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星に願いを


決戦は目の前に迫っている。
三草山の戦い、それはにとっても1つのターニングポイントになるだろう。

戦に参戦できないは本来ならば福原の屋敷で大人しく皆の帰りを待っているべきだった。
平家の姫君、それも清盛が寵愛して結婚すら許さないと言われている深層の姫君を戦に同伴するなどありえないのだ。
実際清盛も重衡も反対した。
誰が好き好んでに血生臭い世界を見せたいと思うだろうか。
だが、が頑として首を縦に振らなかった。
本陣から動かないから、怪我人の看病だけしているからと、あの手この手で説得を重ねて、とうとう清盛を陥落させた。
将臣は最初から匙を投げている。
こうと決めたが誰の言葉も耳に貸さないのは、長い付き合いで嫌というほど知っているのだ。
最後まで反対したのはやはり知盛と重衡。
それでもの決意を覆すことはどうしてもできず。

結果、は三草山にいた。





   ◇◆◇   ◇◆◇





本陣を囮に背後を叩くと将臣が指示を出した。
もそれに頷いた。
還内府と天照の神子がそう進言すればそれはほぼ決定事項だ。
訝しそうな顔をする人も少なくはなかったけれど。
本陣を囮にするということは普段よりも危険が大きくなるけれど、賭けに出る価値はあるはずだ。
源氏の旗頭は源義経なのだから。
この時代の戦のルールを悉く無視して源氏を勝利に導いた男。
こちらが正攻法を使っていては勝てる可能性は低い。
源義経。
多分、望美と一緒にいたあの青年が義経だ。
見たことはない。
噂でも戦上手の美丈夫としか。
それでもわかった。――否、わかってしまった。
望美も、そしておそらく将臣も気づいていなかっただろう。
彼の纏う着物。それは笹竜胆の紋様。
笹竜胆の家紋を身につけた『九郎』と言えば――源九郎義経。
彼しかいないではないか。
こちらの世界に飛ばされて親切な人に助けられたと言っていた。
助けてくれたのは朔。彼女の苗字が梶原。
彼女の兄が『景時』なのだから疑う余地など1つもない。

は天を仰ぎ見る。
いつも思うが、この夜景だけはあちらの世界と何も変わらない。
が住んでいた鎌倉は、海岸沿いは夜になれば綺麗な星空が広がっていた。
子供の頃から将臣や譲、そして望美と一緒によく眺めた景色。
街灯と星空と、穏やかに広がる夜の海。

「懐かしいな…」

思い返せば随分前のように思えてしまう街の灯り。
こちらの世界に来てもうすぐ4年。
それだけ馴染んでいるということか。
戻りたいと思わなくもないが、今はここが自分の生きる場所だと思っている自分がいるのも確かだ。
一緒に戻ろうねと望美と約束した。
反故にするつもりがあったわけではないが、それを守れるかどうかは難しい。

「だって、源氏は敵なんだもの」

源氏と平家は敵同士。
は平家の神子で、望美は源氏軍。
行軍に参加していると思いたくはないが、あの剣捌きを見れば武人として相当の訓練を積んでいるのは明白で、そうなれば彼女が戦に出てこないという望みはとても低い。
平家は公家としての慣習が身に付いているのか、女性を戦に参加させることなど言語道断と思っているが、源氏は違う。
巴御前の例もある。
身寄りのない異世界からやってきた少女1人使い捨てにすることを躊躇う将が、あの源氏にいるだろうか。
残念ながらは源氏に良い印象を抱いていない。
が平家の人間だということも勿論あるが、歴史を知れば知るほど源頼朝という人物に対して好印象を抱けないのだ。
従兄弟を裏切り、幼い甥を処刑し、弟を切り捨て、わずか3代で滅んだその原因。
そんな源氏軍に望美がいることが哀しい。
大切な友人なのだ。
将臣と同じく生まれた時から一緒で、何をするにもどこに行くにも常に一緒だった望美。
一人っ子のにとって双子の妹のような存在で、できるなら敵対などしたくない。
何より将臣と敵対させたくない。

「お願いだから、戦場に出てこないで」

戦場で会わなければ親友のままでいられる。
会ってしまったら――。



「お願い」



は祈る。
叶わないのは分かっているけれど。





だって。





神様はいつだって残酷なのだから。


  • 09.03.12