だからって。
はいそうですかと言えるほど望美は聞き分けが良くない。
「嫌」
それはもう見事なまでに綺麗な笑顔で言い切った望美を、はぽかんと見つめた。
「え? あの…」
「だから、い・や。私にとって大切なのはなの。重衡さんなんて人、知らないもん」
驚いたのはだ。
何しろが望美にお願いをすることは滅多にない。
しかも今回は命を懸けた頼みごとだ。
それを嫌、の一言でばっさり一刀両断されたのだから驚くなという方が無理だ。
しかも超いい笑顔。
咲き誇る花のようなという言葉が相応しいほど華やかな笑顔は、事情を知らない人物が見たら間違いなく見惚れるだろう。
だが明確な拒絶を伴っている以上、笑顔の裏に気付かないではない。
「えと…怒ってる?」
「うん、そりゃあもうとんでもなく」
にこにこにこ、と浮かべられた笑顔は極上のものだ。
多分弁慶が目を見開き、九郎が恐怖する程度には。
ちなみにこの笑顔、の前だからこそ無害であるが、将臣や九郎に向けられた場合、彼らの命は保障できない。
「えいっ」
「痛っ」
ついでにとばかりに頭上へ手刀が降ってくる。
勿論手加減はしている。
本気でやったらなんて軽く気絶してしまうから。
「は自分のこと大事にしないけど、本っ当に悪い癖だよそれ。が『お願いw』って上目遣いで頼めば、男なんていくらでも協力してくれるんだから、そのへんはうまく利用しなくちゃ。無駄に体力有り余っている連中が揃ってるし、が命を懸ける以外にも方法は出てくるはずでしょ」
「だって八葉は望美を守る…」
「だったら私が許可出すから全然オッケー。使って、使って。じゃんじゃん使って。特に将臣くん。還内府なんだから平家の姫であるだって守る義務があるでしょう。馬車馬のようにこき使っちゃっていいから」
「え…えと望美…」
「うん、我ながらいい考え。ついでだから九郎さんも存分に働かせちゃえ。に無礼な態度を取ったんだからそのくらいして当然だよね。で、弁慶さんにはもう少しいいお薬用意してもらおう。細すぎだから栄養つけなくちゃ。あ、譲くんにグラタン作ってもらおうね。美味しいんだよ譲くんの料理。さすが主夫」
「あの…」
「そうなったら善は急げ。他に人手あったらじゃんじゃん使わせてもらおう。を守るのは男の義務なんだから」
マシンガントークで口を挟む隙が見つからない。
どうしよう、今まで見たことがないくらい望美が黒い。
あれ? こんな子だったっけ? とか思うの反応は当然だと思いたい。
平家の評定で幾度となく鶴の一声を発していたを以てしても勝てないのは、望美が理性ではなく感情で動くから。
それが悪いとは言わないけれど、駒扱いされた八葉は哀れだ。
しかも仲の良いリズヴァーンと敦盛はしっかり除外しているあたり、流石は望美だ。
ちなみにヒノエはまだ合流していない。
「私にとって一番大切なのはなの。知らない人を無条件で助けられるほど私は立派な人間じゃないし、しかもそれでを失うってわかってたら協力なんてできないのは当然だもん」
「だって…」
「だってじゃありません、って昔からの口癖だったよね。いつだって『大丈夫にする』って言ってたくせに。あれは嘘だったの?」
「嘘じゃないけど…」
「じゃあもう少し頑張ってみようよ。ここには神子が3人もいるんだよ。と私と朔。ついでに源平合わせて実力ある武将がゴロゴロいるじゃない。使えるものは何でも使おうよ。とことんまで頑張って、それで駄目なら諦める…本当ならそれでも諦めたくないけど、まだ可能性は残ってるはずだもん。の遺言なんて聞いてあげないよ」
望美は知っている。
はどこまでも優しく、どこまでもお人よしで、そして、どこまでも望美に甘い。
我儘を言うのは望美。それを許すのは。そして巻き込まれるのは有川兄弟。
子供の頃から変わっていない力関係は、今だって健在のはずだ。
望美は大切なものを簡単に手放すほど心が広くない。
「だからさ」
望美はの手を取って断言する。
「一蓮托生。みんな巻き込んで、そして勝とう」
名案だとばかりに望美はうんうんと頷いている。
困ったのはだ。
望美を怒らせた原因がありすぎてわからない。
久しぶりの望美節に反応が遅れたのが悪かったのか、譲くーんと叫びながら部屋を飛び出していった望美を止めることができなかった。
「…どうしよう」
生まれてからこちらの世界に飛ばされるまでの15年を望美と幼馴染をしていたからわかる。
これは新たな混乱を招く事態だと。
- 11.03.22