもりらしいけど、そんなの私が許さないので却下。あっちから平泉に来てくれるのが一番いいんだけど」
「貴様! 兄上だけでなく義姉上にまで刃を向けるつもりか!!」
「うるさい、九郎さん。元凶が向こうなんだからこれは正当防衛よ。が命がけで政子さん――というか中の人? 神? を倒すつもりなんだから当然でしょ。今更何言ってるの?」
「だが兄上に…」
「ちょっと弁慶さん。どんな教育してたのよ。ここまで敵視された挙句、謀叛人に仕立てられたってのに、九郎さんは何でこんなにわかってないの」
「それを言われると返す言葉もないですね」
そんなやり取りが行われている中、襖の陰からこっそり覗いているに気付いて将臣が手招きをする。
「おい、。ちょっとこっち来い。ついでに状況を説明しろ」
「えと…私も今の状況の説明がほしいんだけど…」
「望美が暴走した。以上」
「…よくわかりました」
望美が暴走する理由はしかない。
だから元凶はだ。
そう言わんばかりの眼差しに、はがっくりとうなだれながら室内に足を踏み入れた。
しっかり望美の隣に座ることを強要され正座するけれど、周囲の視線が非常に痛い。特に九郎。
何とかしろと視線が訴えてくるが、は心の中で謝る。
ごめんなさい、こうなったら私にも無理なんですと更に小さくなる。
「で、お前はどうしたいんだ?」
「政子さんの中の人をぶっとばす」
過激な発言に目を瞠る周囲を余所に、知盛が追い打ちをかけた。
「ならば奥州の御曹司にも助力を乞うべきだな」
「泰衡さん? 何で?」
知盛の提案に望美を始めとして周囲が首を傾げる。
唯一顔色を変えたのはだ。
黙っててって言ったのに。
「あいつはの共犯だ」
「知盛さん?!」
「何ですって?!」
くつくつと笑う知盛は、明らかに望美との反応を楽しんでいる。
どうやら知盛は望美も大層気に入っているらしい。
尤もとは違う気に入り方なのだが。
他人に興味のない知盛にしては異例のことだ。
知盛は基本的にの行動に関して口を挟んだことがない。
思い返してみればの行動に反対を示していたのは、かなり初期の頃までだった気がする。
の意向を尊重しているのか、言っても無駄だと思っていたのか。
とりあえず、知盛がこうしての意向を無視することは珍しい。
望美がに険しい視線を向ける。
「そんなこと話してくれなかったじゃない!」
「内緒だもん。言えないでしょう」
「この期に及んでこの子は!」
「痛い痛いいたいっ!!」
ぐりぐりとこめかみを拳で小突かれて(いわゆる『梅干しの刑』というやつだ)は悲鳴を上げる。
勿論手加減はしている。
だがこれは少しの力でも相当痛いのだ。
結果涙目になって将臣の背中に逃げる姿は、叱られた子供のようだ。
「うぅ、痛い…」
「自業自得だ」
「将臣くん、ひどい…」
そう言いながらも慰めるようにの頭を撫でている将臣に、嫉妬めいた視線がいくつか送られた。
誰かとは言わない。とりあえず知盛でないことだけは確かだ。
知盛は面白そうに望美を観察している。
「なるほど、奥州か…。ってあれ? 奥州って源氏に抵抗できるだけの力ってあるんだっけ? 歴史で勉強したようなしなかったような…譲くん、どうかな?」
「奥州は確か源氏に攻め込まれてます。確か義経一行を匿ったせいで口実を与えてしまったような…。今の状況と似てますね」
「ん、ありがと。だったら源氏軍は来るかな。やってきたところを返り討ちって感じでいきたいね」
「大丈夫ですよ。一応、実力だけはそれなりにある人が揃ってますからね。春日先輩と先輩を守るために力を貸してくれますよ。勿論、俺も全面協力します」
「ありがと、譲くん」
「泰衡は奥州を束ねる御曹司だ。せいぜいその力を利用するんだな」
「…知盛の言うことに従うのは癪だけど、のためなら何でもやってみる。あぁでも奥州の被害は最小限にしたいな。巻き込むのは良くないもんね」
何やら意気投合しているらしい知盛と望美が不気味だ。
どう考えても気が合うとは思えなかったのに。いや、それよりも問題が1つ。
「ねえ将臣くん」
「何だ?」
「さっきから望美が黒いんだけど…」
「あいつはが絡むと常にあんなもんだろう。今更だ」
「あんなに好戦的だったっけ?」
「知らないのはお前だけだよ」
「とにかく」
ガツン、という音と共に望美が床に剣を突き刺した。
見事な貫通具合に周囲の空気が凍りつく。
ようやく静かになった連中に、望美は笑顔を向ける。
「これは決定事項です。わかった?」
般若になるどころではなく、背後に修羅を背負った笑顔の美少女に逆らうのは自殺行為。
頷く以外に何ができるだろうか。
- 11.03.25